十九
「復讐したいってことか?」
「うーん…」
そう聞かれると困る。だって、
「そうだと言えばそうかも知れないけれど、しっくり来ない」
そう、なんかしっくりこないの。
カチッて嵌まらない。
私の中にある復讐のイメージが、そうさせてるんだと思う。
「どうしても復讐って言うとドロドロしたイメージがしちゃうでしょ?」
「そうだな」
「私はドロドロしたいんじゃないの!スッキリさっぱりしたいだけなの」
「それは関係を?それとも君の気持ちを?」
そんなのもちろん、
「両方」
「関係を清算して、気持ちに整理をつけたいってことで良いか?」
「そう、だね…」
簡単に言えば私のしたいことは、そういうことなんだと思う。
感情は複雑で、いつも相反する気持ちが心の中にある。
だから完璧に一言で表現するなんてことは出来ないけど、篩に掛けて残るのは、清算してスッキリ前に進みたいって感情だ。
あっ、あと迷事件の仲間入りをさせなきゃいけないとも思ってる。
これは今までの事件の中でも大事故案件だ。
私の代表事件になると言っても良い。
“彼氏がまさかの男友達に寝取られてた!?~知ったきっかけは濃厚セックスでした~事件”と題して、面白おかしく仲間入りさせる義務が私にはある!
「まず、関係の清算からだな。気持ちの整理はすぐには無理だろう」
確かに関係と違って感情は複雑で、全部の気持ちをきちんと昇華させるなんてすぐには無理だ。
特に私の中のどうしようもない不の感情は、馬鹿殿にドロドロしてない復讐、ざまぁをするまでは燃え続けるだろうしね。
その点、関係はすぐにでも切れる。
私が切ろうと思えば三秒もいらないだろう。
“別れる”そう言うだけで良い。
相手の同意なんて必要ないんだから簡単だ。
だって最初に私達の関係を壊したのは馬鹿殿なんだもん。
私が浮気を知った時点で、馬鹿殿は私に別れようって言ったも同然だと思うんだよね。
それに答えるだけだから、切るのはめっちゃ簡単。
でも、それは清算にならない。
「君はどう清算したい?」
ちょうど考えてるタイミングで、超絶イケメンさんが聞いてきた。
この超絶イケメンさんは見た目だけでなく中身もイケメンらしく、他人でしかない私の長い話を嫌な顔せず聞いてくれる。
聞き上手なこともあり、恵子や真澄とまでは行かないけど、友達と話している感覚で話せた。
そのせいで、だんだん口調が崩れてきてるんだけど、注意されたら直せば良いよね?
「出来ることなら彼氏と付き合ってた時の思い出に繋がる形あるものは、全てなかったことにしたいかな。捨てても良いし売っても良いし、手段はどうでも良いんだけど、とりあえず私と彼氏の手元には一切合切残したくない」
「それは相手の事をなかったことにしたいのか?」
超絶イケメンさんはそう受け取ったか。
まぁ、思い出を残したくないって言ってるんだから、そうとも考えられるね。
「違う。逆になかったことになんかしたくないよ。それは自分を否定することになると思うから。だって、二十歳の頃の自分と今の自分は絶対、何処かが違うでしょ?その違いってその六年間の中で経験したり、逆にしなかったり、何かあったわけじゃなくて月日とともに自然に変わっていったり、その積み重ねで違いある訳で、馬鹿殿のことをなかったコトにしたら、自分で選んで進んできたことを否定すること繋がる気がするんだ。それに、私がいくらなかったことにしても他人は覚えてるしね。無駄な努力はしない主義なんだ。どうせなら笑い話にしたいと思う。形あるものを捨てたいのは、気持ち悪いからってだけだよ」
「笑い話、そうか。どうして気持ち悪いんだ?」
「それは…」
私にしては珍しく言い淀んでしまう。
そんな私を気遣い、超絶イケメンさんは一言「悪い」と呟くと黙った。
ぶっちゃけ、ただ言いづらいってだけだ。
男友達に寝取られるような男と付き合ってたってだけでも、男を見る目がない女なのに、これを言ったら絶対に男を見る目がないって思われる。
超絶イケメンに、そう思われるのは恥ずかしいと思って言い淀んでしまった。
話を聞いてもらってる身で申し訳ないことしちゃったなぁ~。
「あの、面白くない話ですけど、聞いてくれます?」