煩悩その005「BOZZ、不倫現場へ行く」
今回は不倫現場へ行ってみました。
仏教・宋櫂宗の住職、大槻雲海は、ピンクの壁紙に、キティちゃんだらけのトイレで目覚めた。
「ここはどこだ」
トイレを出ると、ダイニングがあった。
「ふむ。例によって夢だろう…とは言え…よそ様の家に来てしまうとは」
お洒落な食器が棚に並べられ、テーブルには夫婦茶碗と箸が置かれている。
キッチン近くの電子カレンダーを見る。
2015年1月24日(土)PM2:56とあった。
「ふむ。元の世界の一週間前か。夢とはいえ、家主に見つかり泥棒に思われたら厄介な事になってしまうな」
そう考えた雲海はそっとドアの方へ向かおうとした。
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その時だった。
「どういう事だよ!マリ!なんで俺がいない間に男を連れ込んでんだよ!ふざけんなよ!」
男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ふむ。マリ…さんですか」
雲海は顎に手を充て、考え込む仕草のまま、固まっていた。
「ふぅむ…。マリ…さんですか…」
雲海はそっと声のする方、寝室へ忍び寄っていた。
「ふぅむ……マリ……さん…なんですかね…」
寝室のドアに数cmの隙間があった。
雲海は悩んだ。悩みに悩みぬいた。覗きは仏の意に反するからだった。
「ふむ。私は、まだまだ煩悩を捨てきれていないらしい…とても気になってしまう。なぜだろう。ふむ…」
寝室のドアの隙間を覗こうか、覗くまいか悩んでいた、その時だった。
「あんた、旦那だったらもっとマリを大事にしろよ!俺はマリと本気なんだ!」
別の男の声が聞こえてきた。
「てめぇ!コラ、人の嫁と寝てんじゃねぇぞ!ぶっ殺す」
最初の方の男が言い返した。
「殺す…?殺生はいけません!!!!!」
雲海はドアを大きく開けて、そう言い放った。
そこにいた男女3名。
裸の男。スーツを着た男。
そして…
ベッドでシーツに包まりながら成り行きを見守る女性。
その女性は…雲海も見覚えのある女性だった。
「あ、あなたは…」
雲海は震え声で言った。
≪すまん。手違いで…。今すぐ、戻すからな≫
渦の中から聞こえてくる低い声が、そう言った。
「ケンカはやめて、話し合いをなさり、きちんと旦那様に、謝罪をなさっ…」
雲海は言葉の途中で渦に呑み込まれた。
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雲海は昼寝から目を覚ました。
寝起きにスマホを見る。
2015年1月31日(土)PM3:00とあった。
「ふむ。1時間ほど寝ていたようだ」
その時ちょうど、つけっ放しのテレビではベテラン女優による、不倫騒動の謝罪会見が行われていた。
「ふむ…。先程、お邪魔したお宅は…この方、ベテラン女優の尾田麻里さんのお家でしたね」
雲海は、安堵したように深い溜息をついた。
「はて。なぜ私はこんなにも安心しているのだろう」
まだまだ、精神鍛錬が必要だな。雲海はそう思うのであった。
次回は、歴史的瞬間「本能寺の変」の裏側の目撃者に…?