テスト飛行
「ハル、どうかな?」
アバターシュの開発工房では、武装が装着され、完成形となった人型がハンガーから離れて起動している。右腕にはガトリングが装着され、左手には上部が楕円形に膨らんだ先端部がスマートに伸びる盾が握られている。両肩の上には二本の剣を収める鞘が後方に伸びている。剣は当初は剣そのものをマナで物質化する案もあったが、マナの消費量を抑えるため物理的に作られた剣の刃先にマナを流すことで切れ味を飛躍的に高める案が採用された。リライアブル・ソードと名付けられた剣は打撃を目的としたロングソードが左肩に、切ることに特化した薄刃の刀型の短剣、カトラスが右肩上方に収められている。周囲に何もない位置までアバターシュを進めたハルトは慎重に飛び立つ意識を送る。背中に装着された飛行ユニットに丸い光が集まってくる。吸気口に吸い込まれてゆく青い光はマナの光だ。コクピットのモニターにはエネルギー状況が送られてくる。
「まだ臨界に達してないけどマナの消費量は表示に現れないぐらいだな」
計器のチェックを終えたハルトがノエルに通信を返した。
「大分改善したからね。臨界させて離陸してみて。そっとだよ」
「了解」
蟲の殻を装甲とした生物学的なフォルムの人型の背中で甲殻の翼が開く。
アバターシュに集まっていた色とりどりの丸い光が翼の付け根に集まり、甲殻の翼の先端、フィンが重なった長方形のダクトから青い光が流れ出る。マナの光だ。流れそのものが鮮明に青く発光すると臨界したことが外から見ても分かる。足元まで届きそうな長い後翅が七色に反射しながら震え、全高六メートルを超える体躯が宙に浮いた。左側の大部分をカバーする盾を持っていてもバランスは崩れていない。盾は実際には持つ、というよりも左腕の肘に装着されていて、持ち手を持つのは取り回しと内臓された近接武器へのコントール接続の意味が大きい。
「ハル、テスト飛行に出れると思う?」
「特に気になるとこはないな。テスト飛行に出そう」
「それじゃわたし達は観測室に行ってるね。移動をお願い」
「了解」
ノエルの隣で通信を聞いていたミックが開発工房の扉を開ける指示を出した。まだ早い午前中の日差しが工房に入り込んでくる。開放された扉の先は裏庭と呼ばれる区画に繋がっている。裏庭は蟲殻などの素材を保管している施設からの各工房へ素材を搬入する経路にあたり、フォルマージュの駐機場となっている第一開発工房、サポート機とアバターシュを開発する第二開発工房、大型飛甲機開発が行われている第三開発工房、新型飛甲機の開発にあたる第四開発工房に囲まれ、第四開発工房の隣には、武装の開発と生産を専門とする武装工廠が軒を連ねている。外からは中の様子を覗くことが出来ないように隔離された空間の中で、保管庫の巨大な搬出口の扉が開かれたの確認して、ハルトはアバターシュを低空飛行させて飛ぶ。
上半身を持ち上げ、うつ伏せの状態で胸を張るアバターシュが低空を駆ける。頭頂部にある飛行ユニットへの指示装置であるアンテナ基部から発せられるマナが大きく伸びて鶏冠を形作り、前部が特に長く伸びているため一本の角が立っているように見える。精悍な顔つきをした人型が、足先の鋭い爪で地面を擦りそうな高度で滑空し保管庫に入った。
テスト飛行は果てなき泉の上空で行われる。
保管庫に大型の蟲の素体を運び込む地下水脈を逆に辿り、湖上に出てテスト飛行を行うのだ。すでにマティスの乗るサジウスが既に湖上で待機しているはずだ。それにカッツェの乗るサジウスが観察と緊急事態対応に加わる。カッツェの乗るサジウスは中型飛甲機の開発実験のために作られた機体だが、サジウス型の開発を終えた今、アバターシュのサポート機として運用されることになった。
ハルトはアバターシュの蒼い機体を、航空母艦のごとき昇降エレベーターの床に片膝を立ててしゃがませる。モニターに映し出される風景がゆっくりと上に流れてゆく岩肌に変わる。足元に意識を向けると視界が切り替わり地下深くに流れる水路の水面が見えた。昇降機の振動が止まると大型船が行き来できる洞窟の中を、湖面がきらめく出口に向けてアバターシュを飛ばす。
二つの青を水平線が上下に切り分けている。護岸付近で待機していたサジウスが離陸しアバターシュに近寄るとマティスからの通信が入った。
「どうだ? 人型で飛ぶ気分は」
「まだ慣れないのもあって妙な感じです。意識すればその通りに動くのは飛甲機と同じなんですけど、腕や足も自分の身体と同じように動くんで。今日は飛ぶイメージの反応速度とレッドーゾーンでの耐久テストを中心に機体に負荷をかけていこうと想います。少しでも可怪しいと思ったらすぐに止めますが、機体の制御が効かなくなった場合は回収をお願いします」
「了解した。サジウスに乗るのはファルマージュとの連動精度を高めるよい訓練になる。落りそうになってもその前に拾ってやるから安心しろ」
「よろしくお願いします」
ゆっくりと高度を上げながら徐々にアバターシュを加速させるハルト。
「化身、っていう名前が似合うな。意思がそのまま機体のコントロールに繋がる人型なんてパワードスーツどころじゃないぞ。器械とかロボットの域を超えてる。まぁ巨大な魔道具なんだけど。ちょー楽しい!」
だって男の子だもん。というセリフが聞こえそうな顔をしてハルトはアバターシュを駆る。甲殻の翼が大空を駆け抜けてゆく。実験機を示すオレンジ色のラインがボディに入ったサジウスに乗ったカッツェが合流し至近距離での観察に入った。
飛行テストの管制塔としての使用許可が出た施設の中には窓の外に向かって双眼鏡を覗き込むノエル、ミックの姿があった。ソフィーは立場をわきまえて一歩後ろでおとなしくしている。管制を行っている施設は湖に面した崖の一部がくり抜かれた空間にある。湖面と保管庫のある地上レベルの中間に位置する船の運行監視施設を借りて管制しているのだ。
「湖の上で鎧を着た妖精が飛び回っとるようじゃな」
「遠景で見るとそうですね。でも 拡大してみると飛竜の指が足についてますしもっと獰猛なものに見えますよ」
双眼鏡を降ろしたミックはソフィーを呼んで貸し渡す。ソフィーは思わずぴょんと飛んで喜びを表したがいつものように騒ぐことなく、白衣の前をしっかりと閉めて、殊勝に双眼鏡を覗いている。
「拡大してみると確かに獰猛、という言葉がぴったりじゃな。ロッキや火炎蜂くらいじゃったら文字通り蹴散らせられるわい。じゃがあの足は物を掴める。木や崖の岩を掴むことも出来る。地上での足場を選ばないというのは大きなハメリットじゃ。よう考えたなミック」
「鳥さんなんかは細い木の枝に乗ってても平気な顔してるもんね」
ノエルの不安はすっかり払拭されたようだ。
「――随分と可愛い物言いだな」
窓際に集まる開発者達の背中から威厳のある声をかけたのは騎士団総長、第二王女のキザイアだ。
「キザイア様。お越しになられてたんですか」
振り向いてすかさず頭を下げるノエル。
「今着いたところだ。どうだ? アバターシュは」
「テスト飛行は今のところ順調です。まだまだ改良出来るところはあると思いますが、一連のテストが終われば一応の完成といってもよい段階になると思います」
「しかし自立飛行するものを作ってしまうとはな。貴族達のフォルマージュ信仰も厚いが空を飛ぶところを見ればアバターシュとフォルマージュが別物であることを認識せざるを得ないだろう」
「装甲に装飾が入ればもっとフォルマージュのイメージに近づくとは思いますけれども……」
ノエルは敢えて蟲の外殻を装甲にしているためフォルマージュとは心象の異なることを伝える。
「うむ、思ったよりも良いデザインになったが、私も装飾のデザインに関わらせてもらおう。政治家達を説得するにも重要な案件だ」
ノエルとハロルドは、高尚な装飾を施すことに意欲を燃やすキザイアに可愛いものでも見るかような視線を向けた。
「邪魔したな、試験を続けてくれ」
言いながらキザイアがノエル達の一歩後ろに下がったところでハルトから通信が入った。
「ノエル、空中での緊急停止と反転に入るぞ」
「了解。気を付けてね。エレオノーラ様はまだアバターシュが空を飛ぶ姿を見てないんだから。墜落とか、やだよ」
「すこしづつ負荷を上げていく。外からみて挙動が怪しいと思ったらたら教えてくれ」
「了解」
アバターシュの背中から蒼いマナの光が流れる。上空で加速し緊急停止のGがコクピットの空間を歪ませるが液体に包まれているハルトには直接響かない。衝撃を緩和するボディー構造と重なりあった装甲が過負荷と無理な姿勢にも対処している。限界を試すように空を駆けたアバターシュが空中で静止すると左肩上方に持ち手のある打撲系の剣を抜いた。打撲系のロングソードと刀型のカトラス、二つの剣を持ち替えつつ全力飛行で身体を回転させながら上昇と降下をくり返すアバターシュ。最大戦速から急停止、リライアブル・ソードを上段からフルスイングの連動運動にもコクピットのアラートは鳴らない。ハルトは剣を肩の鞘に収め再び最大戦速に入る。
「うっは、すげーな、こりゃ。全力開放したサジウスでもついていけない」
通常飛行に戻ったアバターシュにカッツェの乗るサジウスが追いつき、コクピットのハルトにノエルからの通信が入った。
「外から見てて不安なところは見当たらないし、カッツェも異常はなさそうだって。マナの消費はどうかな?」
「まだまだ余裕だ。飛甲機と比較できるくらいの燃費効率じゃないのかこれ? って思うくらいだよ」
「稼働可能時間予測との差異は? 戦闘時に近い運動をしたと思うけど」
「この運動量だと……。そうだなレベル3の予測範囲に収まってる。予想から大きくは外れてはいない。でも飛行ユニットの温度がレッドに近い」
「分かった。一旦ここまでにしよう。工房に戻ってもらえる。冷却液の配合もう一段上のものに変えてみようってハロルド様が言ってる。冷却システムを調整したら珠絵さんの開発した武装との連動試験に入るよ」
「了解。これより帰還する。その前にサジウスに降りてみるよ。足の指の繊細な動きをチェックしておきたい。マティスさん、いいですか?」
「了解した。乗機体制に入る。フックを出すぞ」
「行けそうなら直接固定ユニットを掴んでみます」
「了解。スピードは非戦闘時のレベル1で行おう」
「はい。では、行きます」
対趾と呼ばれる二本の指が前後で対になった四本指が足元から伸びる。元は飛竜のものであった指先が、掴んだ獲物を離さない握力でサジウスの背中の固定器具を鷲掴みにする。
「おいおい、固定器具ではなくて装甲を掴んでも壊してしまいそうだな」
「大丈夫ですよ。自分的には優しく掴んでるんで」
問題ないことを告げるハルトだが、マティスにはそうは思えなかったようだ。足の指先で弧を描く、太く切っ先の鋭い4本の爪を間近で見ればそうも思いたくなるだろう。見た目の通りサジウスとの連結を確固たるものにした二機が岸壁まで進み、自立飛行に戻ったアバターシュの姿が洞窟の中に消えた。
飛行ユニットの調整を終え、珠絵の指揮の元に武装の調整と予備のマガジンを装着したアバターシュが再び洞窟の中から姿を表した。
管制室に入った珠絵がヘッドセットを通じて指示を出す
「先輩、まずは遠距離攻撃用の武器からいきます。右腕に装着したガトリングは飛甲機で仕様したものと同じスペックですが冷却システムが追加されているので安定性は上がってます。火炎放射器と冷気の放出器もありますけど、特殊な場合のオプションだと思って下さい。ライフル型になってるので通常はサジウスに下腹部に装着して運ぶことになります。アバターシュの全高の1.5倍くらいあって常に持ち歩ける大きさじゃないんで。蟲を行動不能にする、という意味で、一番破壊力があって有効範囲が広いのが冷却ライフルなんですが、チャージと砲身凍結を防ぐウォームアップに時間がかかる上に3回しか撃てません。決戦兵器にはなると思うんですけど、扱いが面倒なので今回は固定武装のチェックを中心に行います。盾の中にも近接用の武器が仕込んであります。むしろガトリングより破壊力が高いんで後ほど使い方を説明します」
「了解」
「まずはガトリング砲からいきましょう。これは右腕に固定されてますがパージ可能です。剣での戦いになって邪魔だと思ったらパージでしちゃってください。パラシュートが開いて後で回収する仕様になってるんで空中から落として平気です。予備のマガジンは、二つを腰裏の弾倉カバーの内部に、盾の裏の上部に3つ装着してありますが、サジウスにも予備を積んであるんで弾切れになったら取りに行ってください」
「弾頭は実弾が入ってるんだよな」
「そうですね。粉系の弾頭も重量を揃えてあるんで同じ軌道を描きます。実弾とはいっても炸裂するわけじゃないんでそれほど威力はありません。威嚇に使うか蟲の翅の根元とかの弱いところを狙う感じですね。今回は閃光弾を多めに混ぜてあるんで弾道を視認できるはずです。今装着してあるマガジンは全部閃光弾です。ますは単発で撃って、反動を考慮しながら弾道を固定することに慣れてください」
「反動か。アバターシュの腕は飛甲機に固定してたときと違って自由に動くからな」
ハルトはアバターシュの右腕を曲げて前腕外部に装着されたガトリング砲の様子を見る。砲身の先端が手首よりも後ろにあるので装着したままでも剣を握ることが可能な位置にあり、後部は前腕部に収まりきらず肘から後ろにはみ出している状態だ。六本の20ミリ口径の砲身を円形にまとめた先端部が見えているが、ほぼ全体を覆うカバーが付いているため見た目1門の太い砲に見える。肘より少し後ろの内側にマガジンが差し込まれ、左手での交換を容易にしている。単発で試し撃ちをすると薬莢が外側に排出された。
「ここを狙いたい、って思いながら撃てば大丈夫だな。アバターシュは自分の体みたいに動くからトリガーを引くタイミングだけだ」
「いい感じですね。連射もしてみてください」
アバターシュはパイロットを包み込む感応液を通じて、パイロットの意識を思念として受け取って動くためコントロール系の操作桿はない。トリガーはコクピット内部の側面からバーを倒してくることでパイロットの左右の手元に降りてくる仕様だ。武器の使用には物理的なコントローラーがあった方がしっくりくる、とハルトがあえて作ったものだ。
ハルトがトリガーを引き続けると、一秒間に六発の閃光弾が発射される。後半の射線がブレた。
「連射すると射線がヨレるな。反動が大きい」
「一番慣れなきゃいけないのはそこでしょうね。どんどん撃って下さい。撃ち終わったらマガジンを取り替えて続けて下さい。マガジン切れになったらカッツェのサジウスに届けに行ってもらいます」
ハルトは連射を続け最初のマガジン換装に取り掛かる。
「連射を続けて冷却が必要になったらトリガーが赤く光ります。マガジンを交換してる間に冷えるくらいなんでそんなに気にすることはないと思いますけど」
右のトリガーは現在、使用可能を示すグリーンに光っている。連射を終えたハルトはマガジンを取り替えフル連射を試した。トリガーが赤に変わるが次のマガジンへの換装を終えるとグリーンに戻っていた。弾倉が空の間はトリガーに光はない。
「特に問題はないな。凄いよ、珠絵の撃つことへの執念は」
「冷却装置で外側をくるんでますからね。大分改善しました。でもこれで驚いてもらっては困りますね。」
「次は近接用の武器だっけっか?」
「はい。拘束網の射出口は左右に手首の下に埋め込まれてるの腕を伸ばした方向に飛びます。パージするまでは網を手で握った方がいいかもですね。でも拘束するなんてことが煩わしい状況のために新たな武装を作りました。盾の先端が細くなっているでしょう? その裏側から杭が打ち出されるようになってます。相手に接触して打ち込めば硬め蟲の殻も破れますよ」
「パイルバンカーか」
「そうそう、それです。ちょー強力な圧縮装置をハロちゃんさんに作ってもらいました。撃ったら杭の取手を右手で引いて元に戻してください。自動的に空気が再圧縮されるんで何度でも使えます。左のトリガーがグリーンになったら撲打可能です。でも衝撃が大きいのでの使いすぎると壊れると思うんで注意して下さい。手首内蔵の射出系のチェックをしてからパイルバンカーの試験にいきましょう」
平常時は手首の下に収まっている射出装置は、拘束網だけではなく、鎮め、眠り、蟲除けの粉の噴射を選択できる仕様になっている。粉の射出を絞って射程を伸ばしたり、広げて広範囲へ散布することも可能だ。粉類の射出を確かめるとハルトは拘束網を右手から放った。手首の根元から放たれた網を掴み取るのも問題ない。左右の網で蟲を拘束できれば飛甲機からの命中率も上がるだろう。拘束網を受けてくれたカッツェからパージの指示が入る。アバターシュの手元から拘束網が離れ、青い空に走った白い線が垂れてゆく。拘束網を、煙幕を引くようにはためかせて置きに行くサジウスに続いて、アバターシュを護岸に着けるハルト。開けた岩場には幾つかの甲蟲の殻が並べられている。
「パイルバンカーの試射に入りましょ。並んでいる殻は的として用意してもらったものですが、硬さのランクが三種類あります。手前側の方が軟らかいです。――まずは両足を広げてボディを安定させた状態で撃ってみて下さい。腰を落として衝撃吸収の姿勢を取った方がいいかもしれません」
ハルトは指示された姿勢を取り、細長く伸びる盾の先端を最初の的に当ててパイルバンカーを放った。鈍い炸裂音と共に重みのある杭が強大な圧縮空気に押し出さる。杭は珠絵が言うほど軟らかくも薄くもない大型の甲蟲の殻を貫通した。アバターシュの足の爪で殻を踏みてけて杭を引き抜く。獲物から開放された杭を右手で元の状態に戻すと、圧縮が始まったことを示すゲージがモニターに現れる。ゲージが貯まりグリーンなるまで10秒ほどだった。
「連射、というわけにはいかないけど次発装填までかなり早いな。これは使える」
「ですよねぇ。一撃必殺の威力があるんでこの装填タイムをそれほど気にすることはないかと。ただ蟲の体液から何らかの影響を受けるかもしれないんで実戦では返り血を浴びないように気をつけて下さい。次のバージョンではマナが物質化したガードが射出と同時に出るようにしようと思ってます。とりあえず今日は姿勢を変えつつ、どの程度の衝撃が返ってくるのかを体験して下さい。それと最後に岩を撃ってみて下さい。バンカーがめり込むことはないでしょうけど左腕の可動でどれだけショックを吸収できるのかデータを取りたいです」
「りょーかい。実戦を想定した姿勢で撃ってみるわ」
次々に位置と姿勢を変えてパイルバンカーを打ち込んでゆくアバターシュ、管制室で双眼鏡を覗きこんでいる珠絵の口端はゆるみ、恍惚が流れ出ている。双眼鏡を離すことなく食入りように見つめていた珠絵が、赤くなったほほの下まで通信機を持ち上げて話しかける。
「どうですか、先輩。気持ちいいですか? じゃなくて、問題ないですか」
「ああ、岩ぐらい硬いものを撃つとさすがに衝撃がすごいけど、まだ機能してるな」
「今日はこれでオーケーです。次からは本格的な射撃訓練に入りましょう。帰還して下さい」
「了解」
アバターシュが傾きかけた陽光を背負って再び崖の中に消えた、管制室を出る開発者達の歩幅は大きく、満悦の表情を隠せていなかった。
省力化と大幅な戦力アップを果たしたアバターシュは完成間近です。
変化の秋が近づいています。
次回「幾何学予想」
金曜日の投稿になります。




