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ロボットアニメやロボットゲームでパイロットが超高速戦闘で重力とどう向き合っているのか、そんな野暮なルールはこの異界にはない。髪や衣服が申し訳なさそうに少しだけ靡くだけで、重力というものはあるにはあるが超速で動いている私達にはあってないものだった。


 そう、ここは異界。


 不必要なルールは適応されない、世界を救うならあらゆる情報が集まるここは必要な情報だけを取り出すことができるのなら、逆も然り―


「お前らはなんなんだ?」

 ブルーは驚愕している、それはそうだろう…クリスタル降る中、無傷でかわし続け、彼の眼前に恵那が剣を振り下ろそうとしてる。

 そして、恵那の剣は振り下ろされるが、さっきと同じようにブルーがクリスタルになり砕け散るだけだった。そして、戦う前と同じように立っている状態に戻っただけだった。


 恵那はあたりを見渡し、何が起きたのかわかっていなかった。私は瞬時に理解していた、無限回廊と呼ばれる術だった、ゲームでよくあるコンテニューしますか?というものだ。相手がそれを使っている。なんてデタラメなんだと思ったが、それが何かわかれば問題ない。


「恵那、倒そうとするな…変えない限り、この結果は変わらない」


 恵那が剣を構え直し、剣に思いを込め直す。

「あなたが持つアイエクスにさっき話した事や思いを込めて、もう一度…いや、何度でも叩き入れるわよ」

「わかってる」


 ブルーの指環がさっきと同じように光り出す。今度は本が出てこなかった…もしかしたらさっき恵那が斬った事で使えなくなったのか?

 ブルーのけもの耳がピクピクと動く、鼻が前に出っ張り、姿が狼になっていった。衣服のローブも体毛に変化し、両手につけていた指環が全て外れ、浮遊し形や大きさも変わった。


 いつか戦ったあの時の狼の姿と違い、その大きさは小さく感じた。しかし、ブルーと自分たちの距離が離れていっていた。気がついたら空に大きな黒い穴が空いていた、そこだけ星のような光はなかった。

 ぽっかりと空いた穴は11個あり、それぞれ三日月から満月へ上限になり、満月になった後に下限の月へと並んでいた。月の虹、といった形にアーチを描いていた。


「おい、アレはなんだ…?」

 恵那が私に聞くが私にもわからなかった、さっきのクリスタルが空から降ってくるよりも恐ろしいと感じた。背中越し、いや後ろから何か迫ってきている感覚があり、早く前に進まないと、いや離されると危険だと直感が告げていた。

「恵那、置いてかれるっ!」

 重槍に乗り、恵那を掴み発進する。


 後ろを見ると底なしの闇があった。闇の壁が迫り、それが「死」を意味するのが感じ取れた。まるでそこが死線だと言わんものだと壁は空まで届いていた、そこから断絶されるように星の光もなかった。


「なんだこれは…」

「くそっ…ぴったりと追ってきてる。ブルーに追いつこうにも追いつけないっ」

 ブルーはゆったりと変身し、巨大な狼へと変貌していた。

 体毛は白色に青い毛が混じり、威圧的で圧倒された。それが神威だと気づいた、びっしょりと全身から冷や汗が流れ出て、血の気が引いていった。気を強く持たないと持って行かれそうだった。手足の感覚が薄れ、ふらつきそうになる。


 大気が震えていた、いやこの異界が震えているようだった。


 巨大な狼はこちらを見ていた。私は気を失いそうになるが、自分の中にある世界を救う方法が思考、身体を覚醒させた。

「大丈夫、絶対に追いつくし、終わらせる」


 恵那は頭を抑え、重槍から落ちそうになっていたのを私は背中を思いっきり叩いて目を覚まさせる。

「恵那、しゃんとしろ!やるよっ!」

 バチンと何度も叩き、恵那がその度に仰け反る。

「ぐっ!…いたっ!!!わかったからやめろ!痛いって!」

「よし!!!」


 重槍の速度を上げ、ブルーとの距離を縮めようとする。空に浮かぶ巨大な月が血色に染まっていき、唯一真ん中の満月だけは青色のままだった。

 不気味な血色に染まった月から赤色の液体が流れ出ていた。


「点から線、線は線でも後ろの死線…そして今度は面による攻撃か…恵那、突き破らないと今度は避けるとか無理よ」

「其の決意が全てを突き破り斬り開く…アイアムズ!」

 もう一つの剣が召喚され、その剣が幾重にも分身される。


 ブルーは背を向け、走り出す。走った跡から巨大なクリスタルが地面から生えていった。地面の裏側にもクリスタルが生えていたが、ブルーの姿は映されていなかった。だが、自分たちの姿は地面に写っていた。

 あれは本体じゃない?いやそんなことはない、あれは本体だ。でもなんで写っていないんだ?違う…写ってる、巨大な狼の姿じゃない…小さな狼、普通のサイズの狼が走っている姿だった。


 大きいと認識させられているだけであって、本当は普通の大きさ…でも斬る時には本当に真っ二つにするつもりじゃないと届かないようになってるのがわかった。


「あの巨大な狼に傷をつけるつもりじゃない、真っ二つにするつもりでいかないとダメよ」

「でも僕の剣じゃ―」

「自分の剣を、アイエクスで斬る時は真っ二つに出来ると思いなさいっ!じゃないと終わらない!!!」

 恵那は歯を食いしばり、大きく頷く。


 巨大な狼を追いながら、足あとから生成されるクリスタルの巨塔を避けながら追う。そして、月から流れ出る赤い液体が地面を覆い尽くしている空間へ変わった。


 来る!


 大きな赤色の津波が現れる。ブルーの足あとに形成されるクリスタル近くからこちらに向かって赤い波が波状で休みなく迫ってきた。海の波と違い、全て自分たちに向けられたもので、避けようとする方向からも来ていた。

 波乗りをして避けようとするが、背後から闇色の死線が迫ってきているため、そんな余裕がない。そのため、波そのものを斬り開いて突破しないといけない。

「恵那ッ!!!」

「任せろ!アイアムズ!!!」

 展開された抜身のいくつもある剣が回転し、さらにそれ大きなドリル状になって回転していく。


「穿け!」


 赤色の波に真ん丸とした穴が空いた。空いた先に一際巨大な満月が見え、しまったと思った。あの満月だけ他の月と違う、何のためにあるのか知ろうと思ったが遅かった。


 満月の光が降り注いだ、私は満月の光を見てしまった。身体が、脳が、魂が警告しているのが感じ取れた。私は恵那の後ろにいるが、前にいる恵那は全身が強張っていて小刻みに震えていたり、ビクッとしたりおかしくなっていた。


 世界を救う方法が私の状態異常を元に戻すが、一時的とはいえ身体が動かなかった。気がつけば新しい赤い波が迫ってきていた。恵那の背中に手を当て、自分が持つ世界を救う方法が生み出した対抗ワクチンのようなものを流し込んだ。


 恵那は咳き込みながらも、意識を取り戻し、迫り来る波に対して回転する剣で対処していくが波は途切れない。波も高くなり、より巨大で力強くて厚くなっていった。突破するのも容易じゃなくなりつつあり、厳しいと感じるようになってきた。


「ミナ!もっと速度を上げろ…このままじゃ追いつかないッ」

「でも波が…っ」

「大丈夫だ、もう性質がわかった…忘れたか?僕の力を!」

「わかった、限界まで上げていく」

「まっすぐだ、ブルーがいる所までまっすぐだ」


 私は息を吸い込み、これから口にする言葉に「恥ずかしさ」を捨てようと決意した。今まで私はこれを「重槍」と言っていた。口上を述べる事でそれが引き金となり、言霊として意味を持ち、力となる。

 力とは存在する事、存在とは過去、現在を決め、未来を進む時と共有し、相互の繋がりから魂が、思いが、より強固となっていくもの…中二病臭くて嫌だった。けれど―それが力になるなら恥ずかしさなんて捨てる。


「絶望を射抜き、希望を乗せ、貫くは強き極光。黎明の創星よ、我が名において、解き放つ…天魔反戈(アマノマガエシノノコ)


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