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アキージョンで渡された重槍は、引知士の力を使って名前を知っていた。天魔反戈、名称こそはあるもののどこで造られ、何の目的のために造られたのか…今、私は異界にいる。異界には全ての情報があり、私は天魔反戈の名を呼んだことで、異界から成り立ちと意味を知る。
星を創った槍、二人で使うこと本当の力が発揮される。
赤い波による面での攻撃、波そのものは凶悪な酸に似た力の液体。後ろからは迫る闇…上空の満月は状態異常を引き起こす光が降り注いでいる。ブルーに追いつくまで強制スクロールのアクションゲームだ。
もしも、この天魔反戈がなかったら追いつけない。頑なに距離を取ろうとするのは恵那の剣が自分に届くのがわかっているからだろう。災害と天変地異、そして異常状態を振りまいてる中でこれはまだ最悪ではないと感じていた。
「恵那、あいつをぶった斬った時に力を削いだ?」
「力を削いだような感触はあったが、世界が変わったから変われと思いは込めて斬った」
だとしたら、徐々にブルーは力を失っていってる…このままだと世界も崩壊してしまう。
「このままじゃ世界は壊れる、鞘があった状態でも斬ってはダメ…ブルーの魂に新しい真理を入れるようにしなきゃダメよ」
やり方が間違っていた―いや、大事な手順だった?頭が混乱してくる、満月の光が正常な思考を阻害していた。くそ…早く追いつかないとこのままだとやられる。
「わかった、やってやる」
天魔反戈の速度が異界に来た時と同じく、あたりを置いていくように早くなっていく。加速していく中で赤い波が迫ってくるものではなく、ただの壁としてそこに存在し、それを恵那が抉っていく。
減速をせず、ひたすら私は突き進み、天魔反戈もそれに呼応するかのように変形していった。私がこの重槍の名をちゃんと呼んだことでこの槍に意思があると感じた。
赤い壁を突き破り、満月の光が体を突き刺さっていたが次第にその光は歪曲し、満月そのものが新月へと変わった。幾つもの赤い壁がただの膜のようなカーテンに代わり、浮かんでいた月のアーチたちも粒子となって消えていっていた。
ブルーが形成した術そのものを突き破っていた。
真横に巨大な狼と並行して私達は走っていた。ブルーはこちらを見て憎々しそうな顔をしていた。初めてしっかりと私達に敵意を向け、今まで死んだような目も青く美しい光が宿っていた。
「お前らはいったいなんなのだ!!!!」
ブルーが吠え、神威が体中に、空間に響き渡る。
「世界を救う者だよ、覚悟しろ!自殺願望の破滅症候群の犬畜生が!!!!」
天魔反戈をブルーに寄せ、恵那の剣を届かせようとする。
「救うだと、笑わせるな!朽ちろォォ」
鋭利なクリスタルが何本もの形成されていく、この超加速空間で周りとすべて置き去りにした中で作られていった。
「気をつけて、あれはヤバイ」
直感ではなく、あれは何か情報を引き出した。
触れたものの時間を停滞させ空間を固定し、魂に侵食。クリスタル化させ、存在そのものを取り込み、そのまま抹消させるものだ。
「あのクリスタルは―」
「言わなくてもわかる―だが、砕ける!!!この剣なら―」
天魔反戈の前方に赤い波を突破した時のドリル状になった剣がブルーが放とうとしているクリスタルと同じものへと変化していった。
「アイアムズ!限界を突きつけろ!!!」
ブルーが放つクリスタルの刃と恵那の刃が相殺され、あたり一面がダイヤモンドダストのようにクリスタルの欠片が霧のように溶けて、きらびやかな小さな星空を作った。
激しくぶつかり合っているのに、軽やかで美しい音がリズムよく鳴り響いていた。これが世界を救うための戦いを忘れてしまうほどの曲だった。
「朽ちろ!諦めろ!!!リセットして新しく始めるだけだ、お前らはもういらない!いらないんだよ!!!!」
ブルーの叫び声が曲をかき消していく、小さな星空はなくなり、互いに疾走していく空間は光を後ろに置いていっていた。私達とブルーの身体はスライドショーのように後ろに分身していくように、コマ送りとして残っていった。
「運命の輪が周り、宿命の鎖が編み合わさり、星の車輪を廻す。アイエクスは創星の剣―無限の可能性は今ここに!」
巨大な狼の姿は普通の狼の大きさになっており、天魔反戈から恵那は飛び、ブルーに向けてアイエクスを突き刺していた。鞘つきの剣がブルーに入り、恵那は剣を手放す。
ブルーの口は大きく裂けるように開け、目は開ききって、世界は止まった。
静止した世界で悲痛な思いが流れ込んできた。慟哭の叫びのような後悔の思いがブルーから伝わってきた。
「なんで、僕は…」
さっきまで静止した世界だったが、気が付くとブルーと対面していた。違うのは、彼には指環も本もなく、眠兎はクリスタルの中ではなく、地面に寝かされていた。そして、彼のこと、ブルーはその場でしゃがみこんでいた。
目から涙を流し、私と恵那を見ていた。何か言っているが、上手く聞き取れない。
「眠兎!!!」
恵那は眠兎に駆けていく、もう戦いは終わったのだと確信している。寝かされる眠兎を抱え上げ、必死に眠兎の名を呼ぶ。ああ、妬けるなぁ…
ブルーの姿は子供になっていた。
何千年を何万回と繰り返しても世界を人格化した彼の精神年齢は子供なのだろうか、そう思うとちょっと笑いそうになった。いや、きっと可能性を受け入れて子供に戻ったのだろう。限界を決めつけて、時代に取り残され、追いつけなくなった大人ではなく、時代と共に生きる子供か…
「何泣いてるのよ、世界はこれからよ」
私は笑顔でブルーの頭を思いっきり殴った。いやげんこつをした。
「ふげっ!」
ガッ、といういい音と共にブルーが泣く。児童虐待じゃない、教育だ。
恵那の方を見ると眠兎が目を覚ましていて、二人は抱き合っていた。いい感じな雰囲気なのでそっとしておいておこう。
「さ、ブルーもうわかったでしょ…世界は終わり続けない。戻りましょ」
「ごめんなさい…」
ボソリと聞こえたが、私はそんな言葉で終わらせるつもりはない。
「私に謝っても、恵那たちや死んでいった者達に謝っても仕方ないわ。言われた事があるでしょ―大事なのはこれからよ」
私は少し屈み込んで、ブルーに手を差し伸べる。ブルーはその手を掴み、立ち上がる。前みたいな死んだような、何も見てない絶望しきった顔ではなく希望をもった表情をして私を見ていた。
「ミナ!ミナなの?」
眠兎が私を呼ぶ、見ると恵那と手を繋いでいる。私がわざとらしく見ると眠兎は恥ずかしがって恵那と手を離す。処女か!…いやあいつは処女だった。
「こうして面と向かって会うのははじめてだね。身体は取り戻せたよ、まあ、この身体も造り物みたいなものだけどね」
あははと笑いながら私は応える。
「ミナ…ありがとう、助けに来てくれて…私ずっと見てたよ」
「いいのよ、眠兎は私にとって妹みたいなものだしね」
「ミナ、ブルーをどうするんだ?」
恵那は空気を読んでない。今、いい感じに姉妹的な空間を形成していたのに…
「私が面倒を見るわ」
「「えっ!?」」
恵那と眠兎は驚いていた。まあ、そりゃそうだろう。
ブルーはポカーンとして私を見上げていた。
「大丈夫、犬は飼っていたことあるし」
「ぼ、僕は神様なんだぞ」
ガンッ!
ブルーの頭にもう一度げんけつを下す。
「ふげっ!」
縮こまり、頭を抑えながら涙目になってる。小さな声でブルーがぶつくさと何か言っていた。
「な、なんで痛いの?!今度は防壁張ってあったのに…なんで(ぐすっ)」
「ま、そういうことだから」
私は満面な笑みで二人に言う。




