表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知勇の士達  作者: Yuri
第二章 英国人青年の日記(地球編)
10/40

9、開かずの部屋にあったもの

 二人は夏美の部屋にあるテーブルを挟んで座った。夏美はその上で使っていたパソコンや広げていた資料を片付け、彷徨(かなた)と向き合った。

「まず、これを見てほしい」

 彷徨は綺麗になったテーブルの上に、さっそく二冊の本を置いた。片方はA5サイズの革で製本された海外の本だった。表面も美しく加工してある。一方でもう一つの本はというと、A4サイズの黄ばんだ紙の束を綴り紐で綴った、「本」とは少々言い難いほど簡易的なものであった。

 だが、夏美はこの二つの本を知っていた。何故なら両方とも、今朝方祖父の書斎に入って手に取っていたのである。

「〝月夜の散歩〟…」

 夏美は黄ばんだ紙束の表紙に書いてあった、「月夜の散歩」と達筆な字を見て呟いた。その表紙は今までに何度もめくったためによれていて、丁寧に扱わないと今にも外れそうだった。

「ねえ、彷徨。これっておじいちゃんの書斎にあったものでしょ?ほら、私の部屋を出て左に行った廊下の突き当りにある部屋」

「正解」彷徨は驚いた様子で言った。「もしかして、なっちゃんはこの本のこと知ってたの?」

 夏美は「月夜の散歩」の表紙をめくる。

「知ってた…っていうより、今朝見たんだよね」

「今朝?」

「大学で使える資料とかないかと思って、おじいちゃんの書斎を物色してたときに見つけたってだけ」

「そうなんだ。僕は今日初めてじいちゃんに連れて行ってもらった。小さいころ、ドアの隙間から見たときと同じように、本が沢山あった」

「そうだね」

「小さいころは入れなかったからね。夢っていうほど大げさではないけれど、素直に嬉しかったよ」

 確かに、あのときの祖父の部屋は「開かずの部屋」だった。「開かずの部屋」と名前をつけたのは、夏美の兄である悠夏である。彼も部屋を開けようと試みた一人、ということだ。

「確かに入れなかったね。部屋の前に段ボールが置いてあって、それを片付けたとしても扉は開かなかったから、最近まで部屋の存在すら忘れてた。でも、何を思ったのかひと月前に、おじいちゃんが片付けてくれて入れるようになったんだよ。それからちょくちょく部屋の中を覗いてる」

「そっか」

「うん」

 彷徨は「月夜の散歩」を見て夏美に聞いた。

「この本の中身は見た?」

「一ページ目めくって読んで止めた」

「どうして?」

「誰かが書いた小説だと思ったから。ほら、手書きだし、おじいちゃんが書いたものだと思って、なんか見たら悪い気がして止めた。まあ、一ページ目は読んじゃったんだけど」

「小説かあ…」

 彷徨は笑って頷いた。

「なっちゃん、これは小説じゃないよ」

「え、違うの?」

「うん。小説じゃなくて、日記だ」

「日記?」

「そう」

「これが?」

「うん」

 夏美は目を瞬いてちょっと考えると、「月夜の散歩」の一ページ目を指さして言った。

「ねえ、彷徨。これ、ちょっと読んで」

「この一ページ目を?」

「お願い」

「何で」

「いいから、読んでみてよ」

 彷徨は夏美に言われた通り、一ページ目に書き記されていた内容を渋々朗読し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ