八
きっかり朝の七時にピンポーンと呼び鈴が鳴り、恵子らしいと思ってドアを開けると居たのは次郎くんだった。
ペットを飼うと主人に似るって言うけど、次郎くんもドンドン恵子に似てきている。
いやこの場合、次郎君から寄せに行ってるんだから似て当然なんだけどね。
恵子の一挙手一投足をつぶさに観察する様は、まさにストーカーの鏡だよ、次郎くん。
そう言えばあんた彼氏になったんだから、
「盗撮とか望遠鏡で観察するのはもう止めた?」
「おはよう、えっちゃんさん。わざわざ迎えの車を走らせてきた相手に挨拶もなしで、開口一番それはどうなんだろうね?」
悔しいことに次郎くんの言うとおり、迎えに来てもらった立場の私が開口一番で言うことじゃない。
くぅー、ストーカーに正論言われるのってマジで腹立たしい!
「おはよう、次郎くん。車を出してくれてありがとう。あと服も、準備してくれるって恵子が言ってくれたのに甘えちゃってごめんね。でも盗撮は犯罪だし、恵子が知ったら激おこプンプン丸になるから止めてないなら止めさせないと!と思ってたんだよね」
「えっちゃんさん、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
キラりん☆
そんな効果音が聞こえて来そうなキラースマイルを浮かべてらっしゃる。
次郎くんや、笑顔で言うセリフじゃねーからな!
つーか、マジそのキラりん☆顔、なに?
しゃらくせー、ストーカーがっ!
「私にバレといて何いってんの?」
「うーん、それを言われると返答に困るなぁ」
ぜってー困ってないだろ、お前!
その満面の笑顔がイラつくぅーー!
ちょっとあり得ないほどカッコイイのを鼻にかけやがってぇー!!
私は恵子みたいに顔面偏差値が高ければOKじゃねーから!
そんなキラースマイルしても効果ないどころか逆効果なんだよっ!
「その顔殴りたくなるから止めてくれる」
「僕の顔に傷が付いたらハニーが悲しむから、えっちゃんさんこそ止めて欲しいなぁ」
これからしばらく恵子の家にお世話になるけど、そうすると恵子は私を気にかけて次郎くんに構う時間が減る。 間違いなく減る。
恵子大好き次郎くんにちょっと申し訳ないって思ってたけど、もう思ってやらねーかんなっ!
恵子との時間が減って次郎くんがめっちゃ面倒臭くなっても、馬鹿殿たちの情事を事細かに語って撃退してやんよ!
「それより恵子は?」
「お家でお留守番してるよ」
「…次郎くん、もしや動けない様にしやがった?」
「酷いな。ご褒美を貰っただけだよ」
「…。」
やっぱコイツ抱き潰してやがる。
私が恵子に甘えたばかりにごめん…。
その尊い犠牲は忘れるまで忘れないから!
「それより早く運び出しちゃったほうが良いんじゃない?」
「そだね、じゃ手伝ってもらって良い?」
「もちろん!じゃぁどれ持っていけば良いのかな?」
「持ってくものはホラ、全部玄関にまとめてあるから。これ車に積んでって」
ホラっと身体を引いて後ろに積んである荷物を見せて言うと、
「これ…、ゴミじゃないんだね…」
と失礼なことを言ってきやがる。
確かにゴミ袋に詰まってるから、一見そう見えるかもしんないけど、
「お宅の恵子様がダンボールがないならゴミ袋を使えって仰ったんですけどー」
私だって最初からゴミ袋を使おうなんて思ってなかったことは伝えておきたい。
「さすがハニー。運べればダンボールだろうとゴミ袋だろうと関係ないよね!」
うんうん。 それでこそ恵子が白だと言えば真っ白くしちゃう男、次郎くん!
ちょっとだけ、ゴミ袋で引っ越しとか見窄らしいと思うけど今は時間の都合上、そんなこと気にしてらんないからしかたないよね。
玄関で話してるのも勿体無いし、さっさとこの部屋とさよならしましょうか~。
「極論そういうことだね。そんじゃキリキリ運んじゃって!」
「それが人に頼む態度かなぁ。まぁ良いけどね…」
私はこの時、運んでもらう荷物を取るため次郎くんに背中を向けていて、ニヤリと笑う腹黒ストーカーの顔を見ていなかった。
見ていれば、次郎くんが恵子を抱き潰して家に置いてきた理由に気付けたのかもしれない…。
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