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「おっと、そういきり立つなって、戦うつもりはない。見ての通り丸腰だしな」
手を広げ、何も持ってないことを見せる。特に違和感もなく、ヒョロリとしているが引き締まった筋肉がついているのがわかる。
(眠兎、町中だからって油断しすぎでしょ…二人を見習おうよ)
『えっ…あはは~』
「護衛か…聞きたいのだけど、どうやってここまで来たんだ?今まで護衛はどうした?」
恵那は白髪のおっさんに聞いた。確かにここまでの道のりで護衛もつけないでくるなら今後も必要ない。まあ、さすがに一人旅は危険だが乃陰が戦闘態勢になるくらいだから実力はあるのだろう。
「護衛は居たんンだが…盗賊に襲われた時に逃げ出していってな。私一人になって逃げながら戦ったンだが…しんどくてな」
と笑いながら応えた。どこも怪我などもしてなく、何がしんどかったのか聞きたい気持ちがあった。
「ふんっ…どうだか怪しいな…」
「ちょっと乃陰、失礼だろ」
「こいつ相当強い癖に逃げてきたとは…嘘はついてないが何か隠してる。それがわからない限り、こいつは危険だね」
「鋭いねぇ~まあ、逃げたのは訳があってな…戦ってる最中に武器が折れちまったンだよ」
でかい荷車から鞘に収まった刀が出てきた。それをスルリと抜くと刃が途中で折れていたのがわかった。
チンッと音をして刀を仕舞い、荷車の後ろに置く
「ま、そういうわけなンだよ」
「乃陰、話だけでも聞いてみよう」
乃陰がため息をついて、わかったよ、という仕草を恵那にする。
「依頼内容は、この荷台にあるものを北…この国の首都に運ぶ。できれば、首都まで護衛してもらいたい。積み荷に関しては、依頼を受けてくれる場合のみ話すがそうでない場合は話せない」
丁度北に行きたかったので丁度いいと思った。ファイフリーズ連合国の首都に行ければその北にある教皇国に行けない。東の世界の敵が所有している壁沿いを進めばいけないこともないが…私達は安全策をとったのだ。
「護衛料と期日は?」
護衛料は普通の依頼より少し多めだった。積み荷を事前に言えない分、上乗せされていた。期日は一ヶ月で、充分に間に合うものと恵那と乃陰は判断していた。
「悪くない…というか普通だな」
「そんな依頼だったら、他の冒険者を大量に―」
「あー、まあ…それでこのザマでな…察してくれ」
よく見るとこのおっさん、目の下のクマがひどい。そして白髪だけかと思ったら黒も混じっていた…苦労してたのか…
「まあ、それでどうする?」
ぐきゅるるる~
眠兎の腹の音が盛大にぶちまけられる。場の空気はしらけ、さっきまでのシリアスな雰囲気はどこにいった。フルアーマーでフルフェイス、周りの人が眠兎の今の顔を見れない状態だが、どんな顔しているのか彼らはわかる。
「とりあえず、飯を食いながらにしよう」
白髪混じりのおっさんが気を利かせてくれた。
『恥ずかしぃぃぃぃぃぃ』
心の声というか私に対して大音量で聞こえる。ああ、わかった…わかったよ…お腹へっててぼーっとしてたんだね。うん、わかったから…黙れよ。
『ぎゃあああああああ!死にたいぃぃぃぃ!!!!』
恵那も乃陰、そしておっさんも何もなかったかのように接してくれた。私達は自分たちがとった宿屋でご飯を食べることになった。あの時、聞こえたお腹の音に関して全く触れないまま、「そういえば俺も腹減ってたな」とあまつさえさっきの出来事は無かったかのように扱われたのだ。
『うあわあああああああぁぁぁぁぁんんんんん』
眠兎は泣き叫ぶ、穴があったら入りたいのだろう。しかし、幸いにも愚痴という叫ぶ相手はいるわけで、その相手が私なのだ。さっきからずっとやかましく、私が何を言っても泣きわめいている。
別に自慰行為を見られたわけじゃないし、生理現象なのだから仕方ないことだと告げるものの彼女の耳には入らない。私はもうどうしようもなく面倒臭くなってきたのでこの叫び声よりも大きな声で彼女に言った。
(やっかましいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!起きたことをグチグチ叫んでも何も変わらないでしょ!!!それにね、自己管理をおろそかにしたお前が悪い!!!!)
ピタッと鳴り止む眠兎の騒音。
『・・・ごめんなさい』
(わかればよろしい、ほら、さっさと何を食べるのか頼んで、出てきたものを食べる)
この宿屋の食堂には個室があり、たまたま空いていたので4人で入る。個室料は取られるが大事な話をしたい時などに使われらしい。壁はレンガ出来ており、床もレンガで出来ていて部屋の中は少し寒く感じた。とはいえ、眠兎は寒さを感じるわけもなくアーマーが自動で温度調整を行う。
氷点下や溶岩近くでも活動できるアーマーなんじゃなかなと最近は思い始めている。まあ、そんな区域に行かないといけないようなイベントは避けたいと思っている。
4人が個室のテーブル席につき、白髪混じりのおっさんが改めて自己紹介をした。そういえばこのおっさんの名前を知らなかった。
「ユーリ・オーヴァリー・ウレイだ。改めてよろしくな冒険者たち」
ちょっと疲れた感じの笑みを出しながら片手を上げ、手のひらを見せる。行商人や互いに挨拶をする際に手のひらを見せる風習がある。私は武器を持ってなく敵意、攻撃はしませんという意を伝えるものらしい。
「僕は飛翔 恵那、冒険者としてのランクはAです」
「俺は香月 乃陰、同じくランクはAだ」
二人は手のひらを見せ、自己紹介をさっくりを済ます。
「えーっと私は、咲真 眠兎、ランクはEです」
眠兎はヘルメットを脱ぎ、素顔を見せる。ユーリのおっさんは固まっていた、間違いなく中身は男だろうと思っていたし、女がパーティにいてランクがEなのは明らかにしまったなと相手は思ったのかもしれない。
「ランクEだったのか…彼らに負けず劣らずの強さを感じていたもので驚いた。もちろん女性っていうのも驚いたが…まさかそれが武具だとは今までわからンかった」
おっさんは乾いた感じの笑いをし、いい笑顔をしていた。
ドアがノックされ、料理が運ばれてきた。私達はとりあえず、飯だということでご飯を食べた。食べながら、護衛のペースや懸念事項など恵那、乃陰とユーリのおっさんが突き詰めて話していた。
眠兎はもぐもぐと出たものを咀嚼し、満足していた。ついさっきまでは恥ずかしさのあまりに叫んでいたのに、食というのは一気に機嫌を良くするものだ。私も食べたいがアーマーなので食べる必要はないため味はわからない。
とっても残念だ!!!