閑話 ノーラの休日
一人称ノーラ視点です。
薄桃色の薄いカーテンを通して朝の光が差し込んでくる。
天蓋付きのベッドの柱の間には臙脂色のビロードがドレープを作りながら弧を描いて、ベッド全体を床まで覆う薄桃色のオーガンジーのカーテンが爽やかな風に揺れていた。
「ふぁあああ」
寝室の中央に据えられたキングサイズのベッドで目を覚まして、あくびをしながら体を伸ばす。伸ばしすぎて細かい彫刻で埋め尽くされた黒曜石のヘッドボードに手がついてしまった。
枕代わりのクッションを幾つか押しのけて、無意味に高いベッドから降りようとすると薄桃色の光をまとったカーテンが緩やかに二つに割れて、開かれた。
「おはようございます。エレオノーラ様」
「おはよう、アマンダ」
贅美な寝室。ペルシアンカーリの絨毯の上にきちんとそろえ置かれた室内履きに降り立ち、いつものように筆頭側使えさんに挨拶をして蒸しタオルを受け取る。隣の部屋の白磁の洗面台に用意された冷たい水に手をいれて顔にぴしゃっ。うっしゃ、目が覚めたぁ。
スタイリングチェアに座ると、泡立てられた石鹸を陶器の泡立て器からすくい取った軟らかい洗顔筆が顔を触っていく。新しい蒸しタオルで何度が顔を拭われる。「よろしゅうございます。姫様」オッケーが出たので衣装室に隣接するドレスルームに向かう。別の側使えさんが着替えを持って待機しているからせっせとパジャマのボタンを外して下着をつける。いつもは下着の上にコルセットをつけて、キューキューに締め上げあられるんだけど、今日はいつもみたいに豪奢でクラシックなバッスルスタイルの服は着ない。今日は王女としてではなく、中流貴族の娘風の洋服が用意されているから。本当は庶民のカジュアルな服を着たかったんだけど却下された。「お忍びといえどもさすがにそれは……」筆頭側使えのアマンダはわたしの素性を知った上で言ってくれているからそうワガママも言えない。わたしは悪役王女ではないのだ。
いつもとは違うお忍び用の服を着る。
いつもなら最初につけるコルセットはしない。見せる下着スカートもなし。そのかわりスカートをふわっとさせる骨組み、小さめのクリノリンをつける。白いリボンタイブラウスの下に舞台カーテンみたいなベルベットのコルセットスカートをはく。コルセットの上に乗った胸がポワンとして強調されるけど、スカートのティアードがシンプルで、上品で清楚な感じだ。
お嬢様学校の制服でもいけそうだな、これ。コルセットの金ボタンが効いてる。
鏡を見ながらストロベリーブロンドの髪と臙脂色のスカートのバランスを取るのに、スカートと同じ色のリボンのついたカチューシャヘッドをつける。ちょっとゴスロリっぽい。クラロリかな。
うん、いい感じだ。
いつもは、王女様らしくと、これでもかー、くらいゴージャスなドレスを着なくちゃいけなくて、これにはこれってコーデがガッチリ決まってて、はいできましてよ姫さま、おほほ、じゃなくて。自分で考えたコーデを着るのはやっぱり楽しい。
近衛でもある若い女性の側使えさんを伴って部屋を出る。アウラが着ているのはメイドさんの外出着。伝統的っていうよりもちょっとカジュアル。伝統にこだわる傾向は上級貴族のほうが強いからこれもオッケー。
「おまたせー。綾乃ちゃん」
アウラがノックした部屋から綾乃ちゃんが出てきた。わたしよりもシンプルなドレス着た綾乃ちゃんは大人びて見える。うん、綾乃ちゃんらしい。姫カットの絹糸みたいな黒髪がライトベージュの上質なシルクのドレスによく映えている。シンプルなワンピースなのに品がある。さっすがー。
けど、前世と違って前髪に赤いメッシュが入ってるからイヤリングとドレスにもちょっとだけ赤のポイントがいれてある、難しいコーディネートなのによくまとめたなぁ。真珠のネックレスにひとつだけ赤真珠が入っているのもポイント高い。綾乃ちゃんとファッションの話をするのは楽しい。今日のために綾乃ちゃんの部屋に五回は行った。
「どうかしら?」
綾乃ちゃんがくるんと回ってみせてくれる。綾乃ちゃんはひとつひとつの所作が優雅だ。生粋のお嬢様の仕草が自然に身についている綾乃ちゃんなら、王女として転移して来てもきっと何も困らなかったのに。
「うん、すごくよく似合ってる」
ホントにすごく綺麗なんだから綾乃ちゃんは。だからこそ憂いを含んだ綾乃ちゃんはあんまり見たくない。でもここに来てからそろそろ一ヶ月。綾乃ちゃんも大分慣れてきたかな。
わたしと二人だけのときは天使の姿になることもあるけど、ほんの少しでも黒い羽根がまじっているとすぐに引っ込めてしまう。いつも何かを気にしているような綾乃ちゃんも今日は出掛けるのが楽しみみたい。よかった。
本当は二人でぶらぶらお買い物したり、劇をみたり、できればカラオケとかしたかったけど、カラオケはないし、劇は男女で連れ立って観にいくものだし、「警護も側使えも伴わずにお出かけですって!」初めてお忍びで外に出たとき、ハルトぅんとキラナに出かけたときに大目玉をくらったのもあって、今回はおとなしく言うことを聞くことにした。落とし所が大事。王家に転移して学んだことだ。
こんな世界に来るんなら本当は冒険者になりたかった。お姫様への憧れは小さい頃からあったけど、なってみたら意外と煩わしいことが多くて困る。だから余計にそうなんだろう。まだ見ぬ世界を冒険したい、今でもそう強く願う気持ちを抑え込んで日々を過ごしていたりする。このまま城の中に囚われた鳥でいる運命なんてわたしには似合わない。でもある目的のためにも我慢をしている。ともあれ、今日は街までだけど第三王女をお休みして外に出られる。しかも綾乃ちゃんと一緒にだよ。楽しまなくちゃ。
王家専用の馬車乗り場の前に、腰から剣を下げたカッツェとソフィーが待っていた。カッツェは守りの森の警護服だから王宮の人だと分からない。うん完璧。
「ごめんね。カッツェ、おやすみの日に」
「キザイア様から警護を言い使ってるから問題ないよ。それにノーラも俺だと気を使わなくていいだろ」
民族調の革のベストが格好いいよ、カッツェ。
「おはようソフィー」
「おはようございますっする」
いっつも元気なソフィーも今日はおしとやかなお嬢様風。これで馬車に乗る五人は、わたしと綾乃ちゃんが別世界から来た人間だってみんな知ってることになる。周りを気にしないで話せる時間が王宮の外で持てるなんて。うおー、ちょーあがってきた! ノエルにはちょっと悪い気もするけどカッツェを借りちゃおう。
別に付き合ってるわけじゃない、って二人は言うけど、お互いがどう思ってるのかなんて見てれば分かる。ごめんね。めっちゃ喜びそうなお土産探すからね。カッツェにも何がいいか聞いてみようっと。
ツツジの花が終わりかけの花壇を通って王宮を出た。梅雨に入るまでまだしばらくあるから、気持ちのいい天気が続くといいな。
ソフィーは綾乃ちゃんが大好きだ。綾乃ちゃんもソフィーと仲良しだからから嬉しそう。それにソフィーはわたし達のことをつぶさに記してくれている。それでいて余計なことは一切喋らないし漏らさない。ほんとによくできた娘だ。
繁華街に向かって貴族たちの住まう邸宅の間を進んでいく。王宮に近いほど上流の貴族が住んでいて商店が並ぶ通りは貴族街の外にある。お貴族様のお宅には御用聞きの商人がやってくるから自分でお買い物なんてしないの。
でもわたしはお買い物がしたい! 切実に! 人権問題だー、って言いたいくらいに。でも言わない。わがままを「人権がー」にすり替えるのはかっこ悪いと思う。
「まずは本屋さんでいいかな?」
「まかせるわ」
綾乃ちゃんはまだこの世界の人間界のことをよく知らない。決してわたしが行きたいから最初に行くわけでない。全然そんなことないんだからねっ。
調子に乗ってキャラを間違えちゃってるセリフが出ちゃうくらい嬉しい。めっちゃ楽しい。しゃべりまくっちゃいそうだから気をつけないとね!
本屋さんに着いた。五階建てのビルだ。一階には売れ筋のラノベがたくさん。文芸を凌駕しているのは前の世界と変わらない。カッツェが持ってくれてるカゴにどんどん入れていく。ラノベは没収されてしまう可能性があるからノエルへのプレゼントということにして持ち込もう。読みたいときにノエルから借りればいい。やっぱノエルにちゃんとお礼しないとだよ? わたしだって我慢して、我慢して、我慢して第三王女役っていうお仕事をしてるんだもん。最近はノエルも代わってくれなくなったし、大人買いくらいしたっていいよね? ちょーテンション上がって来た!
「おいおい、お、重い」
ちょっとやり過ぎちゃったみたい。
「でも、こんな機会なんてあんまないだもん」
「ちょっと待ってろ」カッツェはレジに一旦カゴをおいて新しいカゴを持ってきてくれた。やっぱ優しいなカッツェは。
満足したわたしは、綾乃ちゃんが見たい本のあるフロアに一緒に行く。四階でエレベーターを降りて綾乃ちゃんについて行くと数学の本のコーナーだった。さすがは綾乃ちゃん! 頭のいい人ってこうなんだなぁ。数学はわたしよりアウラの方が詳しい。家庭教師でもある彼女が綾乃ちゃんにアドバイスをしている。この世界の学問の本は取得制限があるのだ。でも側使え魂が染み込んでいるアウラに抜かりない、しっかり取得制限が高い本を購入する身分証と書類を揃えて来ていた。さっすがー。
ガラスの扉を開いて閲覧室に入る。ここは本のサンプルを見る所で、商品は別のところにしまわれているのだ。
綾乃ちゃんは幾何学の本を何冊も買った。そういえばベルダンティア様と幾何学模様の話で盛り上がって仲良くなったって言ってたっけ。わたし達、つまりわたし、ハルトぅん、綾乃ちゃん、マサル、焚哉くん、タマちゃんはわたしを中心にした五角形の位置になる聖地に転移して来たんだけど、地図上に現れる二次元の聖なる図形は本来六角形が組み合わさってできている。ではなぜ五角形だったのか? あくまでベルダンティア様の推論だけど、立体になろうとしてたんじゃないか、ということだ。まん丸い球体を点で結んで綺麗な形になるように切ろうとすると、六角形だけだと難しくて五角形が入るとうまく纏まるんだとかなんとか。サッカーボールがそうだったってマサルとハルトぅんが気がついて、わたしはやっと理解できた。たぶん、なんだけど、この世界にはいろんな図形が重なっていて、わたしたちの作った正五角形はその一部なんだと思う。
幾何学の本を次々に見ていた綾乃ちゃんも満足したみたい。よかったよぉ。
本屋さんを出ると紙袋が二重になった荷物をカッツェが四往復もして運んでくれた。「手伝うよ?」って言ったら「そんなことさせられるわけがない。後で怒られるからおとなしくしてて」って言われた。ここはご厚意に甘えるとしましょう。わたしのせいでカッツェが怒られたら大変だからね。キザイアお姉さま厳しいし。
「うっきょー、大漁ですねぇ。大豊作です」
ソフィーもカッツェ荷物運びを手伝った。
たぶんだけど、先代の王の弟というかなり身分が高い人の落し胤の血を受け継いだソフィーには王妃継承権なんてない方が自由でいいと思う。魔力も高いし、自由だし、ある意味いちばんいいポジションにいるのかもしれない。活発で、素直で、物語が大好きで、わたしにとって妹みたいなとても大切な女の子。それにとびきり歌や踊りが上手い。きっと兄さんたちに似た血が流れているんだろう。王子の二人はまったく政治に出てこないし、ほとんど会うこともないけれど、音楽や芸術に精通していて、言ってしまえば穀潰しなんだけど、悪い人ではない。上の兄は「王家の男は頭角を現さないことが処世術なんだ」って言ってた。ソフィーのお爺さんと思われるわたしの派閥を後援してくれてる大公さんも昔はいろいろあったらしい。その人も、前に出過ぎず、できるだけ自分が目立たないように、わたしを支えてくれている。それが王妃の娘が跡を継いでゆくグランノルン王家の男の生き方なんだろうと思う。
いかん、いかん、また考えちゃってた。今日は楽しまなきゃだよ。
「次は綾乃ちゃんにサプライズを用意してあるんだぁ」
「なにかしら?」
「えへへ、着いてからのお楽しみぃ」
馬車は繁華街を抜けて職人街に入ってゆく。ガラス工房が並ぶ地区みたいに煙突の数は多くない。時々色の付いた煙が出ているのは布に染色してるのだろう。
青い煙が多いな。
グランノルンでは青は聖なる色だ。マナの色としても認識されている。みんなはマナを電気みたいなエネルギーだと思ってるけど、わたしには魔力っていう言い方がしっくりくる。自分の体を通して出るものだしアバターシュを見てると青以外の色になって光ることもある。たぶんまだ誰も知らない使い方があるんじゃないかとも思う。密かにノエルとは話しているけど、彼女も貴石を研究していてその可能性を感じている。
前もって連絡しておいてもらった大きな工房の前で馬車が止まった。普段あんまり着てないでしょその服、という感じ全開の整った身なりをしたおじさんが出迎えに出てきた。カッツェとアウラが先に立って大きな工房の中に入る。
中には大きな蚕の繭が綺麗に並んでいた。
白だけでも何種類もある。艶ややかな白、落ち着いた白。柔らかい白。赤やピンクの暖色系に、鮮やかなブルーや淡い水色、黄色も派手なのからクリーム色まで。グリーンの種類も豊富だ。色ごとに分かれている区画をひとつずつ進む。
倉庫みたいな飼育工房の一番奥に、真っ白な羽を広げたモフモフモスラみたいのがいた。白羽大蚕だ。羽の大きさは大人が腕を横に広げたくらい。大きな黒い瞳とシダの葉っぱみたいな白い触覚がついている。ふわふわで、モフモフで、でっかいぬいぐるみみたいだ。
蟲が苦手なわたしでもかわいいと思う。
体は羊のぬいぐるみみたい。羽も真綿でくるまれている。
前の世界で綾乃ちゃんから蚕の成虫の写真をみせてもらったことがある。「このバタフリー飼いたい」って言ったらハルトぅんに笑われた。「虫が苦手でもこの子はかわいいんだもん」って、むくれたっけ。
綾乃ちゃんはモフモフバタフリーをじっと見ている。怖くはないみたい。感慨深そうな顔をしてる。
「どう? 綾乃ちゃん」
おじさんがちょっと離れたのを見計らって小声で聞いてみた。
「これがこの世界のおかいこ様なのね。神秘的だわ」
おかいこ様からは葉っぱの匂いがした。
白羽大蚕はやっぱりあまり長生きできなくて、死んでしまうとすぐに縮まってしまうんだそうだ。
「絹糸をもたらしてくれるおかいこ様は丁重に荼毘されます」
おじさんは言って、隣の工房に連れて行ってくれる。
そこには繭をほどいて糸にする機械や、木でできた機織り機が列を作って並んでいた。地下水脈の流れから伝わる歯車が動いて機械みたく動くのを見せてくれた。
綾乃ちゃんは手織りの機織り機はないのか聞いていたけれど、今では使う人はなく、田舎街のどこかか博物館にはあるのかもしれない、とおじさんは答えていた。
街に戻ってオープンカフェで軽い食事を取る。お付きの二人はちょっと離れたところに座った。
やっぱいいなぁ。こういう自由な感じ。自然と話題も軽くなっていく。
なんの脈略もないけれど、疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ねぇ綾乃ちゃん。ボクネン人てどんな人?」
「元々は理解の薄い人って意味だけれど、恋愛感情に気がつかない鈍感な人という意味で使うことが多いわね」
「意味はあってた。じゃあザンネン人の親戚って覚えればいいよね」
「うーん、斬新だけどいいんじゃないかしら?」
「わたしの中で強い人はサイヤ人だから。そうやって日本語を覚えてきたからね!」
そう、わたしは前世ではノルウェー系の父とウクライナ出身の母の娘としてアメリカで生まれて6才から日本で育った。日本の中学二年の夏にまた、父の仕事の都合でロサンジェルスに戻ってからも日本のアニメやラノベが大好きで。その面白さを教えてくれたハルトぅんが大好きで。一緒に高校生活を送りたくて、アメリカのハイスクールには入らずに日本の高校に入ったばかりだった。これから大好きなハルトぅんと、そして憧れの綾乃ちゃんとまた一緒に過ごせる。必死に勉強して、両親を説得して、泣きながら家族の元を離れて。期待とほんの少し、不安が入り混じった新しい生活が始まるところで転移が起こった。
わたしは家族が大好きだった。その家族と太平洋を隔てて遠く、離れて暮らす決断をしたくらい。一人で暮らすことになる不安を吹き飛ばすくらい。
ハルトぅんのことが好き。
そして綾乃ちゃんも別の意味で大好きな人。でも。
綾乃ちゃんがハルトぅんのことを好きなのは知ってる。わたしと出会う前からずっと好きなのを知ってる。それでも。やっぱり。どんな時でも一生懸命で綺麗な綾乃ちゃんも大好きで。
厳しいお家の事情もあったんだろうけど、わたしには綾乃ちゃんが何に悩んでいたのが分かる。こっちの世界に来てからずっと、わたし達のところに来なかった理由が分かる。
それでも。
まだ核心には触れられない。けど、今日はわたしが綾乃ちゃんをどう思っているのかを伝えられればいい。それで十分。でも今じゃないな。
薄く透明なピンクのガラスの螺旋に囲まれた、白い王城の中で側使えさんが手間をかけて丁寧に淹れてくれる紅茶も美味しいけど、こういう場所で飲むカフェラテは格別だ。すっかり満足して街の散策に出た。大事なことを伝えるその時は、自分の気持ちが前向きであって欲しいから。
綾乃ちゃんと一緒にお洋服を見てまわる。でもやっぱり綾乃ちゃんには巫女服が似合うな。
「ノーラはなぜ私に巫女服を着せたがるの?」
「うーん、小さいときに巫女服を着てる綾乃ちゃんを凄くかっこいいな、って思ったのもあるけど――綾乃ちゃんは白に赤が入ってるのが似合うと思うんだ」
「それはどうしてかしら?」
「うーん……女の直感かな」
うん。綾乃ちゃんが包まれていた繭の色が何を意味してたのか知ってるの。わたしには分かっちゃたの。赤はハルトぅんへの情熱の色。白は綾乃ちゃんの幸せの色。そして黒は……。
「……ノーラはそれでいいの?」
綾乃ちゃんも分かって言ってる。
「うん。綾乃ちゃんが綺麗な綾乃ちゃんでいるのが好き」
いつも悩んでそうな綾乃ちゃんがめずらしくいい顔をした。うん、やっぱりこういう綾乃ちゃんが好きだな。
「それにね、赤と白が混じったらピンクになるでしょ。わたしの髪とイメージカラーとおんなじだよ。わたしはそれでいいよ」
綾乃ちゃんがすごくいい顔をした。うん、今日はこれで十分。結論は出ていない。あやふやなままだ。でも今はこれで十分なの。
この世界のわたしは王族。王族の女性の結婚相手には側室を持つことが許される。王家の女性と契を結んだ男性には神性を宿す加護が降りるから。わたしが頑張ってハルトぅんの気持ちを射止めれば全部上手くいく。問題はボクネン人のハルトぅんがそれに気がついていないこと。
なんの濁りもなく綺麗な顔をした綾乃ちゃんにつられて、わたしもうれしくなってスキップしたくなる。ショーウィンドーが並ぶ町並みがキラキラして見える。綾乃ちゃんの手を引いてショーウィンドウの前を少し駆けた。
「あっ、このショップのジュエリーいいねぇ」
カッツェを呼んでノエルのお土産は何がいいか聞いたら、赤い石のついたジュエリーがいいらしい。でもあまり高級なのだと恐縮しちゃうのかぁ。かわいいデザインのがいいかな。お店の中に入ってみた。
「これノエルに似合うかな」
綾乃ちゃんにも聞いてみた。
「自分に似合うものを贈ってあげればいいんじゃないかしら。そっくりなんだから」
そうだよね、さすがは綾乃ちゃん。わたしは自分だっからこれかな、というポップな赤いガラスのイヤリングと、猫耳に合いそうな赤い石が通ったリング・ピアス、ベイビー天使が赤い石を持ってる貝細工のブローチをカッツェに見せたら合格がでた。セットにしてジュエリーケースに入れてもらうことにする。紺色のフェルトでつつまれたジュエリーケースはこの世界でも一緒だ。ピンク色のはないのか聞いたら、店の奥から出してきてくれた。ピンクの箱に白い蓋。ばっちりじゃん。表面シルクだし。
「これがいいです」
お店の女性は「シルクだと格式が」と言ったけれど「色の方が大事なので」といって包装してもらった。この世界では絹の方が綿よりも安価なのだ。でもそれも大蚕ちゃんのおかかげ。
わたしは最後に、綾乃ちゃんとお揃いの真っ白なシルクのブラウスを買って王宮への帰路についた。
ノーラと綾乃ちゃんの休日でした。
器量の大きいノーラの希望が動き出しました。
来週はセントラル夏合宿編です。
次回「海岸キャンプ」月曜日の投稿になります。
よい週末をです。




