シーン7 雷のせいじゃない!?/シーン8 午後の お紅茶
このお話はフィクションです、実在の人物団体等とは一切関係ありません。一応推理小説です。後半格闘シーンがありますし、人死にが出ます。ご注意ください。この話で描写されている内容を模倣しないでください。電気関係の法律に違反する可能性があります。分電盤をアスキーテキストで表現した部分があります。携帯をお使いで見えずらい方はPCサイトビューア等を使ってみてください。
シーン7 雷のせいじゃない!? 〜常盤邸、二日目、庭〜 8月27日(水)
「大山さん、頼んでおいたことはやっておいてくれましたか?」
「ああ、ちゃんと調べておいたよ、ところで、護国寺君たちは?」
「ちょっと調べ物を頼んでいましてね、終わり次第合流しますよ」
大山は、少し落胆したようだったが、こぼれる汗を、拭き、拭き、話し出した。
「死亡推定時刻は、君の予測通りで、夕方じゃあなかった。夜中の一時ごろだそうだ。それから、電気のメーターだが、建物の北面の壁、ちょうど洗面所の裏にあったんだが…ネジに真新しい傷があったよ。誰かが細工したのは間違いないようだな。だけど、指紋は無かった。えーと、それから、メーターの下の地面には、推定サイズ28cmの靴跡があったよ。三四郎さんを殺したのは、一郎かな?」
江戸川は、ため息を付いた。せっかちな大山にあきれたように
「大山さん、まだ結論を出すのは、早いですよ。まだ、みなさんに事情も聞いていないのに。今日は、どなたが来ているんですか?」
「三四郎さんの一男二女、それから和光さんだよ」
「三四郎さんの奥さんは、もう亡くなっているんですよね?」
「ああ、十年も前にな、特に、不審な点はないようだが」
江戸川は、大山とともに家の中に入っていった
「やあ、ここはいつ来ても、本当に涼しいですなあ」
リビングの中には警察の人間数名と、和光、長女の恵美子、次女の由美子、そして一郎がいる。
大山が、話を切りだした。
「今日こうしてご足労を願ったのはですな。あなた方のお父上の三四郎氏の死因に不審な点が認められるからなのであります。三四郎氏の推定死亡時刻はだいたい深夜一時」
ここで、江戸川が口を挟んだ、
「酸素濃縮装置が壊れて、苦しくなった常盤さんは助けを求めようと寝室からでて電話のあるリビング、または書斎に行こうとして、廊下で力尽きたんです」
大山が話を続ける
「つまりですな、その時刻には、もう雷雲が存在していなかった。だから、三四郎氏が死んだのは雷のせいではあり得ないのです」
「じゃあ、何のせいだって言うのよ!?」
いらだった声を上げたのは次女の由美子だ
大山は、顔色一つ変えずに話を続ける。
「原因は調査中です。えー、これはきわめて形式的な質問なんですが。その時刻にみなさんが何をなさっていたのか、お聞かせ願えませんか?」
「アリバイって訳ですか?」
一番に答えたのは一郎だ。中肉中背、日焼けした顔に、大きな目と丸い鼻、実直さを絵に描いて貼ったような顔をしている。
「僕は、会社の同僚と飲みに行きまして、そのあとカラオケボックスに行きました。0時半頃に入って、2時位までそこに居ました。名前は確か、ファソラシクラブ。調べていただければ解ると思います。でもね、大山さん、父が夜中に死んだなら、なんでベッドに寝ていた跡が残っていなかったんですか?」
大山も、江戸川もその問いには答えなかった。
次に口を開いたのは長女の恵美子だ、。肩の辺りまでのセミロングヘアー、主婦らしく落ちついた雰囲気がある。
「あたしは、仕事帰りの主人と合流して食事に行って…。一時頃は、知り合いのスナックで飲んでいたわ。マスターの他にも、結構お客さんが入っていて人が居たから…、あたしがそこに居たことを覚えていてくれている人もいると思うけど」
続いて、次女の由美子である、。腰の辺りまであるロングヘアーにブリーチをかけているらしい茶色っぽい髪が、はっきりした顔立ちによく似合っていた。
「あたしは、ずうっとアパートの自分の部屋にいました。0時頃に寝て、朝まで起きませんでした」
最後は家政婦の和光である
「私は、こちらを出た後夕食の買い物をして、家に帰りました。そのまま朝まで、家にいましたが、主人を亡くした後、ずっと独りなので証明してくれる人は居ません」
大山が礼を言った。
「はい、解りました、ありがとうございました。江戸川君、君からは?」
江戸川は、和光の方を向くと。
「そうですね、では、和光さん。あなたが、昨日常盤さんの家でしたことを、憶えていることだけでいいですから、全部教えてください」
和光は、話し出した。
「裏門から中に入って、勝手口のインターホンを鳴らしたんですが、インターホンにだれも出ないので、合い鍵で中に入りました。旦那様が廊下で倒れているのを見つけて、リビングの電話で救急車を呼びました。一郎さんにも電話しました。一郎さんが来てくださって、旦那様には、一郎さんが、付き添っていらっしゃって。私は、いつもどうり、お掃除を始めました、何かしていないとおかしくなりそうだったんです。主寝室の掃除が、終わった頃に警察の方がみえて…」
「掃除というと、ベッドメイキングなんかも?」
「はい」
江戸川は、重ねて尋ねた、
「他に、何か、気付いたことは、無かったですか?」
和光は、しばらく考えていたが。
「そういえば、寝室のエアコンのランプが点滅していたような」
江戸川は、頷くと
「常盤さんは眠るときに必ずエアコンを使う人だったんですか?」
「はい、暑いと寝苦しいとおっしゃっていました」
「これで、確信しました、常盤さんは、誰かに殺されたんです。これは、雷のせいなんかじゃなくて…」
江戸川の話は、ヒステリックな叫び声によって突然遮られた。
「私たちが殺したって言うの!?」
次女の由美子である、江戸川は、闘牛士が牛の突進から身をかわすように言った。
「それは、まだ解りません。だからみなさんに、ご協力を、お願いしているんです」
口調は、柔らかいが、目つきは冷ややかだ。そこへ、絵美と英吉が入ってきた。
江戸川はそれを見ると、
「では、これで失礼します、行きましょうか大山さん」
大山を誘って常盤邸を辞去した。外へ出るとさっそく英吉が報告を始めた。
「長女の恵美子は、サラ金に多額の借金があります。これは、旦那も知らないことのようです。一郎と由美子と和光には、特に多額の借金はないようです。まあ、常識の範囲内でってことのようですね」
「うん、絵美ちゃんの方はどうだった?」
「被害者の三四郎さんは、多額の生命保険をかけられていたようです。受取人は長女の恵美子…」
「そうかあ、恵美子が常盤さんを…」
大山が、大声で話し始めるのを、江戸川は制止して。
「大山さん、恵美子と、一郎にはアリバイがあるんですよ。それに、和光さんだって容疑者の一人なんですよ?合い鍵も持っていたし、救急車をよぶ前にやりたいほうだいできる立場だったんじゃないですか?それに由美子にも、アリバイはないですしね?」
「それだ!、由美子と、和光さんが……」
大山以外の三人は、顔を見合わせてため息を付いた。
シーン8 午後の お紅茶 〜江戸川探偵事務所〜 8月28日(木)
ALC三階建て、味もそっけもない直方体の貸しビルの二階、道路に面した西側の一室、江戸川探偵事務所…ちょうど午後三時、ティー・タイムである。江戸川は、ストレートティ。絵美は、レモンティ。英吉は、ミルクティ。大山は、コーヒーが好きなのだが、無いのでしょうが無く、泣く泣く紅茶を飲んでいる。開け放した窓から隣の公園で遊ぶ子どもたちの声と、セミの鳴く声が聞こえてくる。暑がりの大山が、セミの声がうるさいから窓を閉めて、エアコンをかけようと提案したが、三対一で否決された。
「さて、少し整理してみましょうか、絵美ちゃん、よろしく」
絵美が、ホワイトボードの前に陣取った。江戸川の推理の要点を板書するのだ。
「まず第一に、犯人は、常盤さんが低肺患者で、いつも酸素濃縮装置を着けていることを知っている人物です。そして、犯人になる為にはある程度の電気の知識が必要になります。そのかわり、電気の知識があれば合い鍵は必要ありません。犯行時刻は、死亡推定時刻と同じ深夜1時頃です。なぜなら、タイマーのような仕掛けをすることはまず不可能だからです」
大山がタバコを取り出しかけてやめた。ほかの三人はタバコを吸わないので、灰皿がないからだ。大山は、少々ばつが悪そうな顔をしながら尋ねた。
「江戸川君、犯人は電気のメーターを使って何をしたんだい?」
江戸川は、大山の質問に答えて、
「電気のメーターにつながっている三本の線の真ん中の白い線を、メーターから外したんですよ。感電防止のゴム手袋は、指紋が残るのも防いでくれました。絵美ちゃん、分電盤の写真を持ってきてくれないか?」
絵美が写真を持ってきた。
「ありがとう。さて、この写真で、壊れた物のある回路に色を塗っていくと…廊下の常夜灯、主寝室の常夜灯、台所の冷蔵庫、パソコン、酸素濃縮装置」
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ブレーカー番号 1:玄関廊下
ブレーカー番号 2:リビング
ブレーカー番号 3:主寝室
ブレーカー番号 4:電子レンジ
ブレーカー番号 5:客間エアコン
ブレーカー番号 6:主寝室エアコン
ブレーカー番号 7:酸素濃縮装置
ブレーカー番号 8:トイレコンセント
ブレーカー番号 9:客間
ブレーカー番号 10:書斎
ブレーカー番号 11:台所
ブレーカー番号 12:洗濯機乾燥機
ブレーカー番号 13:書斎エアコン
ブレーカー番号 14:リビングエアコン200V
ブレーカー番号 15:パソコン
ブレーカー番号 16:予備
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江戸川はホワイトボードの前まで来て書きながら説明を始めた。
「何かに気付きませんか?、そう、壊れた物のある回路の番号は全部奇数です。この分電盤は、奇数の回路は赤い線と白い線に。偶数の回路は、白い線と黒い線に接続されています。メーターの白い線をはずすと、奇数の回路と偶数の回路とが直列につながった物に、200Vの電圧がかかります。奇数の回路と、偶数の回路にかかる電圧は、この二つの回路それぞれで合計した消費電力に、反比例します。図にするとこんな感じです。仮に、奇数の回路の消費電力の合計を500Wとして、偶数の回路の消費電力の合計を1500Wとすると…」
「それぞれにかかる電圧は…」
奇数の回路 500W 150V
偶数の回路 1500W 50V
電圧合計 150V + 50V = 200V
「こうなります。100V用に出来ている機械に150Vもの電圧がかかったら壊れますよね」
江戸川はさらに続けた。
「実際は、もっと高い電圧がかかったかもしれませんからね。夜で、三四郎さんは寝ていて、奇数の回路で使われていた電気製品がほとんど無かったのに対して、偶数の回路には、寝室のエアコンがあって部屋を冷やしていたんですから」
絵美が、歓声を上げた。
「先生、すごーい☆、何でそんなこと知っているんですか?」
「Ωの法則は中学で習ったし、それに、僕は電気工事士の資格を持っているんだ。実務経験は、無いけどね。ただ、メーターや、単相200Vの知識は電気関係の工事をしていた人しか持ってないだろうね」
大山が、訝しげに、
「でも、そううまく行くかな?」
江戸川が、補足説明をする。
「一度でうまく行かなくたっていいんですよ、失敗したら、事件にはなりませんからね。成功するまで、何度でも繰り返せるんですよ」
大山は、頷き、
「じゃあ、やっぱり一郎が?」f
「まだ解りませんよ、通りすがりに悪戯していった奴が居たのかもしれませんしね。二つ、三つの電気製品が壊れるだろうとしか、考えてなかった…なんてね」
江戸川は、一人一人の顔を見わたしてから言った。
「さて、納得していただいたところで、一郎と恵美子のアリバイを、検証しに行きますか」
事務所には、ビーがひとり、取り残された。
電気メーターのまわりをいじってはいけません。
いじったら、
タイ━━━━||Φ|(|´|Д|`|)|Φ||━━━━ホ
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逮捕されます。
決して実際に実行、実験しないでください。
(しょうもないトリックですいません)