アンネットワールド
チュン、チュン…
「ふわー…」
スズメの鳴き声と同時にだらしないアクビをしながらいつものように学校へ向かっていた伊弉弥勇人。すると背後から2人の少年と少女がやってきた。
「おはよー!ゆうと♪」
「お前、またネットでもして夜更かししてたのか?相変わらずだな。」
「うるせーよ、尖、万貴。別に挨拶なんて要らねーのに。」
「そんなこと言わないでよー。うちら幼馴染でしょ?」
いつものように変わらない挨拶を交わす3人。
幼馴染と名乗る2人、正木尖と、佐原万貴は小学生からの長い付き合いだ。
だが、伊弉弥は2人の絡みが苦手で一人でいる時が最近の幸せだと思うようになっていた。
そんな伊弉弥を含め3人は今、高校生なのである。
いつものように授業を受け終わり、3人でカラオケやゲーセンで遊び、2人と別れた伊弉弥は、1人寂しくいやむしろ気楽に下校をしていた。
(やっと1人だよ…)
心許無いことをつぶやきながら、スマホをいじろうとズボンのポケットから取り出し電源を入れると急に世界は一変した。
「な、何だよココわ…」
驚くのも無理はない。いつものように登下校していた道がいきなり見たことの無い風景に変わっていたのだから。すると、目の前に1人のお爺さんが現れ、こう語り出した。
「ここは、ネット環境が減少した時代、"アンネットワールド"じゃよ。少年よ。」
「は?アンネットワールド?何なんだよそれ。」
「"アンネットワールド"はそのままの意味じゃ。君達がいた世界とは区別にならない程ネット環境が減少した世界でな、その原因は何故かはワシにも分からないのじゃ。だからお主に調査をしてもらいたくて呼んだのじゃ。いきなりでもうしわけないが頼むぞい。」
お爺さんの話に寄ると、最近この世界でネットワークを嫌がる人が現れたらしく、ネット環境が充実している生活を送っている人達がPCや、スマホ、タブレットを破壊され、生活に苦しんでいるらしい。
そんなハッカーを食い止めようと、何度か自分でも試してみたが余りにも敵が強すぎて対処できずに時が経ってしまい、年齢が重なり、自分が調査するよりもネットに詳しそうな人間に任せた方が良いと判断し、その人を探していたらしい。
それで、立候補として伊弉弥勇人が選ばれたのだ。
「な!そんなの唐突すぎるって!調査するならもっといるだろ!ノートパソコンとか、タブレットとか!何でスマホ1台のみなんだ?、てか、何でじいさんは俺の事知ってるんだよ!」
「それはな、わしはこう見えても神じゃから何でも知っているのだよ。そして、この世界でそれだけのネット環境が充実していると主の命が危ないからのでな。ワシも色々持っていたのじゃが、全て壊されてしもうて、このザマじゃ。でも安心せい、お主のスマホには多種多様な機能を付けた。例えば充電は常に減らないようにしてある。その他にもWi-Fiは何処でも使えるようにしたり、悪い奴らに悟られないような機能を付けた。それなら文句あるまい?まぁ何か困ればワシに連絡をくれ。名前は"神"で登録したからの。では頑張ってくれたまえ。」
と長々と説明し終えた"神"と名乗るお爺さんはどろんと消えてしまった。
「お、おい!待ってくれよ!まだ心の準備出来てねー!」
伊弉弥が声を張り上げて呼び戻そうとしたが時既に遅くもう、神の存在は無かった。
「はぁ…。これからどうする?」
途方に暮れながら、これから待ち受けている伊弉弥勇人のネットが減少した世界での調査がどんなに過酷なものか知る由もなく始まろうとしていた。