33-
恵那と月無はここがどこだとあたりを見渡すより前に、互いを認識していた。お互いに睨み、互いが互いを方割れた自分の魂を元の器に戻したい、破壊したいという感情が奇妙に渦巻いているのが感じられた。
私はそれがなぜ感じ得られたのかわからなかった。感受性豊かになった、なんていうものじゃない。気持ち悪いといった方がいいくらい他人が何を思っているのか感じているのかが流れ込んできていた。
二人は睨み、空いた距離は離れていることから周りを見渡す余裕が出てきたのか、冷静になっていた。
ブルーの表情は変わらない、ただ展望台のようなここから見下していた。彼の表情にはいつものように何万回を繰り返してきた事なのか、それとも…過程に何も新鮮味も感じさせないのか、ゾッとした。
何も感じていない、何も見ていないようだったからだ。
「おい、ここはどこだ?」
月無が恵那に答えを求めるが…
「僕に聞くな、僕だって知りたい…」
チッ、という舌打ちが洞窟内に響く、月無は納得がいっていない。それはそうだろう、自分の魂を恵那という器に別けられ、彼の夢を見るのだから…
「これから起こる事について、君に説明しておこう…なぜ、君がここにいるのかを…」
ブルーは恵那と月無から目を離さないで言った。それが私に言われた言葉かどうかわかるのに時間がかかった。恵那と月無、二人が言い合いをしているのに対して制するためだと思った。
だがそれは違った、私は彼の言葉よりも二人の感情の渦がモヤのようなものに最初は見え始めた。ぐねりうねりと彼らの身体から出て洞窟を満たしていった。綺麗だった洞窟は今では別の空間のように歪なものが溶けて気持ち悪く、吐きそうになった。
私は思わず口を抑える、今の状態で吐くという行為すらないと思うがあまりにも不快で身体が覚えている動作をしている。胸がムカムカし、手先がこわばり冷たく感じる。うまく手を握れない、頭が小刻みに振動していた。
「眠兎の特殊なスキルについて、君は聞いているだろう。そう、召喚だ…では召喚とはなんだ?」
ブルーが言っている言葉が辛うじて耳には入ってくるが受け答えが出来る状態ではなかった。
「彼女に付与した特殊なスキル…それは世界との接続、ゲートと呼ばれる力だ。世界と世界を結ぶことも可能にし、それこと行ったことの無い世界へと…だが、その力を引き出すには君が必要だった。神界の住人じゃないと力を引き出せないんだ」
恵那と月無は互いに心創剣を生成していた、それは見慣れた剣と盾だったが雰囲気は禍々しく鞘は無く抜身の状態で生成されていた。盾はバックラータイプだが、剣を絡めとるような作りになっていた。
「知ってるかい…異世界人は想像できないってことに、神界の住人と一部の…ほんの一部の人たちしか想像できないんだ。新しく何かを創りだすにもその全てが神界にあり、その残留思念が異世界に影響してるんだ。科学力、魔法、術式、アーティファクトの数々…どれも神界のお伽話や神話が流れ変異したりし、異世界を形成しているんだ」
気がついたら膝をついていた、歯がガチガチと言っていた。今にでも吐きそうな程、気持ち悪かった。月無が二刀生成し、構えていた。ただそれだけなのに二人からにじみ出る雰囲気は気持ち悪かった。
二人が産み出す雰囲気を物ともせず、ブルーは語り続ける。
「いくつか僕は異世界に君たちを招待した、そうゲームという形を使ってね…そしたらわかったことがあるんだ。君たちは今まで本や映像を通して僕らの世界を創造していたり、のぞき見して楽しんだり、あるいは…限定した時間を永遠に繰り返すという行為をしている事にさ」
ドクン、と鼓動が聞こえた。その音が自分の心臓の音だった、そして鼓動が早くなっていき、息も荒くなった。相変わらず、気持ち悪さが取れず、二人を見るだけでも苦しかった。
「ここで、これで、決着をつける。口上を言うぜ…飛翔流裏天源剣、心創剣アイアムズ。刻み通す」
月無が二刀を構え、恵那に対峙し、口上を待っていた。
「僕も未来、自分の未来のために進む。飛翔流天源剣、心創剣アイエクス。切り開く」
右手に持ったバックラーを前に出し、左手にもった抜身の剣を後ろに構える。
「飛翔流に盾なんかねぇんだよ!!!!!!!」
月無が吠え、恵那のバックラーめがけて切り払いをおこなうが、恵那もそれをわかってかポイントをずらし受け流す。
二つの心創で造られた武具が青い火花のような粒子を舞わせた。
「眠兎という存在は確かに造られた存在だが、君がいることでどの世界の住人でもない境目にいるような存在になった。おかげで新しい異世界が出来たんだ、いや元からあったがそれを認識することが出来ない桃源郷かもしれない…生きとし生けるものの楽園、幻界と呼ばれる場所さ」
ブルーは二人の戦いを見ながら語っていた。青い粒子が火花のように閃光し、恵那と月無は互いに一歩も譲らない戦闘をしていた。何度か互いの武器が接触することによって、刃がこぼれ落ち、盾も消耗し、その度に互いに生成しあって戦いを続けていた。
「そこから力を吸い出し刃に変えていたね、その経由された道を解読して全てが保管されてる異界と呼ばれる場所を見つけることが出来たんだ。全てが保管されているのなら、結末だって書かれるだろう?なら簡単さ、その異界に結末を書き込めるように力を注ぎ込めばいい。理論を構築し、どのくらいのエネルギーが必要なのかわかったら後は実践するだけだった」
ブルーが言っている事は理解できるがそれをどう実現するのか、全くわからなかった。また恵那と月無の戦闘により私のおかしくなっていた、気持ち悪さが限界に来ていた。
「どうやら君も感じるようだね、力を…この膨大な力…運命力を直に感じて気持ち悪くなるだけなんて君はすごいね」
ブルーは振り向き、私の目を見る。何も感じ取れない、無感情な表情がこちらを見ていた。興味が失せたのか、ブルーは恵那と月無の戦いを見なおした。
うぐっ…はぁはぁ…ううっ…
吐きたいけれど吐けない、頭がぐらんぐらんし、身体が重かった。二人が戦闘を続け、剣と剣、剣と盾がぶつかり合う度にその余波が私をすり抜けていく。その度に身体中が不快感が走った、細胞一つ一つを鷲掴みされていっている感じがした。
「さて、ここまで上手く力を眠兎に付与できたのも今まで何度かいろんな被験者に力を与え試した結果だった。世界の摂理に干渉する力なんて…そんなものは創作者や開発者といった類の権限がないと出来ない。簡単な話、神界でそういうことが出来る人になればいい、あるいはそういう人の夢見に出て、誘導すればいい。あとは想像力豊かな神界の住人である君ならわかるだろう」
私は力を振り絞り、ブルーに問いかける。
「なんで、こんなまどろっこしい…事してんのよ…」
言葉にした途端、身体がブレた。全身に口があったら悲鳴を上げているような感じだった、それこそ何かを発していた。
「宿命の鎖が交わらないと、運命の輪が回らないんだよ…因果律、人の心を操作してどうにかしてもダメなんだ。人の心がそうしたいと思わなきゃダメなんだよ、そのそうしたいことによって産み出す本当の結果が知らなくても大丈夫なのに、不思議なルールだよね」
何を言っている、そう言葉にしようとしたが自分にはその力が無かった。正座をするような形、いや女の子座りに近い感じで首はだらりと自分の肩に寄っかかった状態だった。両腕もだらりと伸びきって力が入らなかった。なぜブルーが平然としているのか、私だけどうしてこんな状態なのか、私が何をしたっていうんだ。助けて、気持ち悪い…助けて…
「君が今どうしてそんな状態か、簡単なことさ…魂の生存意識さ、全てが終わる事に危機感を感じて一刻も早く元の神界に戻ろうとしてるのさ。意識とはいえ、魂が震えているんだよ。大丈夫、僕が責任を持ってちゃんと返す。だから、最後まで付き合ってもらうよ」
ブルーはそういい左手をあげた、すると身動きが出来ない私の身体は新しいクリスタルに入れられ、さっきよりも気持ち悪さが少なくなった。
「もう少しでエンディングだ、最後に相応しい」




