人の間
時はしばし遡る。
妖精の森に降りたハルトと仲間たちが巨大な繭の前にたどりついた。
繭は大木を背骨にして天高くそびえ、その前にもうひとつ、小さな繭が隆起している。
花弁に包まれたような小さな繭の芽の中には人影が見て取れた。
綾乃らしき影が中に見透ける繭の芽と、大地をつなぐ糸を無理やり切ると中の存在が危ない、ベルダンティアから告げられたハルトは困惑していた。ハルトが綾乃の名を呼びかけると繭の芽が赤く染まった。
「小さい方の繭が問題の根源だな。自滅を望んでいるように見える」
「自滅を望んでいる? 綾乃が?」
ウルデの言葉を信じられないという風なハルトの背中から聞き慣れない声がした。
「綾乃だと……」
声の主を探して振り向いたアバターシュにフォルマージュが剣を上段に構えたまま漆黒の装甲を疾走させていた。
「遥斗! お前に綾乃は渡さんっ、俺はお前にそう言ったはずだっ!!」
容赦なく袈裟懸けに振り下ろされるソード。すんでのところで盾で受け流したアバターシュの足元が地面に沈む。大地を掴む四本の鋭い爪を限界まで収縮させて、大地の欠片を握りつぶすアバターシュの飛行ユニットからマナの光が流れて後方に飛んだ。カッツェが乗るサジウスの頭上をアバターシュが超えてゆく。
着地したアバターシュに再び黒騎士が剣を向けた。
カッツェがサジウスを緊急発進させた。と同時に黒騎士がアバターシュに肉薄する。
ガツン、マナを物質化させた剣と蟲殻を磨き上げた盾が鈍い衝撃音と共にぶつかった。
「將、なのか?」
「やっと表に出てこられた」
低い男の声と共に再び振り上げた剣先を、渾身の力をこめて振り下ろすフォルマージュ。盾を体に被せて受け止めた振動がコクピットの中のハルトを揺らした。脳髄を直接揺らすような振動を打ち消すように顔を振ったハルトが叫ぶ。「どういうことなんだっ!」フォルマージュに乗った男が答えた。
「俺はグレースというこの男の中に封印されていた」
グレースの中に宿った將の魂は、自意識を持つことができずグレースの意識下に封印されていた。グレースとの二重人格の状態だったのだが、今は意識と感情が渾然一体となってしまっているようだ。
「王都騎士団の頂点まで登りつめた俺の邪魔ばかりしやがって、俺にはオプシディアの民救う義務がある。父上と俺の顔に泥を塗ったことを忘れたとは言わせんぞっ」
黒光りするソードをアバターシュの盾の上で滑らせた黒いフォルマージューが、腰を入れて横蹴りをかます。重い衝撃に、腹でくの字に曲がったアバターシュが吹き飛んだ。繭ギリギリのところで着地。繭を背にしたシたアバターシュの爪先が地面をえぐって線を引く。
アバターシュとの格闘に入った黒いフォルマージュに加勢しようと、三機の王都騎士団の飛甲機が離陸する。ハロルドの指示で騎士団総長であるキザイアの機体を駆るノーラがロッキ型戦闘機とアバターシュとの間に入って牽制する。騎士団総長の機体に乗る第三王女には歯向かえない。白と金色の機体が二機の直掩機を、同盟国に貸し出されている焚哉の機体が黒騎士のサポート機、サジウス・ツーにたちはだかって着陸させた。
アバターシュは左肩のロングソードを抜く。繭の芽と大地をつなぐ糸を切るために切れ味の鋭いカトラスは温存ぜねばならない。
「緊急事態だ。手を貸すぞ、ハルト」
対立する飛甲機を抑えてから、アバターシュに駆け寄るウルデが、腰から伸びる黒い翼を広げて宙に舞った。
「これは俺たちの問題です。手を出さないで下さい」
グレースがマサルだと悟ったハルトが黒騎士にアバターシュを対峙させた。
獰猛さを含むアバターシュの目線がフォルマージュと睨み合う。
アバターシュの頭部、額の第三の目にあたる位置にはひし形の貴石が埋め込まれている。そこを破壊されれば、体の制御や飛行ユニットへの意思伝達が如実に落ちる。本来ならばガードしながら戦うべきである。
しかもグレースはアバターシュの弱点を知っている。
黒騎士が動く。
後先を考えない執拗で獰猛な黒騎士の攻撃にひたすら激しい打ち合いになった。息をつく暇もない。
盾を捨てさせられ、ガトリングをパージする。
黒騎士が踏み込む。
両手で握った剣を立て、頭部を守る。
力まかせに振り下ろされた剣を受ける。
火花が散った。
交えた剣をフォルマージュの剣に滑らせ、ソードの付けの十字を押さえる。
腕が震える。
体を逸して真横に薙いだ。
黒騎士が消えた空を切った。
踏み込んで斬りかかる。
剣が交わる。
アバターシュとフォルマージュが剣を交える度に火花が散った。
剣と剣が奏でる甲高い音に反応するように繭の芽が色を変える。
赤と黒が入り混じったマダラ模様が、心拍を早めるように色を入れ替えている。
繭の動揺を見取ったウルデは、焚哉と胤月、ソフィーとナターシャ、坊主と詩人の二組に指示を出して鎮魂を促した。
座禅を組んだ男二人から少し離れたところで、ナターシャがソフィーに「古代語で紡がれた聖歌を歌うわよ」落ちついた声で告げた。真言と聖歌を繭にむけて放つ背中を、黒と白の天使が守って立つ。
ハルトは繭から戦闘を引き離すために距離を取った。
「落ち着け將っ。今はお前と争ってる場合じゃない」
何度も將に呼びかけるが応答はない。憎悪を募らせるようにフォルマージュの攻撃が苛烈になってゆく。カッツェのサジウスがハルトに加勢しようとするが自在に盾を繰り出すフォルマージュに隙きはない。撃たれてもそう被害が出ないことを知ると、サジウスを気にもとめずにアバターシュに斬りかかり始めた。
死闘を繰り広げているのにハルトには、極端にゆっくりとした時間が流れていた。極度の集中がそれを呼んでいた。
ハルトの中に次々と綾乃の記憶の断片が浮かんでくる。一緒にキャンプをした時の白いワンピースを着て、麦わら帽子をかぶった、はにかんだ綾乃の笑顔が浮かんだ。
綾乃っ、気がついてくれ。
ほんの一握りの隙を見逃さず、黒騎士の剣が力まかせに割り込んでくる。
「この脳筋野郎がぁ」
ハルトはアバターシュの肩を入れてフォルマージュを押し返した。押し戻される動きを利用して、体を回転させたフォルマージュの黒い腕先から剣が流れる。ボディの脇から振り上げられたソードがアバターシュの左腕を落とした。
ハルトに激痛が走った。左肩を押さえてうずくまる。
アバターシュはパイロットの意思をマナを通じて反応する。フィードバックもまたパイロットに送り返される。両者は感覚をリンクしてるも同然だ。
落ちそうになる意識をアバターシュを飛翔させるに集中し、木々の上に退避するアバターシュ。
邪魔者を排除したフォルマージュが繭に振り向いた。
「綾乃、なんだろ?」
真っ白な繭の芽はフォルマージュが近づくと薄黒く濁った。
剣を握った黒い巨人が眉の芽に手をかけようとした瞬間、漆黒に染まった繭の芽がフォルマージュを弾いた。六メートルを超える巨体が紙くずのように吹き飛ばされる。
地面に転がるアバターシュの右腕に足元を取られ、尻もちと後ろ手をついたフォルマージュが暗澹たる雲を見上げる。木々の影を黒く浮かび上がらせて稲妻が走った。
雷光に奪われた視界の中からアバターシュが現れる。
雷鳴が轟いて大地が揺れている。
右手にロングソードを握ったアバターシュが急降下しながら加速。
上半身を起すフォルマージュ。アバターシュのロングソードがフォルマージュの右肩に食い込んでゆく。
ロングソードはパイロットを切り裂く寸前で動きを止めた。
剣を引き抜くと装甲の切れ目から、パイロットが兜の中で光る二つの赤い目をこちらに向けていた。
剣を捨てたアバターシュの右腕がまっすぐに伸びる。
袖下に埋め込まれた射出機から眠りの粉が放たれた。
フォルマージュを仕留めたアバターシュが繭に振り向いた。
繭は薄ら赤く発光している。
ウルデに「降りて来い」と言われたハルトは、ハッチを開放しコクピットを降りる。
降機手順を飛ばして、マナを感応する液体に濡れたまま繭に向かって走った。
降機姿勢のアバターシュの前方にカッツェのサジウスが着陸し警戒する。
「飛甲機から降りなさい」
ベルダンティアに命じられた王都の騎士たちも降機した。
暗くなった妖精の森をノーラと焚哉の飛甲機のライトが照らしだす。
ハルトは仲間たちと共に大木の根に向かって歩く。真言と詩が続いている。
綾乃の影が中に見える繭の芽に近づくと、巨木にまとわりつくようにそびえる大きな繭を見上げた。二つの繭は双子が呼応するように同じ赤と黒のまだら模様を動かしながら発光している。
「今、この森を支配しているのはこれだ」
ウルデが繭の芽を差した。白の中に赤と黒の淡いマーブルを変化させている繭の芽は、花びらに包まれた真珠のようだ。
「ハルト、お前の声なら届くかもしれない」
ウルデは珠絵やノーラに繭に近づかないように注意してから、ハルトを繭に近づけさせた。
何度目かの綾乃を呼ぶハルトの声に繭の芽が反応した。
繭と繭の芽が紅色に染まる。
真紅に染まった繭の芽とハルトを見つめる仲間たち。
「フィレーネ、繭の根を切り離さなくていいの?」
ノエルの手の平から顔色の良くなったフィレーネが羽ばたいた。
「もう少し待って。カッツェならアバターシュを動かせる?」
ノエルに呼ばれたカッツェはハッチが開いたままのアバターシュのコクピットに収まるとカトラスを抜いてマナを流す。
フィレーネは繭をじっと見ている。紅い繭の芽が鼓動している。
「綾乃、綾乃っ!」
繭の芽が強烈な光を発して、真っ白になった。
繭の発光が弱まったの見て、フィレーネがカッツェに繭と大地を切り離すように指示を出した。
「ハルト、下がれ。眉の根を切る」
アバターシュが大地と繭の芽の間で刀を真横に一閃すると、大小二つの繭が、全体的に淡く光った。
「綾乃……」
「迎えに行ってやれ」
ウルデの言葉にうなずいて、ハルトがゆっくりと繭の芽に近づく。
少し充血したような薄桃色の花びらを開くと芽の本体があらわになった。
ハルト繭の芽に触れるとドクンと大きく震えた。
繭の芽が震えている。
純白の繭の芽の真ん中に、一筋の赤い染みが縦に流れて裂け目が出来た。
ハルトが裂け目をかき分けて中に入っていった。
少しずつ、繭の芽の鼓動が収まっていく。
「もう大丈夫だよ、ほら見て」
上を見上げた小さな妖精が指さす先では、視界を塞ぐ白い繭からいくつもの小さな光がこぼれ出てくる。集まった光が筋になり、巨大な繭を取り巻くように螺旋を描いてゆく。
「私も行かなきゃ」
トンボのような羽に七色の光を灯したフィレーネが上空にあがり、繭の中心にたどり着くと眩しい光を放った。それと同時に繭を巻いて点滅していた螺旋がはじけ散る。妖精たちの発する光が不規則に散らばって大きく繭を包み込み、動き回っては模様を描く。
フィレーネを中心にした正円ができた。
円の周りに次々と同じ大きさの円ができてゆく。
六つの円が均等にずれてゆく。フィレーネを中心に重なり廻ると、幾何学模様が浮かび上がっていた。
「シードオブライフ……」
ウルデのつぶやきの意味を仲間たちが考える間もなく、模様は分裂し、さらに複雑な幾何学模様を展開してゆく。細胞が分裂して新たな生命を生み出すように。
七色に変化してゆく模様はどんどん分裂し、複雑になり、緻密になり、花を形どった曼陀羅になった。
「教会のステンドグラスみたい。バラ窓だ」
ノーラが静かに感嘆の声をもらしながら見上げた。皆が見守る中で模様はさらに変化しゆく。色と形をなだらかに変化させながらゆっくりと回転している。僧侶と詩人も声が出せない。
「すげぇ、宇宙だ」
この世のものとは思えぬ神々しい光景。
神のつくり給いし、としか言い表せない万華鏡に焚哉が見惚れるのも無理はない。
焚哉だけでなく繭の前に立つ全員がその美しさに引き込まれるように見上げていた。
背中の大きな乳白色の翼をはためかせてベルダンティアがゆっくりと回転する曼陀羅の中心に向かって飛んだ。お付きの天使が追いかけるように浮いてゆく。
空中に浮かんだベルダンティアの眼前で模様と繭が割れた。
繭の中から出てきたのは、目に涙を浮かべた小柄な天使だった。
「スクルディア」
「お姉さまぁ~」
黄色い服を着た、まだあどけない天使がバルダンティアに抱きついた。
ナチュラルブラウンの頭を撫でながらベルダンティアがお付きの少女天使たちと共に地上に降り立つとウルデが駆け寄った。
「スクルディア、無事だったか」
少し落ち着いたのかスクルディアは、長い髪を揺らして、大きな瞳を黒の天使ウルデにむけた。
「なんとかね。ウルデ姉さんも久しぶり」
「まったく心配させおって。何があったのだ?」
褐色肌のウルデの表情は妹を厳しく叱る目をしている。紫紺の瞳が見据える視線は厳しい。
「んっと……どこから話せばいいのかな? うんとね、未来が面白くならないかなぁって、実験してたら大分メンドくさいことになっちゃって……別の次元から魂を呼んじゃったみたいなんだけど、こっちに来た魂がじゃじゃ馬すぎちゃってさ。――神様の邪魔もあったみたいで繭の中に閉じ込められたとこに呼んじゃたし。一番ヤバそうなのが私のところに来るのが分かったから、近所に転移してくる魂に助けてもらおうとしたんだけど……随分長くかかちゃったよ。――あっ、フィレーネありがとうねぇ。ギリギリ間に合ったよ」
「どういたまして、女神様」
ウルデの追求を気にもしていない様子の無邪気なスクルディアに、妖精フィレーネがウィンクをしてみせた。フィレーネの周りには数えきれないほどの妖精たちが飛び回っている。
「ねぇねぇフィレーネ。今回はアントナーラのオーブはいないの?」
「近くにはいるんだけど蟲がここに入ってこないように頑張ってる」
「そうなんだぁ。やっぱりまた助けてくれたんだね。うふふ。オーブに会いたいなぁ」
「でもオーブは人間なんだから大分オジサンになってると思うよ」
「えーー、そうなんだぁ」
きゃっきゃっと遊ぶように飛び回る妖精たち。
「まったく、妖精たちを巻き込んで……いくら未来を司る天使で新しいこと好きだからって、いけませんよ」
ベルダンティアに叱られ、しゅんとなったスクルディアをウルデがさらに問い詰めた。
「小さい方の繭に転移した魂の依代は何なのだ? 人がこの辺りにいたとは思えんし」
「フェルンに宿っちゃったみたい。しかもかなり上級の」
「はぁ!? 上級のフェルンに人の魂が宿ったのか。しかし影を見ると人の大きさのように見えたが……」
ウルデが長い銀髪をなびかせて繭の芽に振り向くと、生徒たちが固唾を呑んで見守る中、ハルトが出てきた。
ウルデが飛甲機のライトを消すように伝えると、いつの間にか雲が消えた空から、満ち足りた月の光が降りてくる。繭の中の残ったハルトの手に引かれて出てきた女性は、紛れもなく綾乃だった。
絹の流れに月光を映す長い黒髪。
まっすぐに切りそろえらえた前髪と、もう一段作られた姫カット。
その一部が、血がまっすぐ流れたように真っ赤に染まっている。
メッシュが入った前髪の下、整った小顔は血色が悪く、透き通るような白い肌は、まるで業火が燃えるさかるような赤い巫女装束に包まれている。袖口や襟元を飾る黒い紐と相まって禍々しさを感じさせる。
あまりにも前世の綾乃と異なった印象に唖然とするノーラと焚哉、珠絵。
「火の魔女……」
ウルデの次の言葉が出てくる前に、綾乃の髪の毛が逆だった。ノーラと珠絵を見た綾乃の巫女装束が漆黒に染まり、飾りが赤い紐になった。色が反転したのだ。
ほっそりとした綾乃の体が繭から離れると、繭の芽の糸がほどけて綾乃の背中にすこまれてゆく。巨大な繭からもほどけた糸が流れ、みるみるうちに繭の糸を吸い尽くした綾乃の背中に天使の羽が生まれた。
真っ白な生まれたての翼が、綾乃の背中で付け根から赤く染まり、一枚の羽根が黒くなったかと思うと翼全体が黒と赤の入り乱れる天使とも悪魔ともつかぬ翼となった。
「シードオブライフを見た時に予感はしたが……」
黒の天使ウルデが綾乃に近づき、見つめる。
「どういうことですか?」
綾乃の変化に驚愕していたハルトが口をりながら開いた。
「この女は人ではない。新たなノルンだ。いや今はまだノルンですらない。今はまだ、何者だとは決められない」
「魂が宿ったのが位の高いフェルンだった上に、移ってきた魂に力がありすぎたんだわ」
ベルダンティの見解にウルデはうなずき、綾乃の状態を確かめるようにじっと見ている。
「まだ安定していないな」
綾乃の翼は赤と黒を行ったり来たりしながらも、白くなろうとしているようにも見える。こわばった表情をうつむけたまま、綾乃は言葉を発しない。
ハルトは見てはいけないようなものを見てしまった気がして、思考が停止した。
「まだ間に合うかもしれん。この女は私が預かる。私たちの館へ連れてゆく」
「そんな! ……せっかく会えたのに」
悔しさと絶望が入り混じった顔をして、ハルトがウルデに詰め寄った。
ノーラが綾乃に近づこうとすると、綾乃の体から不快な高周波が鳴り響いた。威嚇するように大きく広げた翼が一瞬にして漆黒に染まる。ウルデはノーラにそれ以上近づかないように手振りで伝え、ベルダンティアが綾乃にむかって淡く優しい光を放つと、意識を失って崩れ落ちる綾乃の体をウルデが受け止めた。
「大丈夫だ。私も半神半魔だ。どっちつかずの存在がどういうものなのかはよく知っている。それにどうやらこの女は過去にとらわれている。私は過去を司る天使だ。ここは私にまかさせてもらう。異論は受け付けない」
強い口調で言い切った黒い天使ウルデに、ベルダンティアが白い羽を畳んで納得した顔を見せた。ハルトはそれ以上何も言えなかった。
小刻みに体を震わせて、唇を噛み締め、拳を握り込んで立っていることしかできなかった。
普段はまっすぐ前を見ているハロルドも視線を地面に落としていた。
「人と天使の間か……ハルト、思うところはあるじゃろうがここはウルデ様にお任せしよう」
星々のきらめきの中に大きな満月が姿を現していた。
虫の音が聞こえる。
月の中から降りてくる狼のシルエットに続いて、アルフリードたちの守り鴉やフォルマージュを載せたイカルスとサジウスが妖精の森に降下した。
次回「判決」週明け月曜日の投稿になります。




