未知との接触
お久しぶりです
教皇歴921年 5月25日 アリスランド共和国北部特別地域上空
アリスランド共和国連邦第8飛竜騎兵連隊所属のマイセン=ウッズ二等兵は、横をものすごい勢いで飛び去った鋼鉄の物体に驚き、呆れた。なんせ、連邦が所有しているどの竜よりも速く、機動性が高いように思われたのだから。
それからすぐに彼は気を取り直して、魔導通信機に怒鳴った。
《こちら8竜マイセン、正体不明の高速飛行する鋼鉄の物体と接触!彼我の飛行速度に差が大きすぎるため追跡は不可能なれど、不明物体は高速で北上。指示を乞う》
《こちら司令部、北上し偵察を行い、敵根拠地の捜索を行え。教皇国の連中かもしれん》
《了解。これより北上し、偵察を行う。通信終わり》
教皇国とはプロノス教皇国のことで、アリスランド共和国の隣の国であり、共和国と、隣接国家にありがちな領土対立を抱えていた。しかも両国は領土対立のみならず、宗教対立まで起こしていた。プロノス教皇国はその名の通りプロノス教を頂点に置く宗教国家であり、その教義はいわゆる一神教であった。それに対しアリスランド共和国は多神教であり、宗教の自由が認められていた。こういう事情が絡まり、両国は深刻な対立状態にあった。
そのため、アリスランド共和国防空司令部はマイセン二等兵の報告を、教皇国の新型兵器による威力偵察と考え、どこかに根拠地があるのではないかと考えたために追跡偵察を実施させた。実際にはそれとは程遠いかったが。
2019年 11月8日 17:50 航空総隊司令部
「関東南セクターに国籍不明機探知!!海自から情報のあった未知の巨大な陸地付近にて確認!」
「百里に緊急発進かけろッ」
『百里、ゼロワンスクランブル』
「そういや、901飛行隊がいたな…あそこにもFを上げるよう要請」
彼らの頭には、フドウ編隊が接触した謎の飛行物体であるという可能性を1ミリも考えていなかった。なんせ災害後の上空管制を一手に引き受けたもんだから、てんてこ舞いの忙しさで、すっかりそのことが頭から抜け落ちてしまっていたのだ。