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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
第一部・第一章 プロローグ
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あのこと

動揺する遥斗。そこにノーラが帰って来ます。

ノーラと待ち合わせた部室でハルトは<あのこと>の真相を知ることに。

將に綾乃が寄り添う姿を想像すると胸がうずいた。今まで自分は綾乃に相応しいのか?と考えることはあっても、綾乃の横に自分ではない男がいるところを具体的に想像したことはなかった。でも俺にだってチャンスはある。今年の変化は良い方向に転がってる。そう思って見上げた空には雲の隙間から顔を出した太陽の光が放射線を描いていた。


「ただいま」

 リビングに入ると真櫻がソファーで寝そべって漫画を読んでいた。帰って来た!お散歩!?とチロルが寄ってくる。

「ノーラ帰って来たってよ」

「知ってるよん」

 漫画読むの止めてから答えてね?心の中で突っ込もうと思ったらは真櫻は漫画を置いて座った。

「お兄ちゃん 今度の日曜日空いてるよね?」

 今度の日曜日って3日か。部活も一段落した今、特に予定はない。あーそう言えば

「空いてるよ。ノーラの誕生日だったよな」

「そうだよ。日本に戻って来たばっかで誕生日に一人は可哀想でしょ。誕生会やってあげようかと思って」

「ノーラん家でやるのか?」

「ノーラ部屋がまだ片付いてないだろうし、うちでやったらうちらとあんま仲良くない人来づらいでしょ。だからカラオケボックス押さえた」

「誰が来るのか知ってるのか?」

「いんや、呼ぶ人はノーラにまかせてある。私は人数聞いて最終的に部屋決めるだけ」

「それってほぼ丸投げじゃん」

「プレゼントもちゃんとあげるしケーキも用意するもん!いいの、いいの。ノーラが誰呼びたいかなんてわっかんないでしょ」

「そりゃそうだ」

 とっさに頭に浮かんだのは「綾乃来るかな」だ。これは私服も新調せねば。プレゼントもちゃんと考えるよ?

 部屋に上がってPCを立ち上げ、高校生 男子 秋コーデ、で検索。夏でも着れるちょっと秋らしい色のカーディガンを見つけポチる。

「ポチッとな」

 あーー快感!ポチッとな好きだなぁ。この言葉を発するとラノベや欲しい物がやってくる。買い物の度に唱えてしまう俺の呪文。ポチッとな最高。 

 続いてノーラのプレゼントを、と。スマホを出してノーラから送られてきた買った物の写真をチェック。「あれは無いな」プレゼントならフィギュアがいいだろう。主人公のフィギュアはあったけど一味はまだ揃ってない。あいつの事だからそのうち揃えていく気じゃない?ノーラが好きそうなキャラはこれっしょ。プレゼント梱包を指定してまた

「ポチッとな!」


 うーん、でもこれだけじゃ何か物足りないな。予算はもうないし何か出来ること無いかな?――あれだ!あれ借りよう。部活の大会で見たホログラム。あれでHAPPY BIRTHDAY を浮ばかせてやれば喜ぶだろう。

 渡辺先生に電話を掛ける。まだ学校にいるはずだ。

「貸し出しは構わんぞ。始業式の金曜か土曜に持ってって月曜に返しといてくれればいいよ。でもあれの制御プログラムのディスク無くなってて部室のPCしかプログラム組めんぞ。組めば外でも動くけど」

「そうなんですか。明日か明後日、部室を使わせてもらえませんか?」

2学期が始まったら部員が片付けに部室に集まる。やるなら夏休みの残り2日のどっちかだ。

「明日の午前中はどう?明後日は俺ちょっと都合悪い感じだけど明日なら朝から居るよ。明日の午後は学校の設備と保守点検で午前中しか許可出ないんだよ。生徒は午後校内に入れない。プログラム組むのはそんなに時間かからんと思うよ」

「わかりました。一限始まるくらいには行きます」

よし、これで演出も出来る。後は綾乃も来れば完璧なんだけど。


 ポロン、とメッセージの着信音がした。スマホに手書き風の誕生会の招待状がノーラから届いた。多分ほんとに手書きだ。

「もちろん行くよ。プレゼントももう用意したからな。楽しみにしてろよ」

 と返す。

「ほんと!!楽しみ~。えへへ」

「ところで綾乃は呼んだのか?」

 返信が来ない。ちょっと待つか。大分待っても帰って来ない。

「おーい」

「ごめんね。ちょっとゴチャゴチャしてて」

 多分部屋の片付けしてるんだろうな。

「招待状書く前に電話したんだけどね、来られないって。またなんか家の人に気を使ってる感じだった」

「そっか、偏差値高いとこの模試は9月になってもあるからな。それかもしれないな」

「そうなのかなぁ」

「ハルトゥん、会って話したいことがあるんだけど明日何してる?」

「明日は午前中部室でやることあるから午後ならへーき」

「私も明日手続きがあって学校行くから部室行っていい?』

『明日は午前中しか生徒は居られないみたいだぞ。一緒に帰ろう」

「わかった、私も多分同じくらいになるから終わったら部室行くね、工学部の部室見てみたいし」

「わかった。じゃ明日な」

「ほいよ~」

 一段落したMainを閉じた。


 翌日の朝は快晴だった。この夏は雨ばっかりで晴れた日はほとんどと言っていいくらいなかったのに。ノーラは天気の子なの?

 部活も休みで人気ひとけの少ない坂を登った。

 職員室の前で汗をぬぐって部室の鍵を受け取りに入る。

「おはよう楠木、ほれ鍵な。それと話しときたい事があるんだけど後で部室行っていい?」

 引き継ぎか何かだろうか?

「構いませんよ」

「じゃ30分後くらいに行くわ」

 部室に行く前にあの屋上に足を運ぶ。扉を開けると弓道場の向こうの雑木林から季節外れの蝉の鳴き声が聞こえた。今年は涼しかったからな、久しぶりに暑くなって出てきたんだろう。今年最後の蝉かも。そこに混じるスパンと矢が的に当たる音。弓道場を見下ろすといつもより少ない人影があった。個人練か?綾乃もいる。

 綾乃は打ち終えた様で下がって正座をし黙想を始めた。背筋の伸びた背中に長い髪が降りている。

「俺もがんばるか」

 背伸びをして部室に向かった。


 丸いアクリルで出来たレーザーホログラムプロジェクターを雑多に置かれた物の中から発掘し、暗幕で出来た布のカバーを取って射撃くんの横に置いた。

 窓際に置かれたPCと無線で繋ぐと部室の暗幕を閉めてホログラムが見えやすいようにする。 

 HAPPY BIRTHDAY の文字列はテンプレにあって順調に出せた。でもテンプレだけじゃ借りて来たみたいでなんかやだな、実際借りもんだし。なんかもう一捻り。色はレーザーのグリーン一色だし、動かすか、と思ったところで扉がノックされて先生が入って来た。

 PCをスリープさせるとホログラムも消えた。

 先生が近くの椅子を寄せて紙パックのカフェオレを渡してくれる。

「悪いな、やりたいことがある時に」

「いえ、こちらこそ個人的なことなのにありがとうございます」

「今日は午後から避難経路の確認とかもあるから後ろの扉のとこの机を後でもうちょっと内側に寄せといて、鍵はかけといてな」

「はい」

 先生は椅子に座ると少し真剣な表情なった。

「ちょっと込み入った話しになるんだけどいいかな?でもお前には伝えといた方がいいと思って」

「何でしょう?」

「お前の中学のサッカー部の顧問だった増井と俺が同窓なのこないだ話したよな。あの時には言えなかったんだけど増井からもう一つ聞いたことがある。お前に怪我をさせた新井っていう生徒な、高校を退学になったそうだ」

「――何故、ですか?」

 ハルトは震えていることが隠せていない声で聞いた。新井猛。怪我の原因で<あのこと>の中心人物。

「窃盗だそうだ。万引というレベルじゃないらしくて弟との余罪もかなり出てきたらしい」

 弟は高校にも行ってないらしいが、と渡辺先生は言葉を切った。

 そんな!という思いと、やっぱり!という怒りが同時に湧いてくる。

 「ちょっとすいません」

 ハルトは立ち上がって窓際に行き暗幕と窓を開けた。

 蝉の鳴き声があの頃、傷ついた心をわずらわせた耳鳴りのように響いている。



***********************************

 中学2年の一学期もそろそろ終わろうとする頃、サッカー部は夏の大会に向けて練習に熱が入っていた。3年が主なレギュラーチームがメインコートで、遥斗達1、2年は別コートで練習に精を出していた。

「痛てっ」

 その声に遥斗が振り向くと2年の林が座り込んで足首を押さえている。

「おいおい、気をつけろよ。とろいのが混じってると迷惑なんだよ」

 新井はサッカーは上手いが気性が荒くラフプレーが多い同じクラスの男だ。

「おい、新井、お前監督が見てないからっていい加減にしろよ!」

「なんだよ。避けられないそいつが悪いんだろ。いい子ちゃん気取りは黙ってろよ」

 ちっ、めったにしない舌打ちをして遥斗は林に肩を貸す。

「こりゃちゃんと休まないと無理だな。一回下がろう」

「おい、もう一回俺にボールよこせ。さっきの連携もう一回やるぞ」

 新井は気にする様子もなく戻ってゆく。

 ピッチの外でスパイクを脱いだ林の足首は腫れていた。

「病院行った方がいいな。歩けるか?」

「少し休めば大丈夫だと思うけど」

「そうか、部室行って湿布したら休んだら病院行けよ」

「あの、頼みがあるんだけど頼んでいいかな?」

「何だ」

「帰りに取りに戻ろうと思って教科書を持って来てないんだ。歴史と国語の教科書を取って来て貰えると助かる」

「三組だよな。わかった。部室で待ってろ」

林に聞いた三組の窓際の前から二番目の席には教科書が詰まっていた。2冊を取り出して女子の鞄が置いてある幾つかの机の間を通って外に出た。


 翌日、授業が終わるとホームルームの時間に担任の先生が神妙な顔で話し始めた

「残念な知らせがある。お前達を疑うわけじゃないが昨日校内で現金の盗難があった。貴重品の管理をしっかりするように。それと不審な者を見かけたら先生に伝えるように」

ホームルームが終わって担任が出て行くとガヤガヤとその話題が聞こえる中、新井が遥斗に近づいた。

「盗まれたの三組の生徒だってよ。お前昨日三組の教室になんか取りに入ったんだってな」

 わざと周りに聞こえるような大きな声だ。教室の喧騒が止まった。

「ふざけるな!お前が林を怪我させたから教科書を取りに行くことになったんだろうが」

「何?人のせいにして誤魔化そうっていうの?嘘つきは泥棒のはじまりだぜ。ってゆーかお前がやったんだろ。白状しちまえよ」

ガン!と机を叩いて立ち上がった遥斗は新井と向き合った。

「おいおい、逆ギレかよ」

 遥斗と新井が睨み合う。

「止めなさい!楠木君はそんなことをする人じゃないわ」

 二人に綾乃が近づく。

「何だよ委員長。同小おなしょうのよしみか?良い子ちゃん達は困るねぇ。良い子ちゃんぶってるだけかもしんないけど」

 新井はヒヒヒと細い目に蛇のような笑いを浮かべた。 

「いい加減にしなさい。証拠は無いのでしょう?」

「わーたっよ。証拠が出て来ないといいねぇ」

 それ以上遥斗は弁明をしなかった。

 

 クラスの空気が微妙なまま夏休みに入った。部活の練習時間が増え、遥斗はサッカーに打ち込むことで嫌な事を忘れた。

 監督がグランドにいないその日、ロングパスを出そうとモーションが大きくなった遥斗の軸足に後ろからスパイクが突っこんだ。激痛が走った。顔の温度が急激に下がって脂ぎった汗が流れる。

「お前もうレギュラー無理かもな」

 独り言のように遥斗に向けた新井の言葉を聞きながらピッチの外に出ると仲間に肩を担がれた。タクシーを呼んで病院に行った。

 左足首の骨折と靭帯損傷。母親の勤めている病院に入院することになった。ノーラがアメリカに引っ越すのを見送ることも出来なかった。

 

 二学期の始業式を検査で欠席して次の日に杖を付いて教室に入るとおかしな雰囲気が一層濃くなっていた。誰も話しかけてこない。綾乃も困惑しているようだ。何かあったのか周囲に聞いてても「いや別に」とか「さぁ」とか何だかクラス全員が余所余所しい。新井がニヤニヤしていた。その状況は変わることなく9月、10月と時間が流れた。

 校内では誰も話してくれなくなった、校内全員からの、無視。

 まるで自分の存在そのものに意味が無くなったように思えて、遥斗の目に映る世界から色が消えていった。灰色の世界には感情がなかった。何も感じなくなった。

 そんなある日、綾乃がホームルームの時間に話し合いを提案をした。

「今のクラスはどう考えても雰囲気がおかしいと思います。何故なのですか?」

 綾乃が切り出す。

「何故って言われても……」

「別に悪いことしてるわけじゃないし……」

「誰と親しくしようとかは自由ですよね?」

 結局そんな反応しか帰って来なかった。

 その夜、石原という大人しく目立たないそれほど親しくもなかったクラスメイトが家を訪ねて来た。話しを聞くと新井とその仲間が「あいつは自分で転んでおいて人のせいにする、平気で嘘をつく犯罪者だ」と遥斗のことをふれまわり、そうは思わなくても新井達が怖くてどうしてもその雰囲気に合わせることになってしまうという。ごめん、と石原は謝った。クラスだけではなく新井の仲間が学年中に言いふらしていて盗難事件の犯人は俺だということになっているそうだ。一年に新井の弟がいて噂は一年にも回っているとも教えてくれた。

 あの時ちゃんと弁明していれば。まさかこんな悪意の塊のような人間がいるとは思ってもみなかった。平和ボケと言われればそうなのかもしれない。怒る気力もなく自分を責めた。

「わざわざ、ありがとうな」

 石原を見送ると石原は家とは別の方向に向かって帰った。誰かに見られると困るからと言って。

 それでもその後何度か足を運んでくれた石原は「そのうち時間が解決するよ」と慰めてくれた。


 二学期が終わり冬休みに入るとチロルが家に来た。チロルを撫でていると気分が安らいで散歩に連れて行くと少しずつ外に出る気にもなった。妹と二人で初詣に出かけた。鳥居をくぐって帰ろうとした時に巫女服を着た綾乃が走って来た。気を利かせたのか真櫻はチロルを連れて先に行った。

「遥斗くん、あの、守ってあげられなくてごめんなさい。せめてこれを」

 と差し出された神社の紙袋には組紐のブレスレットが入っていた。遥斗は自分の状態を察せられないようにと何とか冗談を言った。

「これ着けたら、体が入れ替え変わるとかないよな?」

「?……ああ、そんなことあるわけないじゃない」と綾乃はクスクスと笑った。

「これ私が編んだの。遥斗くんに良いことが興りますようにって思いながら。だからお守りにして」

「ありがとう。大切にするよ」

 そう言って見た組紐は色鮮やかだった。


****************************************

 遥斗が変わらざるを得なかった<あのこと>。遥斗はそれから人目を避けるように目立たないように生きてきた。その発端になった人間がそういう人間だった。

悔しいやら、バカバカしいやら、いろんな色の感情が渦を巻く。

 それでも、と思う。今まで何度もそうして来たように。

 どんな時でもやるべきことは変わらない。自分に負けないように、日常を積み重ねるんだ。

 もうこのことは終わりだ。日常に戻ろう。

 今年はいい変化が起こってる。


 遥斗は窓の外から視線を外して振り向いた。

 


3年前の<変化>に見切りをつけ、今起こっている<変化>を見ようとする遥斗。

次回は今の変化の根源であるノーラが部室にやってきます。

次は、止まった時間、です。


※すいません!編集していたら間違えて投稿してしまっていたようです。ごめんなさい!m(_ _)m

 明日も次話を投稿しますのでよろしくお願いします☆

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