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夕闇の中、自室の部屋がランプの光がゆらゆらりとゆれ、自分の影がそれに鼓動して微動する。いつ頃か寝ることそのものがなくなったことが最初こそ不安と違和感しかなかったが今では慣れてしまい有効な時間へと変わっていった。
ユーリ・オーヴァリー・ウレイ…彼は何者なのか、同じテスターだと言っていた。今日は遅いから詳しいことは明日話すと言っていた。私にとっては考えるのと落ち着くのに充分な時間をくれたような気がした。
『ミナ、大丈夫?あの残骸に触ってからなんか変だよ?』
この世界が現実で…別の世界…異世界…そしたら眠兎は何なんだ?
『ミナ?』
眠兎はいったいなんなんだ?
私がテスターだった時、操作していたアバターだ。アバターだったはずだ…私自身がキャラメイクして現実の私よりも胸が大きいし、髪の毛も長くてサラサラだ。
『ミナ?ねーってばーミーナー!』
ぐっ…うるさいなぁー考え事してるのに
(ちょっと考え事してたのよ、もー!さっさと寝なさい!)
『何よっ、心配してたっていうのに!おやすみ!』
ユーリのおっさんが言っていたこと、それがこのゲームの演出としてリアルと思わさせ、もっとのめり込ませるものだと思えた自分がいればと思った。異世界に利用されているっていったいなんなんだよ。頭が追いつかなく、イライラが募っていき、ストレスで気持ち悪くなってきた。
冷静にひとつずつ考えて何かしら理屈なり、辻褄を合わせて自分の中で見つければ落ち着き、自分を納得させられる仮説を立てれれば、その仮説が正しいのか見つめなおし検証して今の自分の状況を打開なり冷静になれる。しかし、今の私には無理だった…
リビングアーマーとして自分がいつの間にか変わってしまった事で精神、思考が緩やかに錆び付いていた。何かに向かっていることで思考し、行動できることを辞め、逃げていた。私は逃げていたんだ、そうだ…私はこの世界に逃げていた。いつからだ?
気が付くと朝…プレーンヒルズの町は日が昇ると同時に人々ははじめていた。外から小鳥のさえずりがやかましくさえずっていた。カーテンから差し込む光が部屋を薄明るくし、私はあたりを見渡した。視点をぐるりと見渡し、首をほぐすように確認し、自分が武具であり、アーマーだということを再度自覚する。
ユーリのおっさんは記憶喪失のままではなく、現実の記憶を保持していた。これは私と一緒だったということだ。「テスター」という単語が出てきたのだ…他にも現実のことを聞きたい。落ち着いてきたら聞きたいことが増えてきた、そうだ、私は現実に戻る。戻って…戻って…?
私の中にぽっかりと何も無かった。
このバグを報告する?いや報告しても変わらないんじゃないか?ここが仮に異世界だったとして…誰が信じる。それに、私は今の状態を心地よくも感じているのがわかった。眠兎を通して、この世界を楽しんでいる。このままでもいいんじゃないかなって思っていた自分がいる。
『コンタクト:ユーリ・オーヴァリー・ウレイから…応答しますか?』
唐突に画面が出て、軽く頭痛がする。今の私には頭などはないが、それでも自分自身の身体はいつも感じている。
応答する、と意識を向ける。
『おはよう、起きているか?』
唐突に声が聞こえ、そういうことかと納得した。
(おはよう、起きてる。というか、この身体になってから睡眠が必要としてない)
『そうか…聞きたい事がいろいろあると思うがまずは話を聞いてもらいたい。そのあと、いくらでも説明する』
(わかったわ)
『眠兎さんが起きるまで、とりあえず話せるだけ話そう。まずはここがゲームではなく異世界だということ…そしてこの星はソーディアーと呼ばれている。私はこのソーディアーが舞台のゲームではなく、このシリーズの一作目の世界が出身だ』
彼はもともとこのソーディアーを舞台にしたゲームのテスターではないことだった。どうやってこの世界に来たのだろう…そもそも、このシリーズより前の作品ってことはどのくらい長い間…
『このリージョンレイテッドワールドは今ではいくつ出ているのか、私はわからないが異世界は数多く存在する。その異世界ごとに何か問題を抱えているのを原住民では絶対に解決できない為、異世界から召喚し解決させている』
それじゃあ何…利用されているってことなの?
『だが、肉体そのものを召喚するとなると現実にいろいろ問題が起きる。そのため、夢を介して意識のみを召喚してンだ…だが―』
眠兎がもぞもぞとし、起きた。
(ごめん、眠兎が起きた。いろいろ教えてくれてありがとう、また詳しくは道中に教えて)
『ああ、では移動中に』
あまり話せなかったが、段々と自分がどういう状態になっているのか見えてきた気がする。このままアーマーとしてどれくらい長い期間になるかわからないがユーリのおっさんみたいに異世界に居続ける事になるのかもしれないってことだ…
ユーリのおっさんはどれくらい異世界に居続けているのかわからなかった。彼が現実では私と同じように異世界に自分がいるという記憶だけが忘れている状態なのだろうか…
何にせよ、詳しいことは道中…でわかると思う。
『ミナ、おはよー』
(眠兎おはよう…昨日はごめんなさい。ちょっと疲れてて)
『ん、大丈夫…ミナも疲れることあるんだね、ごめん気づけなかった』
私達は一心同体だ。眠兎は…元は私が作ったアバターだけど、彼女はいったいなんなんだろう?この世界の住人?ユーリのおっさんに聞けばわかるかな…
眠兎が起き、恵那と乃陰たちと一緒に部屋で朝食を済ませる。街道を北上するだけなので盗賊などに気をつける場所などを確認し合ったりした。また「私を殺す」と言った者達と遭遇するのは街道に入ってからだということをも確認し合った。
すでに乃陰が情報を収集しており、相手が何人なのか、どういう戦闘を行うのかは調べがついたのだが…
「どうも俺たちと情報がかぶる…剣を自在に出せる、武器を使わず己の肉体で戦う、何でも切れる武器を持つ…これ俺たちのことじゃないのかって思う」
「自分たちのことも混じっている可能性があるってことか…でも剣を自在に出せるっていうのは引っかかる。もしかして…」
恵那は「月無」を探している。そして、その相手がもしかしたらそいつかもしれないってことだ。
問題は一つ一つ降ってくるわけじゃなく、時間差的に来る。大抵、最悪のタイミングの時に…