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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
セントラル編
126/148

実情と希望

平日毎日の投稿になりました。

「ハルト、この後ちょっと時間あるか?」

 カラテ・ジュードーの訓練を終えて格技場の更衣室で着替えているハルトに声をかけたのはマサルだった。

 今日はこれまでハルト、焚哉、マサルの三人でこの春に入団した新人の指導にあたっていた。カッツェはまだ慣れないボウガンの訓練に行って席を外した。守りの森所属の自覚を持ち続けるカッツェは、王都騎士団若手の指導をマサルに譲ったふしもあった。

「昼飯前だから大丈夫だよ。どうした?」

「雨も上がってるし歩きながら話さないか?」

 ハルトが了承すると、焚哉も「僕もいいかい?」と乗ってきた。マサルも特に問題ないようだ。汗を拭いて着替えても湿度が高い時期になったからなのか汗がひかない。

「うちわが欲しいねぇ」

 焚哉が軽口を流しつつ格技場を出る。「ありがとうございましたっ!」新人たちが上級騎士の肩章をつけた制服の二人と同盟国の外交参謀に敬意を示した。特にマサルへの尊敬の念が強い。剣技の師範も務め、若くして王都騎士団のトップの域まで登りつめたグレース・マサルは若手の憧れなのだ。

 梅雨の晴れ間を三人が肩を並べて歩く。紫陽花が咲く花壇に沿った通路に人通りがなくなった頃を見計らってハルトが口を開いた。

「やっぱマサルは慕われてるな。県大会の後を思い出したよ」

「あの頃のマサルくんはヒーローだったからね」

「よせやい。昔の話だ」

 前世、と最近は呼んでいる世界でマサルは二年生ながら進学校のサッカー部を県大会準優勝に導いた。プロ選手を多く輩出するサッカーが盛んな地方の県大会でである。まだ二年の得点王の活躍に、他の運動部の後輩までもが憧れの眼差しを向けていたものだ。中学で別れるまで相棒だったハルトが、サッカーをやめていたことをマサルが残念がっていたのをハルトは思い出す。

「謙遜しなくてもいいんじゃないかな? 人望があるってことなんだから」

「そうだよ。マサルの部隊の後輩なんか憧れの目で見てたし」

「――だから複雑なんだよ。……いつかあいつらに『死に行ってこい』って命令する時がくるかもしれない。そう思うとな」

 そうか、部隊を持つってそういうことなのか。俺はアバターシュに乗ってても開発メインである意味特別枠だからな。深刻さが違うんだ。

「まぁ、この世界じゃ当たり前のことだ。グレース時代から分かってることだしあんま気にすんな。今日話したかったのは……」

 言いにくいことがある時に前髪をいじる癖は変わっていない。マサルがこの場を作ったのは、ハルトとノエルが量産型アバターシュの開発過程で作りだした簡易アバターシュが作業に使えないか、ということだった。ハルトもその可能性には気がついている。汎用性を極め、飛行ユニットはおろか可能な限り簡略化した「作業用ロボ」の実用化を常々提言している。そもそもハルトが前世で作りたかったものは人体の機能を補助するパワードスーツだったのだ。パワードスーツどころかある意味巨大ロボを作ってしまったハルトは今、小型簡略化したコクピットブロックに短い手足だけを付けただけのダウンサイジングを考えているのだ。

 グレース・オプシディアンの体と魂と融合したマサルは、父親の体調不良もあって領主の座を継いだ。蟲の化石と黒い鉱石オブシディアの採掘用にハルトが仮でワーカーと呼んでいる作業用アバターシュが使えないか聞きたかったのだった。オブシディアとは黒曜石ともいう。ガラス質の鉱石は切れ味が鋭くやじりなどの武器となり、漆黒の鉱石は高級建材や装飾品として高い価値を持つ。黒曜石に象嵌ぞうがんを彫り込み、見事な燐粉細工をはめ込むオプシディスの職人達の技術力は高い。しかし昨今さっこんは蟲の化石、黒曜石、燐粉の鉱脈とも掘り尽くしつつあった。

「残ってる鉱脈は岩盤が硬すぎて掘り進めないし、大掛かりな魔道具を導入するのは採算性を考えると博打だ。調査採掘だけでもできれば、と思ってて」

「なるほどな。ノエルとも相談してみるよ」

「頼むわ」

 気にすんなって。お約束のハンドシェイクを二人は交わした。

「二ついいかな」

 うらやましそうに、慣れた手付きでハンドシェイクを交わす二人を見ていた焚哉は。

「作業用マシーンは可能性があると思うから僕の方でも何かできないか考えてみるよ。キラナとの共同事業にできないかアンナ様とも相談してみる。ハルトはちゃんとした名前考えといてくれる?」ハルトに告げて、言われたハルトは答えに窮した。

「名前なぁ。――ワークマン、でどう?」

「……絶望的にセンスねぇな。ノーラに頼んだ方がいいと思うわ」

「ですよね……」

 しょうがないじゃん! モビルワーカーとか格好いい名前なんて出尽くしちゃってるんですぅ。

「僕は好きだったけどね。服とか実用的でデザインもよくなってたし」

流行はやってたよな。俺も自転車通学用にレインウエアを使ってた」

「僕達がいたような地方ではとくに強かったみたいだね」

 マサルと意気投合した焚哉が拳を出した。マサルがそれに答えると、ぱあっと焚哉の顔が明るくなった。

 乙女かよっ!

「で、もうひとつって?」

 話を元に戻すマサルに焚哉は「聖地だよ」と。

 マサルが転移した場所はオプシディスの領主の館だ。しかしその近辺に『聖地』とされる遺跡や教会など目ぼしいものはない。

「聖地には蟲を引き寄せる性質がある。大量の蟲の化石が出てたんなら何かあるはずだと思わない? 化石ということは時代的に古いのかもしれない。今はマサルくんの家系がその地域を治めてるけど昔はルッシアだったんだよね。統治者が変わる過程で何かが失われた。っていう可能性はないかな?」

「なくはない、かもしれないな」

「ハルトの村の聖地から飛甲機の文献が見つかったんだ。調査名目でもワークマン・カッコカリの導入予算を申請してみれば」

 カッコカリって、ちゃんと言うなし……ノーラに名前を頼もうっと。

「いいね。助かったわ。うちの領地厳しくてさ。やるこさえ出来ればキラナに負けないぐらいの技術力はあるんだ、辛抱強くていい領民たちなんだよ。――俺はさ、前世でも裕福じゃなくて進学も諦めるか、って考えてた。働いて弟と妹の学費を作ろうか?とかな。こっちでは領主になったけど領地そのものが厳しいんだよ。規模が大きくなった分責任も大きい。これが俺の()()なのかな? とか思っちまうよ」

 ああ、それで綾乃に、っていうのもあったのかもしれないな。

 ハルトは前世のマサルの宣言を思い出しつつ、運命とこの世界、自分の意思が試されているような世界と自分の関わりを思った。同じようなことを思ったのか焚哉は。

「マサルくんは、大逆転が運命なのかもしれないね。グレースとの魂を煽って競いながらここまで登って来たんだし」

 今度はマサルから拳を差し出した。焚哉は満面の笑みで拳を合わせた。

 

 騎士団の食堂で二人との食事を終えたハルトは量産型アバターシュの開発工房に入った。机に座って思いを巡らす。

 採掘用かぁ。ドリルとか付けちゃう? 近くに川があるなら水圧や蒸気で破砕するのもありか。珠絵に相談したらダイナマイト発明しちゃいそうだな。――飛甲機が普及し始めただけでも世界が変わりつつある。できるだけ急激な技術革新は避けた方がいい。

「坊主、ちょっとええか?」

 いつの間にかハロルドがすぐそばまで近づいてきていた。

 爺さん、まだハルトだったり坊主って呼んだり安定しないなぁ。坊主って呼ばれたってことは、有無を言わさない系の話なんだろうけど、何だろ?

 ハロルドはハルトを自身の研究室に連れ出して二人になった。

 何だ? あらたまって。

「量産型の胴体の可動域設定もええ感じじゃな」

「そうですね。後は実際に作ってみて改良を重ねる段階だと思います」

「ということで、じゃな」

「はい」

 なんだ? 何が来るんだ?

「わしはしばらくここを出る。やりたいことが出来た」

「守りの森に帰るんですか?」

「いや、グランノルンからも出る。後は任せた」

「はい!?」

 ハロルドは単身王都を出てキラナから受けた要請に応えることにしたという。「キザイアから承認も取った。ノエルと珠絵は置いてゆくで安心せい。珠絵はいっとき借りるかもしれんが」ハルトが何をやりに行くのか聞いてもハロルドは詳しく話そうとしない。「まぁそのうち分かる」と子供のように目を輝かせている。

 こういう顔してる時って何かやらかす時なんだよなぁ。

 飛甲機に関わることなら話してくれるはずだ。何をする気なんだ? 珠絵は珠絵で「カニちゃん♪ カニちゃん♪」とか言って、古宮島にちょいちょい出てるし。

「分かりました。ノエルと頑張ります」

「ウルデ様もキラナの湯に入りにゆくと言うておった。どんな湯があるんかいのぉ。楽しみじゃのぉ。王都の湯は飽きた」

 温泉旅行かよっ。

 呆れ顔のハルトは「仲のよろしいことで」と内心思いつつ、ウルデとハロルドが持つ時の差を考えてしまう。天使ノルンであるウルデは歳を取らない。褐色肌に紫紺の瞳、紫ががった長い銀髪、黒い羽を腰から伸ばし天使の姿ともなれば面妖な色気はいまだ瑞々(みずみず)しい。そしてその美貌は衰えることがない。元々は黒かったというハロルドの白く長い顎髭あごひげが二人の間に横たわる逃れられない運命を表しているようにハルトには思えた。そしてそれはそのままハルトと綾乃にも起こりうることでもある。

 でもそれは綾乃が決めることだ。

 俺は俺で、自分のやるべきことを。

 工房に戻ったハルトは再びワークマン・カッコカリの仕様についてアイデアを練った。時間が来て白衣に赤いメガネのノエル、ハロルドと一緒に第二工房二階の教室に向かった。今日は週に三回の学園の開催日だ。

 ノエルもハロルドの移動を知っていた。「なんとかなると思うしがんばるよ。ハロルド様に頼ってばかりもいられないし」ノエルは量産型アバターシュの実験機を終えた段階で次にやりたいことがあるらしい。けれど「キザイア様から新たな要望を受けていて迷っているの」とも言った。ノエルがやりたいこととキザイアの要望を聞いてみると「今日のキザイア様の講義で話題にのぼると思うから放課後に話そう」と言われ、二階に上がって自分の執務室の扉を開ける。ノエルはセーラー服に着替えて猫耳をつけるために女子更衣室に入って行った。ハロルドはそのまま教室に入ったようだ。

 衣替ころもがえが過ぎて夏服になっているので白い半袖の開襟シャツと黒いスラックスに着替える。近頃はこのスタイルの革靴が若い貴族の間で流行ってるんだよ、とノーラが自慢げに言っていたローファーに履き替えているとカッツェと焚哉が入ってきた。いつの間にか男子は学園の時間の前後にハルトの部屋で着替える習慣になっていた。マサルの制服もロッカーに入っている。マサルは遅れているようだ。

 男子で連れ立って教室に入るとマサル以外の全生徒の他に、ハロルド、胤月、ベルダンティアがいた。王城に用意された客室を自室として暮らしはじめた綾乃を残して天使の館に戻っていたベルダンティアだったのだが、また講義に来てくらたらしい。今日はベルダンティアとキザイアの講義の予定になっていた。胤月の参観出席率はズバ抜けている。


 乳白の天使ベルダンティアの講義が始まった。

「今日は地理についてお教えします。この世界の人の暮らす地についてと果てなき泉の中心にあるセントラルについてお話をしたいと思います」

 ソフィーが期待していた神話の講義ではなかったのだが、この世界全体の地理と見知らぬセントラルの講義に興味しんしんのようだ。ハルトは常々疑問に思っていることもあって集中して聞いた。

 この世界は果てなき泉を中心に、外側を蟲や魔獣の森に囲まれて、人の暮らす大地がドーナツ状にある。北西部から南西部までのほとんどをグランノルン連邦が占め、逆時計回りに、キラナ、ニンディタ、イーシャと続く。ここまではハルトも知っていた。その先にイスガンジス、クリプト、ルッシア連邦となってルッシアの北西部がグランノルンの北東部と接している、と語られた。これでぐるりと一周したことになる。

「他国で大きいのはルッシア連邦、イーシャ、イスガンジスの順になるのですけれど、ルッシア連邦は大国ルッシアが束ねる周辺諸国の数が多いので、実質的はイーシャ、ルッシア、イスガンジスの順になります。世界の人口の四分の1はイーシャの人間だと言われています」

「ベルダンティア様、いいですか」

 講義中の質問は常に許されている。

「はい、ハルトさん」

「言われている、というのは正確な統計が無いということでしょうか?」

「イーシャの発表する数字に信憑性がない、という言い方が正確かもしれませんね。王族などを除いてこの世界には、両親二人に子供二人まで、という人口を現状維持してくための不文律があるのですが、イーシャには戸籍のない人間が非常に多いようなのです。無理をして人口を増やしている分、食料の自給が厳しい、という報告もあります」

「イーシャが無理をしてまで人口を増やしている理由は何故なのですか?」

 珠絵の質問にはノーラが答えた。

「この世界の軍事力は単純に兵士の数だからね。イーシャには領土的野心、つまり侵略侵攻の意思があるんだって。だからグランノルンはニンディタに派兵してるし、逆側のイスガンジスとは常に戦争してるらしいよ」

「ありがとうノーラさん。ノーラさんは第三王女エレオノーラでもありますから政治情勢に詳しいわ。イーシャとルッシアの同盟関係など、折を見て皆さんに話してあげて下さい」

「はーい」

「イスガンジスに関してはタクヤさんがご存知ね」

「名前から想像できるように仏教発祥の地ですね」

 なるほど、想像できる範囲ってことなのか。ルッシアはわかるとしてクリプトは……。

「みなさんに馴染みが薄いであろうクリプトは独特の信仰と文化を持っています。一日に三度聖地に向かって祈りを捧げたり、お酒を禁止しています。豚のお肉も食べません」

「まるで前の世界の縮図ね」

「そうだな。大体どの国がどこら辺なのか想像がつく」

「皆さんにはどうやらそのようですね。不穏な国際情勢もあるらしいので必要があればキザイアが講義にきてくれるでしょう。次に果てなき泉の中にある陸地、セントラルについてお話しましょう」

 セントラルとはその名の通りこの世界の中心にある陸地で、果てなき泉の中心に位置するアントナーラの領地より一回り大きいくらいの島だという。

 アントナーラを横断するのにコボルで一日半はかかる。島というより小ぶりな大陸といったところだな。蟲はいない。人も住んでいない、と。

 年中嵐の中にあって近づけず、夏の盛りに一週間から十日だけ晴れる、というのはハルトは以前の夏合宿で聞いたことがあるのだが、その晴れ間が『神々の息抜き』と呼ばれているのは初耳だった。嵐を超えるのは難しく、妖精の森で白狼とラフィーが開いた門は実はノルンでも負荷が大きく、白狼たちが命を削って開いたものだったとのことだ。

 そうだったんだ。今度ラフィー様にあったらお礼を言わなきゃだな。

「セントラルは島そのものが聖地のようなものです。島の周囲を水竜が護り、神殿を囲む時計塔の守護者は飛竜です。水竜、飛竜ともに古龍がおさを務めています」

「きたきたきたーーー」冒険願望の強いノーラは興奮を隠せていない。

 ノーラの質問攻めが始まった。神殿は王宮とおなじくらいの広さ。王城ではなく王宮には小さな街が入ってしまう。神殿を囲う円形の壁には時計塔が八つあるのだという。古龍とは念話を通じて話が出来るということだった。

「やっと、ファンタジーな展開がきたよ?」

 みなに振り向いて、桃色の瞳をうるうるさせたノーラが感動に打ち震えるなか講義が終わった。

 島の大きさは四国くらい。時計塔の中が東京23区をくらいって考えればいいのか。綾乃は数字に強いな。

「また来たいと思いますけれど、私の講義は以上です。今お話したことはキザイアにわれてのことでもあるので、引き続きしっかり講義を聞いて下さいね」

 きりーつ、から礼までが終わって休み時間になった。

「綾乃、また来ますって言ってけど、ベルダンティア様は天使の館に戻るの?」

「ええ、私も一度戻るわ。合宿までにはまた来るけれども」

「そうなんだ」

 放課後に詳しく話すわね。綾乃が言ったところでマサルが入ってきた。

「すまんハルト、執務室で着替えさせてもらったぞ」

「めずらしいな、講義サボるなんて」

「サボりじゃねーよ。キザイア様と打ち合わせしてたんだ」

「例の件?」

「それもあるけど別件もあった。キザイア様の講義に出てくると思う。詳しい話は放課後にな」

 やけに放課後に、が重なるなぁ。みんなバタバタしてるってことか。俺も試練のときや開発が佳境の時はそうだったし、そんなもんなのかな。

 

 教師らしい身なりをしたキザイアが教室入ってきて、二時限目が始まった。

 講義というよりも現状の説明と会議のような講義になった。

 まずキザイアは「アーヤの可能性を非常に高く評価している」と述べた。ベルダンティアの前で言うのだから了承は取れているのだろう。本来ノルンは人の活動に口を出さない。綾乃を人として認めている、ということだ。ハルトはそう取った。しかし綾乃に専用アバターシュを用意できるかというのは別問題らしい。他の上級騎士への配慮も必要で所属のはっきりしない綾乃の待遇をどうしたものか悩んでいるとのことだった。フォルマージュは予算の都合上実質的な運用を凍結する必要があり、アバターシュの機体数を確保したい。ノエルがキザイアから受けた要請は、フォルマージュの物理装甲化と飛行ユニットの追加だった。装甲を取り付けてアバターシュのように低燃費な運用ができないかを検討したいのだという。この世界の貨幣としての機能もあるマナを莫大に消費するフォルマージュの運用は現実的でないのは確かだ。

「フォルマージュの簡素化ができれば私と黒騎士のアバターシュを他にまわせる。それにしても予算が厳しいのだ……」

 キザイアにしては赤裸々な発言が続いた。

「フォルマージュ、そしてアバターシュそして飛甲機。お前達がこの世界で生み出した物の中で民間産業として成り立つのは飛甲機だけだ。フォルマージュとアバターシュは軍事力の増強という意味はとてつもなく大きいが税収には結びつかん。その上飛甲機の特許はアントナーラが持っている。王都に収益を譲渡しくれて相対的に王都の地位が落ちぬようにオーブは配慮をしてくれているが、いつまでも甘えているわけにはいかない」

 飛甲機の登場により防空設備という新たな課題も生まれている。予算的に厳しくなっているのは納得できた。第一王女アンナが飛甲機の平和利用の制度を整え、運用面からの収益確保を模索しているがまだ時間がかかるという。さらにはイーシャを中心に国際情勢に不穏な動きがあるということだ。飛甲機の存在はイーシャを越えて遠くルッシアにまで広がっていた。

「ニンディタの暗躍の裏にはやはりイーシャがいた。イーシャは兵力を整え始めている。人口マナを使った飛甲機の本格的な製造に入ったらしい――これはハルトがニンディタに潜入したときの仲間、源九郎の姉である稲穂からの情報だ」

「源九郎、救出したんだ」

「落ち着いたら手紙を書くと言付ことづかっている。彼女の協力もあって他の拉致被害者の特定も進んでいる。ハルト、お手柄だった」

 稲穂さん生で見たいなぁ。どんなコスなんだろう?

「聞こえたぞ、ノーラ」

「いやいやいや、綾乃ちゃんに似合うコス作りたくて、てへっ」

 ペロンと舌を出したノーラが前を向くと講義が再開した。

「話を戻すぞ」

 キザイアから作業用ロボの開発指示が正式に出た。ハルトがマサルをチラ見すると「助かった。希望が出てきた」という声が聞こえてきそうだ。生産をグランノルンの産業として育成する方向で調整するという。キザイアは「焚哉と胤月にも別件で相談したいことがある」と講義後の会談を望んだ。ハルトはワークイマンカッコカリのネーミングをノーラに頼んでみた。

「ワークマンでいいと思うけど……ス◯イダーマン、スー◯ーマン、ウル◯ラマン、とかデ◯ルマンとかあるじゃん」

「俺たちには、オラこんな村いやだ~のイメージがあんの!」

 ぷふふ、なぜか綾乃のツボに入ったようだ。

 そんなの知らなぁーい、ってノーラに言われるボケを狙ったはずなのに斜め上の反応きちゃった。

「じゃ、パワード・ワークマンでどう?」

「うん、良いな。さすがはエレオノーラだ。それで行こう。ベースは既にあるのだから、直ぐにでも開発チームを組織する。目標は『安価で誰でも使えるものを』だ」

 えっ、いいんですか? キザイア様がいいっていうならいいけど。ちょっと格好いいし。

「最後に今年の合宿だが……」

 ニヤっ キザイアの紅の端が上がった。

「セントラルの調査に向かってもらう。引率はラフィー様だ」

「やったーーーー!」

 希望に目を輝かせ、ふっくらとして柔らかそうな両手を上げて、ノーラは盛大にバンザイをした。


世界の中心セントラルの冒険バンザイなノーラでした。

マサルは領地の運営に頑張っています。

セントラル夏合宿編に入る前に閑話を二つ挟みます。明日は珠絵視点です。

明日17時の投稿になります。

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