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シーン9 急展開?、何が?〜シーン12.9 チャリンコリンリン

このお話はフィクションです、実在の人物団体等とは一切関係ありません。一応推理小説です。後半格闘シーンがありますし、人死にが出ます。ご注意ください。この話で描写されている内容を模倣しないでください。電気関係の法律に違反する可能性があります。

シーン9 急展開?、何が? 〜常盤邸近くの路上〜


二手に別れていた一行が合流したのは、もうかなり暗くなった午後7時過ぎだった。


江戸川が、大山に言った。


 「恵美子のアリバイは、完璧ですね、店のマスターも、他の客も嘘を言っているようには、見えないし」


 大山が、頷きながら


「一郎の、アリバイもだ。カラオケボックスの防犯ビデオにしっかり一郎が写っている。クローン人間でも、身代わりに立てなきゃ、一郎に常盤さんは、殺せない」


 英吉が思いだしたように言った。


「そういえば、この近くなんですよね、由美子って人のアパート。僕、ちょっと行って同じアパートの住人に聞き込みしてきます」


「あ、護国寺君、俺も行くよ。こういうときは、警察手帳が物を言うんだ」


「暑い暑い、とか、コーヒーコーヒー、とか、ですか?」


「言ってろ」


 英吉と大山は、連れだって由美子のアパートに向かった。


 絵美は何事か考え込んでいる江戸川の顔をのぞき込んで聞いた。


「先生、何考えてるんですか?。絵美ちゃんは可愛いなあ、とか?」


「うん、それもあるけどね…」


 車のヘッドライトに幻惑されて、江戸川の表情は読みとれない。絵美は、自分で言っておいて、真っ赤になった


「…………(夜でよかった…)」



シーン9,5 大活躍?、誰が? 〜由美子のアパートの近く〜 


 大男の英吉と小柄な大山の、凸凹コンビは、買い物帰りらしい由美子を見つけた。由美子は、通りの向こうからこちらへ向かって歩いてくる。まだこちらには気付いていないようだ。英吉が声を掛けようとしたが、それを大山が止めた。一人の男が、由美子の後を尾行してきているのだ。由美子が小走りになると、その男も小走りになる。由美子が走り出すと、その男も走り出した。


「痴漢だ!」


 凸凹コンビが走り出した。大山が先に追いついて、後ろから抱きつき、豪快な裏投げ、そこへ、英吉がやってきて袈裟固め。


大山が審判員よろしく右手を動かして、叫んだ。


「技有り!合わせて一本!!」


 小柄ながら、柔剣道合わせて7段の大山。大柄で怪力の持ち主の英吉。 凸凹コンビは無敵だった。


由美子が、押さえ込まれている男の顔を見て大声を上げた。


「田辺さん?」


 英吉が、尋ねた


「知ってる人なんですか?」


 由美子は、驚きで目をまるくしている


「同じアパートの、隣の部屋の人なんです」


 田辺と呼ばれた青年は、英吉の下でもがいた


「何をするんですか!」


 大山が言い返す。


「彼女をつけ回してただろう?」


「……………………」


 由美子も問う。


「じゃあ今までずっと、あたしのことつけ回してたのは…」


 田辺は、英吉が、まだどかないので苦しそうな顔をしながら、


「誤解ですよ。つけ回してなんかいません。彼女と僕は同じアパートなんです、ひんぱんに顔を見ても不思議じゃないでしょう?。駅から帰る道も、駅へ向かう道も、買い物へ行く場所だって同じなんですからね。理解出来たのならどいてください。僕には、あなた方にこんな理不尽な目に合わされる筋合いはないですよ」


英吉も、そう言われるとどかざるを得ない。とりあえず、おびえる由美子をアパートの由美子の部屋まで送ることにした。


田辺は、急ぎ足で先にさっさと行ってしまった。



シーン10 ストーカー?、なのか? 〜由美子のアパート〜


 木造二階建て、部屋数が八部屋のアパートの二階の一室、203号室が由美子の部屋である。田辺と呼ばれた青年の部屋は、隣の205号室らしい。長方形の部屋の中に、ユニットバスと、ミニキッチン。典型的な、ワンルームである。


 部屋の中に入ると、すぐ左にユニットバス、廊下と部屋との境目は無い。ミニキッチンと小さな冷蔵庫、二階なのでロフトは、割と広いようだ。


 由美子はショックを隠しきれない


「田辺さんだったなんて…」


 大山が、なだめる。


「まあ、まあ、君の考え過ぎじゃないのか?」


 由美子はきかない。


「あたしあの人のこと、ふったから、逆恨みされているのかも」


「ストーカーって奴ですか?」


 英吉がさして感銘を受けていないような表情で言った。


「そんなにしつっこそうには、見えなかったけどねえ」


 大山も、眉唾もんだなっていう顔をしている。


 由美子は、そんな雰囲気を敏感に察知して、怒り出してしまった。


「信じてくれないならいいです!!、もう大丈夫だから帰って!」


 大山と英吉は、部屋の外に追い出されてしまった。振り向くと、もう、ドアは閉まっていた。二人は、堅く閉ざされた扉を見て、顔を見合わせた。


 大山は、溜息を付くと、


「機嫌を損ねてしまったらしいな」


 英吉も、お手上げという表情で、言った。


「まあ、あの元気なら、大丈夫ですよね。今日のところは、引き上げましょうよ」


「そうだな」


 大山は、うなずいて、提案した。


「今日は、みんなで飲みに行かないか?」


「もう、二人とも帰っちゃってますよ、それに…、(折角の二人っきりを邪魔したら、絵美さんに恨まれちゃう)…」


 大山が訝しげに、


「それに、なんだい?」


 英吉は、知らん顔して、


「いえ、何でもないです、こっちの話っスから」



シーン10.5 月がとっても? 〜駅へ向かう坂道〜


 江戸川が、絵美を駅まで送っていっている。折角、英吉が、気を使ったのに、やはりというか、予想どおりというか、

全然ロマンティックな展開には、なっていない。何を話すでなくただ黙々と歩いていく。それでも絵美は、なんだか嬉しそうだ。


「…(遠回りしたいナ)…」


シーン10.7 盗聴器? 〜江戸川探偵事務所〜


 絵美を駅まで送った江戸川は、一人事務所で、今まで解ったことを、まとめようとしていた。

いや、正確には、一人と一羽…上機嫌に何やらさえずっている。


「ビーチャン、ダイスキ!、ダイスキ!、ダイスキ!、ダイスキ!」


 絵美が、教えた言葉のようで、高い声でしゃべっている。


「何を教えているんだか」


江戸川は、あきれ顔でつぶやいたが、止まる気配がない。


「ビーチャン、アリガトウ、ドウイタシマシテ」


「はいはい」


「ワタシ、センセイガスキ」


江戸川は、ペンを取り落とした。



シーン11 又、次の日、午後三時 〜江戸川探偵事務所〜 8月29日(金)


 英吉は、来客用のソファーにどっかと腰掛け、(ソファーの悲鳴が聞こえるようだ)。肘掛椅子探偵気取りで語り出した。


「三四郎さんが死んで一番徳をするのは恵美子です。三四郎さんの遺産三分の一に加えて、多額の保険金が手に入る」


 絵美は、紅茶を煎れながら反論した


「でも恵美子さんにはアリバイがあるのよ」


 英吉は、すぐに降参してしまった。


「そうなんですよね。それから…電気のことに詳しそうなのは、一郎なんだけど」


絵美は、いれた紅茶を渡しながら返事をした。


「やっぱりアリバイがあるのよね」


 英吉は、両手で顎を支えながら。


「由美子と和光には、アリバイがないけど…電気にも詳しくなさそうだし、三四郎さんが死んで特に徳をするってわけでもないし。和光にとって見れば、失業して逆に損をすることになる」


 江戸川は、会話に参加しようとはせずに、開いた窓から外の公園を眺めたままで、小声でつぶやいた。


「一つだけ、すべての命題を満たしている答えがあるんだ。だけど、そんなことが、あり得るだろうか?」


 絵美も英吉も、江戸川のつぶやきに気付くことはなかった。



シーン12 その又、次の日、昼過ぎ 〜江戸川探偵事務所〜 8月30日(土)



 英吉は、向井原の、浮気調査に出かけ、絵美は、パソコンに向かい、江戸川は、週刊誌を読んでいた。そこへ、招いていなくてもよく来る大山が、息せききって、入ってきた。


「江戸川君!大変だ、由美子の部屋の、隣の部屋で死人が出た。すぐ一緒に、来てくれ」


 大山は今日は、パトカーだ。江戸川と大山は、飛び乗るように乗り込み、急発進。絵美と、ビーは、おいてきぼりだ。

 絵美は、江戸川たちの出ていったドアから視線を転じて、ペットのオウムに話しかけた。


「ビーちゃん、おいていかれちゃったね…」



シーン12.3 強盗?、それとも? 〜由美子のアパート、田辺の部屋〜



 由美子のアパートは、東西に長い木造二階建てで、東側が道路に面している。由美子の部屋は、二階の手前から三番目(奥から二番目)203号室である。

手前(東)から201号、202号と続くのだが、204号室は無く、203の次はいきなり、205号室である。


 アパートは、完全な、シンメトリーで、201・202と203・205とが対称で、201と202、203と205が、それぞれ対称である。201と202、203と205のドアは、近く。202と203のドアの間は、離れている。アパートの西側には、小川が流れていて、せせらぎの音が聞こえてくる。


 階段を上がりながら、江戸川が、大山に尋ねた。


「隣って言いましたよね、202ですか?」


「いいや、205号室だ」


「じゃあ、大山さんに痴漢に間違われた…」


「…(つまらんことを知っているな)…まあ、そうだ。右脇腹を刺されている、直接の死因は失血死ってとこだろう、部屋も荒らされているから、強盗じゃないかな?。第一発見者は、自称、ただの友人の、北野妙子。って言っても、部屋へは、合い鍵で入ったって言うんだから、知れるけどな。部屋の中の物は、まだ、何一つ動かしていない。北野も、何もさわっていないそうだ」


 ドアを開けて、中に入ると、由美子の部屋とは逆に、すぐ右にユニットバス。フローリングの廊下と四畳半ほどの部屋との間に境はない。部屋の南側には、テラス窓(昔風の言い方をするなら掃き出し窓)があり。窓の向こうはベランダになっていて、エアコンの室外機と洗濯機が見える。部屋の北側には、ミニキッチンと冷蔵庫があった。


 ミニキッチンには料理道具と呼べるような物は何もなく、部屋の主が料理に使ったことがないのは明らかだ。部屋の南東側の角にはテレビを乗せたテレビボードがおいてある。部屋の西側の窓から小川と、対岸の川沿いの道路が見える。

南西側の角には、ガラス扉の付いた本棚があった。


 部屋の中は、まるで竜巻に襲われたような有り様だった。

部屋中にガラスの破片が散乱し、本やCD、そしてナイフが床中に散らばっている。死者は、おそらくは生前ナイフのコレクターだったのだろう。アーミーナイフ、ジャンビア、バタフライナイフ、グルカナイフまである。田辺は、部屋の真ん中に斜めにおいてあるソファベッドに、まるで向き合っているテレビを見ているように座っていた。白いTシャツの右脇腹が血に染まっている。腕時計を左手にしているところを見ると右利きなのだろうか。部屋の明かりは点いたままで、エアコンがうなっていた。


 江戸川は、腕時計をずらしてみた。そこには、くっきり白く、日焼けしていない部分があった。振り向き、大山に尋ねる。


「凶器は何ですか?」


 大山は、血に染まったアーミーナイフをハンカチ越しに手にとって見せた。


「多分こいつだろう」


「指紋は?」


「今調べているところなんだが、多分強盗だよ。だから出ないんじゃないかな。窓が割られているんだ。犯人は、ベランダから入り、田辺を殺して、部屋の中を荒らし、又、ベランダから出ていったんだ」


「…(又、この人は)…」



シーン12.5 ナオミヨ? 〜江戸川探偵事務所〜



 午後三時、お茶の時間だ。絵美が、シェークスピア劇のまねをしようとしていると、階段を上がってくる音が聞こえて、事務所のドアが開けられた。

絵美は、一瞥すると嫌そうな顔をした。


「また、あんたか」


 そこには、身長175cmは、あろうかという、背の高い女の子が立っていた。


「お姉ちゃん、お客さんに、そんな応対していいの?」


「あんたは、お客じゃないもの」


 彼女の名は、直美と言って、絵美の妹である。近所にある石橋高校の三年生。私服の高校なので、今日びの女子高生の流行とはあまり関係のない格好をしている。モデルと見紛うばかりの長身を、スリムのジーパンと、白いTシャツで包み、背中の中程まで伸びた髪を無造作に結んでいる。鳥にたとえるなら燕だろうか。


「まあまあ、そう言わずに。折角来たんだから、お茶でも入れてよ」


 絵美はまだ納得していない。


「だいたい、何であんたが、こっちに来んのよ?、地下鉄使ってるくせに。地下鉄の駅とは、正反対の方角じゃない」


 絵美は、文句を言いながらもお茶を入れてやった。直美は、レモンティーを受け取りながら、返事をした。


「いいじゃない。ここって、あたしよりも背の高い人が居る、貴重な場所なんだから」


 絵美の顔色が変わった。


「あんた、まさか」


 直美は、笑い出した。


「じょーだんよ。近くの友達の家までゲーム借りに来たから、ついでにおいしいお茶を飲ませてもらおうと思って」


 言った後、一転してまじめな顔になると。


「だけどね、お姉ちゃん、そろそろ諦めたら?、全然脈が無いんでしょう?」


「全然無いってことは、無いわよ……多分」


 反論する声にも力が入らない。


「まあ、お姉ちゃんの人生だもんね……じゃあ、あたし帰るね。お茶ごちそうさま」


 雲行きが怪しくなってきたのを敏感に察知して、直美は帰っていった。妹が出ていったドアを見つめながら、絵美がつぶやいた。


「全然脈が無いってことは、無いわよ…」


「ソウ、ソウ」


 慰めたのは、黄色いオウムである。


「ありがと、ビーちゃん」


 絵美は、やっと笑った。気を取り直して、英吉の携帯に電話した。


「あ、もしもし護国寺君?そっちが一段落したら由美子さんのアパートに行ってくれる?」


これで、向井原が一段落したら、合流するはずだ。



シーン12.7 まだ結論を出すのは、早いですってば。 〜由美子のアパート、田辺の部屋〜



 江戸川は、割られているベランダの窓を見に行った。部屋中に飛び散っているガラスのかけらは、この窓の物のようだ。ガラスのかけらは、ベランダの外にはほとんど飛び散っておらず、ベランダ側から割ったことは、間違いないようだ。振り向いて、大山に言う。


「窓の外からガラスを割ったからってベランダから入ったとは、限らないですよ。玄関から入ったって、一度ベランダに出さえすれば、窓の外からガラスを割れますから」


 部屋の東側の壁には、コルクのボードが取り付けられており、ナイフを置いていたと思われるピンが全部で10対刺さっていた。。


「ナイフの数が、凶器と思われる物も合わせて10本で、ピンの数が同じく10対……。だから、これは強盗じゃありませんよ」


 大山は、納得出来ないようだ。


「…(部屋が荒らされていて、殺しだって言うのに、何故強盗じゃないなんて思うんだ?)…」



シーン12.9 チャリンコリンリン 〜向井原駅付近〜



 一方そのころ英吉は、自前のマウンテンバイクで、由美子のアパートめざして走っていた。もう6年も使い込まれた、少々くたびれた感のある自転車なのだが、よく手入れされていて、すこぶる調子はよい。この自転車が、英吉の足をこんなに太くしたのだ。金属疲労で折れたペダルを換え、その後も折れた後輪の車軸を交換している。吹っ飛んだスポークを取り替えた本数に到っては、数え切れないほどだ。


 だらだらと続く坂道を何やらつぶやきながら登っていく。いったんこの坂を越えてしまいさえすれば、あとは、下り坂なので楽が出来るのだ。


「なんだ坂、こんな坂、なんだ坂、こんな坂」


 傍目には、ちょっと不気味である。



絵美の妹の直美ちゃん登場です。

「ナオミヨ?」は執筆当時放映されていた某エステティックサロンのCMの

ナオミ・キャンベルのセリフからとったものです。

直美ちゃんは最後のほうで再登場します。


2008/06/14 修正

"ポケベル"が残っていたので、携帯に修正して、文脈の前後を整えました。

なにせ、10年前に書いたものですから。

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