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15-

 ユーリ・オーヴァリー・ウレイ、それが白髪混じりのおっさんの名前。実際に年齢を聞いてみたら20台前半だった。しかし、落ち着いた雰囲気と底の見えない自信が年齢と合致させてなかった。


 そんな彼から、話があると言われた。内容に関しては積荷のことだった、そしてその積荷の中身については遺跡から目覚めた人じゃないとわからないため、確認して欲しいというものだった。


「全員に確認してもらう、が…これから見せるものは他言禁止で頼む。面倒は嫌いなンでな」


 布に包まれた円形の輪だった。石器時代に使われていたお金ですとか言われても信じる。


 などとふざけている自分は、これが特殊イベントだと感じ浮かれていた。


 ユーリのおっさんも同じ宿をとることが出来、その部屋で荷物を確認することになる。壁には折れた刀が鞘に収まったまま立てかけられていた。


 部屋はそんなに広くないため、ちょっと圧迫感があったものの今は重装状態ではなく、軽装になっているのであまり気にならなかった。


 しゅるしゅるりと布を丁寧に円形の輪から解いていき、中から現れたのは私が装備している武具と同じデザインのものだった。何で作られているのかわからない白色を基調としたパーツが組み合わさったもので、所々黒色が模様とパーツが組み合わされていた。

 大きさは大人用フラフープくらいの円形のもので厚みや円の部分の太さも結構あった。だが、ユーリのおっさんは結構軽く持っていたように見えたので見た目以上に軽いのだろう。

 完全な円形というわけではなく、ゴテゴテしている何かのオブジェという感じがしっくりくるものだった。それをうまく立てかけてユーリのおっさんはこちらを向きながら、疲れた目で言った。


「まあ、見た通り黄金の民の遺産だ」


「触っても?」

 乃陰は、武具が好きなのでこれも武具と思ったのだろう。

「ああ、構わないさ。壊された遺跡の残骸でな…」

「なんだと!?」

 恵那は驚いていた、もちろん乃陰もだ。私は二人の驚きっぷりがどうにも腑に落ちなかった。形あるものはいつかは壊れるし、誰かが破壊しようと思えば出来るものだと思ったからだ。


 眠兎は二人が驚いたことに驚いていた。

「ちょっと大きな声をいきなり出さないでよ。びっくりするじゃない!形あるものは壊れるんだから、壊れるのは当たり前でしょ」


 乃陰は腰に手を当てながら首を振り、恵那は頭を抱えていた。まあ、黄金の民の遺産となると基本システム上壊れないものだろう。ユーリのおっさんは、特に顔色を変えていなかった。

 ホームとなる場所が壊れたならプレイヤーは、どうなるんだって話だ。そのため、その場所が壊れたとなると…これは大きなイベントだなと私は確信していた。


 眠兎の記憶と関連するイベントルートだといいなーとぼんやりと思った。最近進展的なことが「青の使徒」という単語を知ったのと私そのものを狙う人たちがいるくらいしかわかっていない。


「あのな、眠兎…これは黄金の民の遺跡の一部だというなら、本来あれは壊せるようなものじゃないんだよ。いいかどんな素材で作られているのか不明でその精製技術から最高級品とされているのが黄金の民の遺産なんだ。それを壊すってことはどう考えても同じ、いやそれ以上の―」

「あー、うんうん。わかったわかった、すみません、ユーリさん続きお願いします」

 眠兎は乃陰の話を折り、ユーリのおっさんに話の続きを求めた。乃陰がこういう話をしだすと何かと長い。旅の移動中やそういう時ならBGM代わりに聞けるのだが普段でやられると正直うざいのだ。それは眠兎も同様に感じているのでよくやったグッジョブ!


 乃陰は咳払いし、口をへの字にしていた。


「わりぃな、この価値が充分にわかってもらえる人が二人いるだけで充分だ。これを首都まで運ばないといけないンだ」

 乃陰は残骸をさわさわペタペタ触ったり、コンコンとノックしてみたりしていた。目が見えてないのでいつものことだと思った。私にもそういうことしたしな…こいつ

 乃陰が触っているのを見ていると私は奇妙な感覚を感じた。もしかして変な趣味に目覚めてしまったのだろうかと不安に感じたが、どうやら何か違う。これは武具が共鳴しているのか?


 そういえばこの武具、つまりは私なのだけど正式な名称も知らない。眠兎が武器として使っている棒の武具さえも名前がわからない。この前、盗賊プレイヤーたちから武具の系統という特性を吸い出したが、名前なんて無かったしな…


(眠兎、そこの残骸に触れてくれる?ちょっと気になることがある)

『の、乃陰が終わってからでいい?』

(もちろんよ、あの変態が満足してからでいい)


 眠兎は腕を組み、乃陰の変態行為がさっさと終われと目で訴えかけて続けていた。乃陰は乃陰でどこ吹く風の如く、残骸に興味津々に触っている。ヘタしたら舐めたりするんじゃないだろうかっていうくらい顔を近づけている。ドン引き

 萌えとかロボットが好きなオタクも似たような感じなのだろうか、私にはあまりその辺よくわからない。とりあえず見てて気持ち悪いなと思ってしまった。


『あ、乃陰の行為が終わったからちょっと触ってみるね』

(うん、ごめんね…頼む)

「ユーリさん、私も触ってみていいですか?」

「ン?ああ、構わねぇよ」


 眠兎は残骸にめんどくさそうに触れる。


 触れた瞬間に画面が表示され拡張インストールが始まった。


 な?!どういうこと…?


 私は突然の事態に混乱した、眠兎は特になにも感じていないのが幸いだったのか、私は冷静に今起きた状況を向き合えた。

 アーマーそのもの機能に拡張されたものの、それが何を意味するのか不明のものだったからだ。項目がどこにもなくただ「拡張されました」という文字が表示されただけだった。インストールの拒否も何もできなかったのだ。


 今まで選択肢があったのにどういうこと?


『あー、こんにちはーこんにちはー?聞こえてる?』


 聞いたことがある声が私に語りかけてきて、冷静になった自分がすぐに状況を飲み込めないまま頭が真っ白になる。


『あれ…聞こえてない?』


 なんとか私は落ち着いて返事をする。


(き、聞こえてるわ…あなたは誰?)


『初めまして、俺はユーリ・オーヴァリー・ウレイ…プレイヤーだ。驚かせてすまない…俺もテスターだった者だ』


 ユーリのおっさんは表情を変えず、眠兎が残骸に触れて何か調べているのを憂いに似た笑顔で見ていた。私は彼から知ることになる、ここがゲームの世界ではなく数ある異世界の一つであることを…そしてプレイヤーは異世界に利用されていることも知る。


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