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甲殻の翼  作者: 月弓 陽
王都編
106/148

死線

サブタイトルを「死線」変えました。

「地上と低空の大物は白狼はくろうがおさえる。女王が出てくる前に上空の掃除からじゃ」

 アントナーラ航空隊が上空を先行する。全方位のキャノピーが装着されたアントナーラの飛甲機にアバターシュが続く。

「ジョナサン隊長、毒除けの風防製作、間にあったんですね」

「飛甲機の機体数が増えてきたのでな。戦闘特化型の機体への装備を優先した。飛甲機は負傷兵の後送に使う状況の方が多く想定されるために改良が遅れてしまったが」

「それでも危険です。ムカデ系はアバターシュで切りに行きます」

「そうとも言ってられんぞ。見ろ」

 奥森から続く地上にはイモムシ型の重量級が土煙をあげて疾走してくる。上空にはアカズトビムカデ、火炎蜂の上位種と思われる巨体が群れをつくっている。低空ではイモムシたちを守るように飛ぶオオキバカミキリの集団がクワガタのような牙を開いた。

「カッツェ取れるか? こっちは戦闘に入る。ムカデがいる。剣を使いたい」

「打撲系の剣を使えって。切れ味のいい薄刃の方はできれば残せってことだ」

「サンキュー」

 ロングソードを抜いたアバターシュが高度を上げる。

 とはいったものの、いきなり切りに行ける状況じゃないな。前線に出てる飛甲機は二個中隊二十四機のうち二機が破損、所在不明を引いて稼働数十九、狙撃仕様はオーブを含めて十一。連携して火炎蜂をトビムカデから引き離すか。

 先行した噴射装備の飛甲機隊が蟲が嫌がる成分をふんだんに使い煙幕を張る。進路を阻まれた下位種や小型の火炎蜂は地上に降りて様子をうかがい始める。抜けてくるのは手ごわい蟲に限定された。はぐれた蟲に鳥の人が鎮めの粉を持って近づいてゆく。

 ハルトが思惑おもわくを伝えるよりも早く、狙撃仕様の飛甲機が火炎蜂に威嚇発砲を開始。煙幕を張り終わった飛行隊は戦線に復帰し接近戦をしかけた。射出仕様の飛甲機は撃つことは出来ないが狙撃仕様の飛甲機とペアを組みボディーの下に装着されたブレードで果敢に蟲の翅を切りに行く。狙撃に意識を取られた蟲の背中に、ブレードを滑らせてゆくロッキ型の飛甲機。

「すごい連携だな。練度が高い」

「当たり前だ。ハルトが王都に行ってる間にやるべきことはやっている」

 ユージンの声がアバターシュのコクピットに入ってきた。

「足の遅い大型のムカデが出てくる前に火炎蜂を片付ける。ハルトも手を貸してくれ」

「了解」

 その名の通り、火炎を放出する火炎蜂の火線を盾で受け止めながら接近するアバターシュ。体格がほぼ互角の火炎蜂に背乗りになって翅を切り落とす。打撲系の剣といっても刃先にマナが流れるブレードの切れ味は鋭い。翼を失った火炎蜂が落下する。仲間を救いにきた別の火炎蜂に即座に対応したアバターシュが飛びつき、顔に盾の先端を押し付けてパイルバンカーを打ち込む。顔がつぶれた蟲の背中を踏み台にして、さらに上空のたてじま模様の火炎蜂に向かって人型を跳躍させる。

 いったん剣をしまうか。撃ったパイルバンカーを再装填するのに邪魔だ。この感じだと翅の付け根をガトリングで撃てば落ちる。

 パイルバンカーは強力なくいを打ち出す武器だ。だが左手で持つ盾の先端に装着された杭を右手で引き戻さなければ再使用出来ない。右腕上腕部に固定されているガトリング砲は砲撃自体の威力は小さいが接近してで打ち込めばそれなりの効果はある、ハルトはそう判断しマガジンを交換する。

 航空隊とアバターシュの攻撃により次々と火炎蜂が落ちてゆく。地上に降りた小型の蟲やオオキバカミキリにも飛甲機が次々と鎮めの粉を弾頭にした狙撃を行っている。

「優勢、とは言えないな。数が多すぎる」

「ハルト、ムカデがおまえの頭の上を抜けるぞ。対応できるか!?」

 っていわれても、三体の蜂を相手にしてると、

「わたしにまかせて」

 アバターシュの側面を抜けてトビムカデに高度をあげて行くのは王都の白金の機体、キザイア機に乗ったノーラだ。

「ノーラ、ムカデはまずい! 毒が」

 キザイア機に向けて開いたアバターシュの右のてのひらの先で、白い飛甲機が小さくなってゆく。前方の風防しかないパイロットの体がむき出しの機体だ。

 病床で苦しむアリシアの姿が浮んでくる。

 何百本もの赤い足をうごめかすムカデの尾先の太い針から、ノーラを狙って毒液が放たれた。キザイア機の白い機体が紫色に染まる。

 軌道を変えずに飛ぶ続けるキザイア機。毒液をそのスピードで振り払った白い飛甲機のコクピットにはキャノピーが生まれていた。フォルマージュの盾を物質化する機能を応用したオプション装備だ。

「えい!」

 ダダダダダダ――ガトリングが回る。四対あるトンボ型の翅と翅の間、トビムカデの体側に青い気体が充満した。気功から空気とともに鎮めの粉を体内に取り込んだトビムカデが戦列を離れた。

「お姉さまの機体だからね。この機体には大分乗ってるし。ハルトぅんが開発してる間にわたしも訓練してんだよ」

「にしてもムカデに行くなんて……ゲームじゃねぇんだぞ! 心配させやがって」

「――アリシアさんのことは知ってる……でもいつまでも後ろを向いてちゃダメだよ。これから綾乃ちゃんを救いに行くんでしょ!」

「…………」

「それに、ここにきて遺跡を消火してたりしたら魔力の量が一気に増えた気がする。わたしは大丈夫」

「それでもフォルマージュの機能はマナを大量に使うだろに」

「わたしこのまま上級騎士になっちゃうかも。そしたらごめんね。王族特権ってことで」

「俺の苦労を返せっ!」


「ハルト! 本格的にムカデが出てくる。加勢を頼む」

「了解です! オーブ」

 火炎蜂を片付けたアントナーラ航空隊がトビムカデの体側の気功を狙って狙撃を重ねている、青く塗られたオーブの機体に向かってアバターシュが飛ぶ。ロングソードを抜いてムカデの胴を払った。二つに別れたムカデの胴体が落下してゆく。盾で毒液を避けながらガトリングを撃ちつつ剣を振るうアバターシュと航空隊の連携によってムカデの進行が止まる。乱戦になった。補給を終えたカッツェのサジウスが戦線に復帰している。しかし補給に下がった飛甲機もあるため戦力が上がったとは言いにくい。

 この上ボスが出てきたら。

 不安がよぎったハルトにラフィーから通信が入った。

「ハルト、後衛が厳しい。後退できるか?」

「こっちは何とかする。行って来い」

 オーブからの通信に高度を下げつつ後退するアバターシュ。冷却ライフルを使う決断をする。

「ハルト、戦場では感傷に流されるな。何が最善かを冷静に判断するんだ」

 オーブ・アントナーラの言葉は、最終防衛ラインである結界の消えた近辺の惨状を見たときにハルトにその意味を教えた。

 鎧を潰され、蟲に踏みにじられた騎士たちの遺体が転がっている。人の体格と大差のない兵隊羽アリに腕を食いちぎられた騎士が肩を押さえてうずくまるその横で、蟲に組み敷かれ、首元にキバをたてられた騎士を何とか救おうと剣を振るう騎士の姿があった。

 まるで地獄絵図だ。

 騎士団入団を祝ってくれた仲間たちの変わり果てた姿にハルトは怒りでわれを忘れそうになる。

 何が最善かを考えろ。冷静に、冷静に。

 オーブの言葉を頭の中で繰り返し、自分に言い聞かせる。

 羽アリの集団との格闘を続ける騎士たちの先にはラフィーたちを抜けてきた火炎蜂やカミキリが迫っている。結界ラインに大型の好戦的な蟲が乱入すれば死傷者が増えるのは明らかだ。

 冷却ライフルを使うなら地上部隊を退避させないと巻き込む。撃てるのは三回。しかも冷気のチャージに時間がかかる。出来るだけ蟲をまとめて冷気の放出しないと。凍らせなくても冷気で蟲の動きはおさえられる。どうすればいい?

「地上の騎士は退避を。結界範囲の外に出てくれ! アリを狙撃する」

「カッツェ」

「ハルトは撃つ準備をしてろ。俺たちが状況を整える」

 カッツェのサジウスにはユージンの機体が追随していた。後退を始める地上軍。サジウス型とロッキ型から繰り出される射撃音が羽アリたちを掃討してゆく。地上軍と入れ替わるようにまだ望みのある負傷兵を搬送する飛甲機群が地上に降りた。その中には負傷兵の血にまみれながら傷ついた兵士を飛甲機の後部に運ぶ焚哉の姿があった。

「カッツェです。退避の済んだフィールドから順次爆撃を開始します」

「ベンヤミンだ。地上部隊の配置を変更する。結界ラインの防衛をハルトとカッツェ、それを援護する部隊にまかせて地上軍は全て結界の中に戻れ。後退が完了した部隊から結界が機能している部分からの蟲の侵入阻止の任務にあたれ。後送部隊は状況を報告しろ。できるだけ早くハルトの前を開けるんだ」

 行き交う通信を聞きながらハルトはタンクにつないだパイプを冷却ライフルに接続し、ライフル本体に液体窒素代わりの物質を送りこんでゆく。

「ハルト」

「アルフリードさん」

「蟲を全て凍らそうとぜずとも足を止めてくれれば良い。後は我々が対処する」

 アバターシュの上空では鳥の人が乗る守り鴉が蟲たちを射程範囲内に追い込こもうとしていた。

「今回は事情が事情だ。毒を使う。誘導する守り鴉も鎮圧に回す」

「了解しました」

「ベンヤミンだ。後送の済んだ飛甲機も後衛にまわす。ハルトはできるだけ蟲をまとめて足を止めてくれ」

「ユージンより各位、ジョナサン隊長は前衛中衛の指揮を継続して下さい。私が後衛の航空部隊の指揮を取ります。これより後衛航空隊はアバターシュの冷却範囲内に蟲を集めることに集中する。範囲外に逃げた蟲は深追いするな」

「オーブだ。まだ何とかもっているが女王が出てきたらもたない。ベン、その場合の対応を協議したい。専用回線でつないでくれ」

「わしもそこに入ろう。ウルデ様とキザイアたちの報告がある」


 責任重大だな。

 冷却ライフルの装填を終えたアバターシュに後方から一機の飛甲機が近づいてきた。

「珠絵」

「ノエルに通信機を借りてきました。ライフルの状態はどうですか?」

「今のところ大丈夫だ」

「私がコンディションを見ながら次弾装填のケアをします。安心して下さい」

「助かる。でも危険だから防御壁の後ろに下がってろ。必要になったら呼ぶから」

「りょーかいです」

 ううー気持ち悪っ、飛甲機の後部座席から降りた珠絵は、蟲の亡骸が積み上がった防御壁の後ろに下がる。前方では後送部隊が重傷者の搬送を終えようとしていた。

「後送部隊より各位、今回で運びきります。次の段階に進んで下さい」

 ユージン率いる後衛飛甲部隊が本格的に展開を始めた。広範囲に散った飛甲機が包囲網を縮める。地上に落とされた爆薬の振動が伝わってくる。百体近い蟲がアバターシュの射線上に集められた。

「ラフィーじゃ、中衛と後衛間の蟲の流れを切った。撃ってよいぞ。」

「カッツェです。高高度から状況を確認して発射タイミングを伝えます。ハルト頼んだぞー」

「りょうかい」

 ほんとカッツェって緊張したときに落ち着かせてくれるよ。才能だなありゃ。でも手が震えてる。心臓の音がうるさい。

 片膝を地につけ射撃姿勢を取ったアバターシュには、自身の全長を超える大型ライフルが握られている。

 射出は十秒。けっこう長い。8秒で飛んで上空を狙おう。あいつが降りて来なくて助かった

 上空を旋回する一体のトビムカデをハルトは見上げた。他の個体より二回り大きい。四羽の守り鴉が取り付いているが、周囲にはロッキや小型の火炎蜂がボスを守るように飛んでいる。

「アルフリードさん、最後に上空の蟲を落とします。発射のタイミングで退避するように鳥の人に伝えてください」

「了解した」

「後送隊よりベンヤミン団長へ、搬送乗り込み完了しました。本部に向かいます」

「ベンヤミンより各位、状況開始。カッツェ、判断をまかせる」

 沈黙の時間が流れる。

「ユージンだ。航空隊は射線上より退避を開始する」

「ハルトもうちょっと待ってろ。もっと引きつけてからでいい」

 ゴクリ、ハルトは喉を鳴らした。

「今だ。撃て!」

 アバターシュの人差し指が引き金を引いた。大気を白く凍らせる冷気放出の反動で右肩が震える。盾を下ろした左腕が握るライフルの添え手をゆっくりと右から左に流す。地上と中低高度の蟲が沈黙したことを確認してハルトはライフルを上方に向け、アバターシュに地面を蹴らせた。甲殻の翼からマナの光が流れる。跳躍したアバターシュから放たれる冷気の先端がボスのムカデに届き周囲の蟲も落下を始めた。

 防御壁の後ろに下りたアバターシュが着地する。守り鴉と後送部隊の飛甲機が動きを止めた蟲の鎮圧にかかる。ライフルから離したアバターシュの左手は白い霜に覆われていた。

「珠絵、どうだ?」

「まだダメです。今接続したら冷た過ぎた接続部分がもちません」


 原野では冷気に体温を奪われ、活動を停止した蟲たちに毒がまかれてゆく。目の光が消えた蟲が亡骸になっていく様をあわれむように咆哮ほうこうが轟いた。雷鳴のごとき遠吠えを発したのは白い狼だ。

「女王が出てくる。今の咆哮はそれを伝えるものじゃ……」

「珠絵」

「まだです! 今つないだら壊れちゃいます」

「オーブから後衛へ、女王に影響されたのか蟲の活性が上がった。中衛を抜けられる」

 どうする? 装填を続けるか、前に出るか?

「珠絵、間に合うか?」

「五分五分です。すいません……」

「謝るなよ、珠絵が悪いわけじゃない……ハルトより各位、次弾装填に時間がかかります。間に合うかどうかは五分五分。間に合う可能性を捨てられない。俺はここで蟲を受け止めます」

「全員後衛に下がれ!! 何としてでも止めるんだ!」

 オーブの怒号に全機が戻る。それを見透かしたように速度を上げた白いムカデが飛甲機を追い抜いていた。遠距離に視点を合わせたハルトが叫ぶ。

「白いムカデが来ます! あいつは!?」

「変異種じゃな。特性は他のムカデと変わらん。むしろ毒性は強いじゃろう」

 アルビノのトビムカデが特攻するロッキ型を長い体躯をしならせて叩き落とした。大小さまざまな赤い足のトビムカデが次々とスピードを上げる。

「先輩!いいですよ!」

  タンクに接続されたパイプをライフルにつなぎにかかるハルト。

 間に合え、間に合え。

 ネジの切られた接続部品をまわしてパイプをライフルに接続する。冷気がパイプに流れたところで上空に影が落ちた。白く長い体にうごめく赤い足。海性生物の如きおぞましい口を丸く開いたアルビノのトビムカデがアバターシュめがけて毒をまき散らしながら降下してくる。ハルトはライフルを放棄して肩の上に突き出る剣の柄に手をかけた。

 間に合わなかった。

 こいつと戦ってる間に他の蟲に抜けられる。

 そう思った瞬間だった。前方の視界が闇につつまれた。

「何だ!?」

 アバターシュの背後を飛び越していく黒い影が二つ。また一瞬にして視界が開けた。剣のつかを握って片膝を立てたアバターシュの横には、物質化した盾を消した白銀のフォルマージュがたたずんでいた。アバターシュの背中を越えていった二機のサジウスに搭乗した黒いフォルマージュが上空の蟲たちに立ちはばかる。

「待たせたな」

 キザイアの声が戦場に響いた。




フォルマージュ到着です。

次回「嬢王蜂」水曜日に投稿します。

誤字脱字報告をしてくださった方、どうもありがとうございました。感謝です!

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