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44-

 重槍を身体で使う、時には足で、時には手や腕、そして首や腰などを活用し身体を守りつつ高速で斬撃を繰り返す。

 ブォンブォンと風切の音がなりながらも、ガンッという音と共に重槍が弾かれる。突きによる攻撃はリーチがある故に出来るが、恵那に対しては悪手だというのが模擬戦闘で学んだ。


恵那と再会したら、戦闘になっていた。


「誰だ…お前?―いや、見たことある。お前はあいつの隣にいた…お前ッ!お前ェェェ!!!」

 無数の剣、むき出しの諸刃が恵那の背中に星形に整列される。剣の数は5本、それぞれ同じデザインのものだった。

「アイエクス!エンゲージ!!!!」

 恵那は犬歯をむき出しにするように憤っていた。


「ちょっと!落ち着きなさいよ!あんたそんなに感情的だったっけ?!ちょっとってば!!!」

 焦る。かなり焦る。


 担いでいた重槍を構えようとするが、瞬時に懐に入られる。


 嘘、こんなに早かったっけ!?


 恵那は盾を召喚し、それを足場にして垂直に跳んで距離を詰めたのだ。クラウチングスタート台をその場で作り、かつ盾にバウンド効果を与えていた…それを任意に行えるのか!!!


 ヤバッ―


 瞬時に重槍を起動させて手首だけで切り上げ距離を取らせようとしたが、盾がそれを邪魔し、阻まれる。しかし、ドガンッと大きな音が鳴り思った以上の衝撃が盾に走った事で互いが吹き飛ばされる事になる。


「いたたっ…」

 受け身を辛うじてとり、重槍を構え直すが砂埃が舞うが互いを見据えていた。

「ちょっと!話聞きなさいって!いきなりは無いんじゃない?!私よ!ミナよ!あのアーマーだった私よ!」


「信じられるか!!!」

 無数の剣が弧を描きつつ、それぞれが別々な動きをし、私自身に向けられて攻めてくる気配がした。逃げ道がどこにもなく、私は重槍を自分の周りに迫ってくる剣を順番に回転しながら叩き壊した。


「いいから話を聞け!眠兎を助けたいんじゃないのか!」


 恵那はピクリとし、聞いていた。私はここで畳み掛けないと戦闘になるような気がして、恵那に説明する。

―が、なんて説明しよう…


「眠兎がどこにいるのか知ってるのか?」

 恵那は剣を構えてはいるがまともな返答がきた。

「知ってる。そこの行き方も、確定じゃないけれどなんとなく…わかる」


 世界を救う方法、まだ私の身体に完全にインストールされていない、あと少しなのだ…。


「お前は自分の身体に戻るために僕らを売ったのか?」

 その言葉がショックで胸がえぐられた。


「そんなわけないだろう…そんなわけ…私も―あいつにブルーに利用されていただけだ。抗ってなんとかしようとし、未来を変えたのはユーリだ。そして、私は私の意思でここに戻ってきた。私は別世界からここに戻ってきたんだ、ブルーを倒しに、眠兎を取り戻すために…」

 私の頬に涙が流れていた。

「ユーリは何も言ってくれなかった、私だって何が起きていたのかだってわからなかった。でもわかったんだ、わかってどうにかしたいと思ったんだよ!だから戻ってきて、まずは恵那に会わなきゃって―うぐっ、ひっく…」

 最後の方から言葉がもう出てこなくなっていた。



「落ち着いたか?」

 恵那はさっきとは違い、落ち着いた表情になっていた。いつもの恵那だった、格好や見た目は一緒に旅をしていた時と違い、冬服っぽく変わっていた。髪もボサボサだった、目つきもだいぶキツくなっていた。

「うん、ありがと…」

 街道から外れた場所、黄金の民の遺跡があるとされる場所より少し離れたところに今いる。恵那は黄金の民の遺跡をめぐり、眠兎やブルーの手がかりを探していたのだ。乃陰とは連絡も噂もなく、今出来る事をやっていたのだという。


「月無が僕になった、元から一つだったものを二つになっていたのが元に戻ったと言ったほうがいいのか…あの場所を調べたりしても手がかりもなく、乃陰に状況を説明しようにもどこに行ったのかわからないし、手がかりと思う黄金の民の遺跡を巡っていたんだ」


 風がそよそよとなびき、草木と風がこすれる音がかすかに聞こえる。


「今の自分の状態を…姉さんにも見せれない。月無は結局いなくなってしまったのか、それとも自分が月無なのかさえわからない。行こうか迷っていたら、このザマだ…ミナは?」


 腫らした目が少し痛く、どよんだ顔を見せるのは恥ずかしかったが向けられた言葉に私は顔を見て答える。


 私はあの時、恵那と離れ離れになった時からのことを話した。何が起きて、何が出来なくて、何を見て、聞いて…そしてどうやってここまできたのかを


「神に挑む者か…」

 恵那は自分の手を見ていた、はたして自分の力が届くのか、そんな思いがあるのだろうか


「神か…今、その神はこの世界には不在、あいつがいるこの世界だと勝ち目はない。けれど異界にいるのなら勝機はある」

 勝機がある、私が断言していた。なぜ?その問いを自分自身に向けると世界を救う方法のインストールが完了しつつあり、そのデータが断片的ではあるが自分を変えているのがわかった。


「ミナさん…」

 恵那は私を見ていた、それが本当なのか疑心になっている。自分が納得いっていないのだからそりゃそうだろう。私だってそんな事言われても神に勝てる勝機とか、わからないものだ。


「神、この世界を人格化した存在…この世界そのものが他の世界に行っている。この世界とブルーがどういう存在なのか、肉体と精神の違いだ。肉体であるこの世界は壊れても蘇る、しかし、精神そのものは今まで壊れたことはない。ブルーは壊れているが、それは人格的な意味でだ。精神を壊したからといって、また復活しないと限らないし、また繰り返すかもしれない」


「だったらどうすれば―」


 私は確信を口にしていた。だったらどうすればいいのか、世界を救う方法というのがそれは―


「あなたの心で創られた剣でブルーに可能性を切り開かせる。いや、植え付ける…?どん詰まりの価値観を変える…なんて言ったらいいんだろう。あなたの心創剣で斬ることに変わりはないのだけど…」


 恵那は自分の剣を召喚し、剣を見つめている。ノイズのように剣がブレ、空間が揺らいでいた。その揺らぎが固定されたと思ったら逆再生され、剣は消えた。


「まさか…こんなことが…?」

 恵那は剣を改めて召喚し直す。


「この世界にあってはいけない、神殺しの剣…違う、もっと別の…」

 言葉が思いつかない、該当する言葉がなかった。なんて表現したらいいのか―


 先ほどの再召喚された剣は見た目は変わっていない。しかし、そこから発せられる存在感は揺るがない圧倒的な力が宿っているのが感じられた。その力の源がこの世界には歪であり、この世界で生まれたものじゃない者の手によって創られた剣だからだろう。


「わかった、いやわかる気がする。この剣が何を成すためにあるのか、僕自身の役割が内から溢れ出してきている。可能性と言っていた言葉の意味がわかる。ミナ…行こう異界へ」


「ええ、行こう…ってどうやって行くのかわかるの?」

 異界へ行く方法、ブルーが異界に行く時には眠兎が必要だった。今はどうやっていけばいいのか…私にはその答えがわかっていた。そして、恵那もその方法を知っているかのようだった。


「ああ、この剣が示してくれた」

 布のような革みたいな鞘に包まれている剣から鞘を外しながら、恵那は立ち上がる。鞘は青白い粒子となって消えていった。


「異界への門、開け―」

 恵那は剣を掲げる。五芒星の紋様が空中にあらわれて、そこに剣を突き刺す。突き刺した先から剣は消えていき、紋様が青白く光る。


「運命の輪が廻り…宿命の鎖が編まれ…」

 言霊を紬いでいくことで、空中に形成された紋様が更に大きく、詳細な紋様が書き込まれていく。


「この世の理が通った先、隠れるる世へ…開け…開け」

 五芒星の紋様がさらにびっしりと描きこまれ、極大な天球儀がそこにあるように感じられた。立体的に形成された紋様は美しく、青白く光って入いるものの、やさしい光で眩しくはなかった。


 空間が歪むことなく、紋章が連なり球体がそこにあるように感じられ、そこが別の異世界に通じているのが感じられた。


「恵那…門が開いた」

「ああ、あとはここに飛び込むだけだ」

 世界を救う方法が身体へと完全に馴染んだ、細胞一つ一つ、隅々まで感じ取れた。今までは意識してもわからない自分の身体が、完全な自分の支配下になっていた。恵那、景色、空気、臭い、全てが違うように感じた。


「ミナ?」

 どうやら恵那も感じ取れているようだ、自分がさっきまでの中途半端な自分じゃないということを―

 神が不在のこの世界、ゲームの世界だと思っていたら異世界だったこの世界…私が他のプレイヤーとしてこの世界に来た時から別枠だったことにもわかった。理の中ではなく、外側からの客でもあり、異物。

 特異の存在としてここにいるのも彼、ブルーの潜在意識からくる最後の希望だったということがはっきりと感じ取れた。


「恵那、大丈夫。ちゃんと理解した…そして、わかった…わかったことを話す」


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