第1話
町らしきところを見つけた彼はどう動く?
そこは平屋の安っぽい綺麗な家が立ち並ぶ、正に始まりの町と呼ぶに相応しい町並みであった。彼は、厳つくてがたいの良い男がこちらに向かって来るのを目に入れずにはいられなかった。何せ、人は少なけれどもそこには、軽そうで弱そうな装備を身につけた如何にも初心者な男女達が群がっていたのに、その男の前には歩く道が出来ていくのだから。
「ぼ、僕に、な、何かご用でしょうか」
「そう弱気になるな。俺はここのギルマスをやってんだ」
怯えつつ彼が訊くと男はそう答えた。だが、彼はその男の言うことが理解できず再び訊く。
「ギルマスとは、何ですか」
「ギルドマスター、まあ、冒険者の集いの代表て言うか、責任を負うたり管理しとるグラン言うもんだ。んで、その敬語やめてくれ。堅苦しいのは嫌いだからよぉ」
「あ、す、すみません‼こ、これからは気をつける…」
「ハッハッハ!ぎこちないなぁ。まだ堅ぇ、堅ぇわ」
あまりにぎこちないタメ口に彼はグランに背中を叩かれた。
「おお、体も堅えか。ガハハハ。こら、傑作だなあ」
「すげえな。力自慢のグランさんの叩きを受けて微動だにしないなんて」
そう言うのは、そこに群がっていた男女達の中でも強そうな男。故に彼は悩んだ。
「そんなに強かったの、今の…。全然痛み感じなかったけどな」
「な、何おお!?んなら、力比べだあな‼」
「ちょ、ちょっと待って。待ってください」
「待った無しじゃああ」
彼は、素直に言い過ぎ意図せずにグランを挑発してしまったようだ。また、意図せず彼はこの世界における自分の強さを知ってしまうのだった。
いつの間にかその場には質素な実況席と立派な戦場が出来ていた。故に彼は諦め戦闘準備する。
「あ、あの…」
「何だ」
「ぼ、僕、戦いの経験無いです」
「何、馬鹿なことを。さっさか、始めるぞ」
「え、ええ」
〈私がお助けしましょうか〉
(お願い)
〈承りました。勝手ながら貴方の能力を調べ、推測させて頂きました。貴方はまず木刀を手に持っていると想像してください。相手は戦闘大斧を持っていますが、その刀で容易に倒せるでしょう〉
「おお、黙り込んで、怖じ気付いたか」
「そんなことは無いさ。さあ、始めよう」
「ふっ!後で悔やむが良い」
「さあ、両者準備が整いました。この前代未聞の挑戦者の新米冒険者のお相手は我がギルマス、怪力野郎グラン‼よおく、見合ってぇ…試合開始‼」
カンッ‼
試合開始と同時にゴングが鳴る。
「シャァラァ‼」
グランが右手に持つその大斧を大きく振りかぶり一目散に襲いかかる。
「んぬぅ!?何じゃあ。何じゃあ。聞いておらんぞ。そんなもん」
無残にも彼が念じ出現させた木刀により受け止められた。鋼鉄製の大斧が。
「ぬぁら。ぬぁら。ぬぁらあ‼」
グランは唯一の攻撃であり自慢の力任せの攻撃が通じないとわかるやいなや唯々大斧を振り回すだけであった。何とも惨めで、ギルマスの名を汚す行為だった。
「やぁぁ‼」
故にグランの脳天を悠々と狙い打つことが出来た。グランは見るも無惨に彼の目の前に俯きに倒れる。彼はと言うと『指導者』により倒れかかってくる寸前に避ける事が出来た。
彼は人集りの真ん中にいる。その経緯は簡単だ。
彼がギルマスのグランを倒した後、実況席にいた眼鏡の男が真っ先に彼の元へ駆け寄った。
「あんたスゲぇな。何処で修行したんだい」
「いや、ここが初めてだよ」
「そらあ、どういうことだい」
「そのままだよ。ここに来る前には何処にも行ってない。と言うか一週間以前のことは一滴も覚えてないんだ」
「「「何だってぇ。」」」
その場にいたほぼ全員が驚いた。
「あたい、アレンって言うんだ。あんたの名前を教えてよ」
そう言うのは試合前に彼を褒めた強そうな男の隣にいる女だ。その女の目は輝いて見えた。
「さっきも言った通り、記憶が無くってさ。名前も思い出せないんだよ」
「何じゃと、有り得ん強さで記憶喪失とな?儂の書斎で見たものと似た状況じゃの」
何処から現れたのは定かでは無いが明らかにこの町の中で最も色々と詳しそうな腰の曲がった髭も髪も長いご老人だ。
「そのものって?」
「それは言い伝えをまとめた書物でな。こう書かれておったのじゃ。」
懐からその書物を出し、読んだ。その話はこんな感じだった。
《人族の生まれる前程の昔。身元のわからないものが多く発見された。その者達は、未知の地名や道具、技術を話したり、成体にも関わらず以前の記憶が無かったり、疑いの余地が無いような事柄を宛も空想上のものと言わんばかりに驚ながら語ったりなどと様々だった。が、その者達は一様に身につけている衣服は、見たことも聞いたことも無い特殊な素材や設計、柄であった。またその者達は皆Bランク以上程の強者ばかりであった。》
その話が終わるや否や彼を見る周りの目が変わった。それは汚物を見るような軽蔑の視線。だが、それが全てでは無かった。中には神の恵み、美物を見るような尊敬の視線もあった。そこから彼はその町に居辛くなったのだった。
あの顔の毛という毛が全て長い老人はやはりその町の町長だったようだ。その町長の厚意により、その町の教会へ行くと名付けについて占ってくれるらしい。何でも『名付け』という行為は親が居ない場合、神のお告げによって何処でどのように付けるのかを決めるのだそうだ。直接そこで決めた方が早いのにとは思うがそれは言ってはいけない約束だ。言われた通り彼は教会に行き、神のお告げを聞かせてもらった。そのお告げは……「かの拠点へ戻りなさい。さすれば、名付けられるだろう。」だった。彼は『名付けられる』と言う表現に引っ掛かったが、今は気にしないことにした。
彼は町長に事情を説明し、一度あの拠点に戻ることにしたのだった。今思えばあのとき何でその拠点の中を覗かずにその場を離れたのか。調べていれば何か記憶の手がかりとなるだろうに。だが、戻れるようにしていたことは、素直に褒められるところだろう。彼は、少し自分を褒めつつ拠点へ戻るのだった。
その道中、彼は黙って帰るのもつまらないので『指導者』と会話していた。
「ねえ、『指導者』。他に呼び名とか無いの。何か『指導者』って呼ぶのに疲れてきちゃってさ」
〈『指導者』と言う呼び名が最も短く私に最適かと思います〉
「そうかぁ。じゃあ、『シーシャ』で。良いよね?」
〈え、あ、はい。構いません。有り難う御座います〉
「やっぱ、シーシャは堅いなあ」
〈私をお産みになってくださった貴方への少しでもの敬意でございます〉
「良いよ、そんな堅苦しいのは」
〈そうですか。では、そうします〉
「…この世界のこと、教えてよ」
〈そう言われても――〉
シーシャが言い切る前に更に問う。
「『指導者』って言うくらいなんだから、知ってるでしょ?」
〈いえ、知っているのは貴方の記憶しているものだけ。貴方が知らないものは知らない〉
「そうかぁ。じゃあ、家に情報があれば良いな」
〈さいですね〉
「あ、見えてきた」
行きよりは少し早く着いた気がする。と言うか、実際そうであった。行きよりは二日程早かったようだ。何故、そんなことがわかるのか?それは秘密だ。さて彼だが、拠点が視界に入った途端に猛疾走。拠点の開き戸の扉を勢いよく開き叫ぶ。
「ただいま‼」
これを言うと安心する…そんな気がした。家の中は一つだけの部屋。奥には中央に暖炉、その左右に本棚が、右手側には黒い毛布の掛かった安っぽい寝台が、左手の壁と寝台の中間程には楕円形天板の卓が、あることが見て取れた。卓と寝台の間に入りくるりと後ろに振り返り見る。右には靴や服を仕舞える押入れ(クローゼット)、逆側には道具や武具を入れられる押入れ、中央には当然ながら扉があった。彼は「僕にしては良い家を持ってたな」と感心し、自分について調べようと本棚一杯に整えて並べられている本の一つを手に取る。その本は魔道書であり、そこにある字は当然ながらその世界特有の文字である。だが、今の彼には『指導者』がいる。よってすんなりと読むことが出来た。
そこにある全ての本を読んだ。と言うよりは、シーシャに読ませた。幾ら時間が経ったのだろうか、彼にはわからない。そこにあった全ての本の情報をシーシャは学習した。が、彼本人はと言うと、殆ど忘れていた。だが、シーシャが覚えているので問題は無い。何故なら、彼が自ら多くの情報でパンクしないようにと記憶機能の分離をお願いしたからだ。
家の扉がノックされた音に目を覚ます。彼は、動揺はしたが扉を開けてノックした者の確認する為に近づく。開けると、そこにいたのはスーツを着た二十代くらいの男だった。
「やあ、名前が欲しいんだって?」
彼が扉を開いたのとほぼ同時くらいに訊いてきた。
「は、はい。そうです」
「そんなかしこまらなくて良いのに…」
まだ何か言っていたようだが、彼は聞き取れなかった。
「まあいいや。君って幾つ?」
「何を訊いて…」
彼が言い切る前にその男は言う。
「ああ、年とか『階級』とか『成長値』とかわかってないか。そうか。ん~、十代後半、ランクは『E⁺』、レベルは『50』か。Cでもおかしくないのに…。ああ、そうか」
「あの~」
「ん?ああ、ごめんごめん。つい癖で独り言してたみたいだね」
「それはそれとして、何で何も言ってないのにわかるの。初対面だし」
「それはね、僕の持つ能力の『調眼』のおかげで隠していても全てお見通しなのさ。いやあ、ありがたいよね」
「で、名付けしてくれるんですよね」
「そんな鋭く刺すような目で訴えるなよ。まあいいや。名付けね。そうだな。『オサム・フネィティフォー』とかどうよ」
「嫌です」
「わお、すごくきっぱり断られたわ。じゃあ、牙で山に攻めるで『牙山 攻』ってどうよ」
「それなら良いです」
彼―――いや今はもう攻か―――が渋々肯定すると、体が神々しいオーラに包まれたような気がした。と言うか、そう見て取れた。そして心―――いや、核―――に『牙山 攻』と言う名前が刻まれたようだ。と同時に攻は、酷い疲労感に襲われそこに倒れるのであった。
攻は目を覚まし周囲を見渡すと眠る前といた場所が違った。そこは何の施設かはわからないが、とりあえずその部屋には一畳程の寝台が六つ並び、そのうちのその部屋にある引き戸の扉から見て右手側の最奥の寝台に寝かされていた。まあ攻は、家に来たあの男に運ばれこの病室と思わしき部屋にいるのだろうと素直にそう考えた。あまり深くは考えることは今の体に何が起きているかはわからないが良い影響を与えないだろうと思った故に。だが攻は思った。「暇だ」と。なんせかれこれ2時間31分弱の間、何もせず唯々回復する時を待っているのだから。と、ふと思う。「ワンチャン全快してね?」なんて。だが、確かめようが……。攻は考える、感じようとする。だがわからなかった。すると、何処からとも無く声が聞こえてきた。
〈僕を忘れてない?〉
攻は驚くが、直ぐに冷静になった。「そういや、シーシャがいたや…ん?」と言いつつ、ふと引っ掛かった。「僕」?そう、確かにシーシャはそう言った。だが、今まで一人称が「僕」ではなかった為に再び動揺する。動揺するのを待っていたかのような瞬間で話しかけられる。
〈いや、攻が堅苦しいのはいいって言うから…〉
それはもう以前のような堅苦しくたどたどしかった言葉遣いが綺麗さっぱり消えたものだった。それ故に攻は動揺していたのだが…。
そう二人(?)が会話しているとノックも無しに扉が開き、人が入ってきた。それはグランである。そして、一言も口に出さず攻に殴りかかる。攻はその向かって来る拳を目で捉えることが出来たものの、避けることは出来なかった。故に力自慢のグランの拳を頭で受けてしまい、意識を失った(ブラックアウト)。
さて、これはどういうことなのかって感じで終わりました第一話です。
今後もこんな感じで続きが気になるような感じで区切って投稿していきますので、応援よろしくお願いします。
というか、テスト期間中にこんなことやってて良かったのだろうか…。
投稿予定日は未定ですが、次話も頑張って必ず投稿します。気長にお待ちください。




