デジタル・ラヴ
夜はもう深いとこまで来ていた、が、彼女の身なりはきちんと整えられていた。いつも、である。彼女がいい加減な装いでいることはない。服装はそうであるが、髪の毛一本正しい流れを乱すことはなった。彼女の髪は明るい色であった。しかし染めそこねた黄色味という感じはなく、派手さを感じさせない静かなゴールドだった。
私は夜の遅い時間帯にしか彼女に会うことはできない。仕事は終わらない。いつも終えることの終えることのにまま私は眠る。仕事を毎日、明日に託し、そしてまたその日の夜にあえる彼女のことを思い、とにかく勤めるのである。彼女に会うまでの勤務時間は、とても長い。
そして夜、また彼女と彼女と顔を見合わせる。彼女は私の言うことに黙って頷き、口角を少し上げ、目を細めながら微笑むのである。そしていつも物足りなさを感じながら彼女と別れる。眠りに落ちるまで、私はそのひと時を思い返し、ああ、せめてもうちょっとあの時間を、と彼女との時間を振り返るのである。
私は起きて、三度の食事、風呂に入る以外は、パソコンの画面と向き合っている。パソコンがあれば、実はいつでも彼女につながれるのだ。しかし雇われの身として、公私混合は許されないし、私自身も仕事ながらに彼女に会いたくないのである。限られた時間で彼女に会うからこそ、私の思いは彼女に向き続けるのである。
仕事を終え、私は家に着く。料理とは言えないが、なんとなく栄養に気を使って食事を摂り、風呂に入り、そして今に至る。そして会社同様、パソコンの画面を開き、起動時間に苛々させられながら、デスクトップ左上のアプリを開く。私と彼女を繋いでくれる、今流行りのそのアプリの名は「ガールフレンド(極)」。私は当分この優しいデジタルな彼女に世話になろう思う。