九
あれ? ゴシゴシ、あれれ?
寝起きの目を擦り、おめめをパチパチと必要以上に瞬いて見ても、目の前の光景は変わらない。
んん…?
「ねぇ、次郎くん」
「何かな、えっちゃんさん」
「ココ、…ドコ?」
えっと、恵子の家に行くはずじゃなかったですかね?
私が知ってる恵子のマンションとは違うみたいなんだけど…。
「ケイコってバ引っ越しシテタノ?」
私が知らない内に引っ越ししてたってこと?
私の勘は違うって言っているけど、もしかしたらがあるので聞いてみる。
なんかすっげ嫌な予感がするんですけど!
そうせいで変な片言になってしまったんですけど!
予感の源である右側の運転席におられる次郎くんは、予感は本物だ!と言わんばかりの身の危険しか感じさせないムカつくニコニコスマイスをしていやがる。
「あははっ、えっちゃんさんたら片言になってるよ」
「笑ってんじゃねぇーーー!」
やっぱ殴りて―!!
プルプルさせながら拳を握りしめていると、
「プルプル震えてアル中みたいだよ、えっちゃんさん」
こんなことを吐かしてくれやがる。
あ゛ぁーーん。
わたしゃザルで酔えないから、嗜む程度しか酒は飲まねーんだよ!!
それで、どうやってアル中になれっていうの?
酔えないヤツの気持ちが分からんストーカーに言われたないわっ!
ふぅーーー。
駄目よ熱くなって、次郎くんのペースに飲まれちゃ!
ストーカーの相手をまともにしてやる必要はないの。
空気より軽い男の言葉に価値なんてないんだから、流すのよ、佳絵!
「変なこと言ってないで、ちゃんと質問に答えて!次郎くん、ココ恵子の家じゃないよね?なんで私は
ココに連れて来られたの?」
「なんでって、えっちゃんさんが住む家に連れて来ただけだよ?」
「うわー」
ニタァって擬音が付くぐらい真っ黒な笑顔で、そう宣う次郎くん。
そりゃ「うわー」って言っちゃうよ!
きっと顔面偏差値主義の恵子だけじゃなくて、ほとんどの女性が「これはこれであり!」って見惚れるだろう美貌で黒さを中和させてくる次郎くんの手腕は恐ろしい。
これが、世に言う“ただしイケメンに限る!”ってやつなんだろう。
良かった、私、面食いじゃなくて。
次郎くんに絆されるとか、考えただけで恐怖だよ。
こんなこと次郎くんに言ったら『顔がそこそこの男友達にそこそこの彼氏を寝取られるより怖くないと思うよ』って言われそうだから、絶対に言わないけどね。
私にしたらどっこいどっこいだよ!
つーかマジで、あんた私をどこに連れてきたんだ?
次郎くんは、私が住む家に連れて来たって言ったけど、これコンシェルジュいるじゃん。
高級マンションじゃん。
公認会計士である恵子や自ブランド持ちの社長である次郎くんが住むなら分かるけど、しがないOLの私が住む場所じゃないよ!
本当になんでこんなとこ連れて来られてんの、私?
あの後、車に荷物を積み込み恵子の家に向けて出発した。…はずだ。
走り始めてすぐに「疲れたでしょ」と次郎くんが暖かいココアをくれて「昨日は寝ずに荷詰めたんでしょ?着くまで寝てたら?」と言ってくれたのに甘えて、少しだけと思って眠りについたら爆睡してしまい、着いたって起こされてみたら眼前に聳えるご立派でお高そうな高層マンションの前にいた。
訳が分かられーよ!
なんでこんな時に頼れる恵子が居てくれないの?!
…ん? なんか引っかかる。 なんだ?
そう、なんで恵子がいないの?
それは次郎くんが抱き潰して家で留守番してるから。
恵子が居れば、絶対に私を恵子の家に連れて行ってくれたはずだ。
じゃあ何で恵子の家に連れて言ってもらえてないの?
恵子が居なくて次郎くんしか居ないから。
答え、次郎くんが私を恵子の家に連れて行きたくない。
もうこれで間違いないよ! FAだよ!
この顔とセンスと金まで持ってて、ストーカーだけど絶対に浮気しない男め!
私をどこに連れて来たぁーーー!!
評価してくださった方々ありがとうございます。
ポチッとポイント評価して頂けたら、やっぱりモチベーションが上がりましたです、はい。