第4話:かつての仲間ケローネ
その日の午後、ジムは複製した地図を胸にしっかりと押し当て、民宿を後にした。
保安官の検証が終わり、トムの遺体は簡素な棺に納められ、近所の教会へ運ばれた。ジムは葬儀の準備を後回しにし、まず行動を起こすことを決めた。
シルバーが本物の地図を手に入れた以上、時間は限られている。あの男はすでに船を用意し、宝島へ向かっているかもしれない。
ジムは祖父の過去を思い出し、ある人物のことを思い浮かべた。
—— ケローネ ——
トムが時折、懐かしげに話していた男。
「昔の仲間だ」とは言わなかったが、市場で酒を酌み交わしたり、漁の話をしたりする姿を、ジムは何度か見ていた。
黒い肌の初老の男で、いつも穏やかな笑みを浮かべ、街の外れで小さな酒場を営んでいる。
もしかしたら、トムの過去を知っているかもしれない。助けを求めるなら、あそこしかない。
ジムは街の外れへ急いだ。
夕陽が海を赤く染め、潮の匂いが強くなる頃、ケローネの酒場「黒い錨亭」に着いた。
扉を開けると、煙草の煙とラム酒の甘い香りが漂い、数人の漁師がカウンターで低く笑い合っていた。
奥のカウンターに、ケローネが立っていた。
黒い肌に白髪が混じり始めた髪を短く刈り、広い肩と太い腕は、かつて海の男だったことを物語っている。目が合うと、ケローネはすぐにジムの異様な表情に気づいた。
「ジムか……どうした、顔色が悪いぞ」
ジムはカウンターに近づき、周囲に人が少ないことを確認してから、声を潜めた。
「おじいちゃんが……殺されたんです。
ジョン・シルバーに。地図を奪われて……宝島の地図を」
ケローネの表情が一瞬で硬くなった。
彼は無言でカウンターの扉を開け、ジムを奥の小さな部屋へ連れ込んだ。
扉を閉め、ランプに火を灯すと、ようやく重い口を開いた。
「……トムが、死んだのか。
シルバーの奴か……やはり、奴は諦めていなかったんだな」
ジムは複製地図を取り出し、テーブルに広げた。
「これ、おじいちゃんが昨夜、複製して隠しておいたんです。本物はシルバーに持っていかれました。でも、これがあれば……宝島へ行けます。
おじいちゃんの仇を討つために、いえ、おじいちゃんが望んだ平穏を守るために、僕、行かなくちゃいけないんです」
ケローネは地図をじっと見つめ、長い溜息をついた。
「トムとは、昔からの付き合いだ。俺もあの海賊団の一員だった。
フリントの船で、トム・ゴールドの下で戦った。あの島で『死んだ』と聞いて、俺は信じなかった。
だが、トムは本当に消えた。
俺は海を降り、この街で静かに暮らした。トムが生きてたなんて……知らなかった」
ジムは目を潤ませた。
「ケローネさん……助けてください。
船を、仲間を……シルバーより先に宝島へ行きたいんです」
ケローネはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「協力してやる。トムのためだ。
俺の船は港に停めてある。小さなスループだが、速い。
食料、水、武器……今夜のうちに準備する。
明日の朝、日の出前に出航だ。お前一人じゃ危ない俺も行く
いや、俺の古い仲間を何人か呼ぶ、信頼できる奴らだけだ」
ジムは胸のつかえが少し取れた気がした。
「ありがとうございます……本当に」
ケローネはジムの肩を叩き、厳しい目で言った。
「だがな、ジム。
宝島は呪われた場所だ。金は人を狂わせる。
シルバーは今頃、仲間を集めてるはずだ。俺たちも油断はできん。
地図は絶対に離すな。お前の命より大事だ」
その夜、ケローネは酒場を早めに閉め、港へ向かった。
ジムも手伝い、船「黒い錨号」に食料の樽、火薬、水筒、帆布を積み込んだ。
ケローネの古い仲間――三人の屈強な男たちも集まり、黙々と準備を進めた。
誰も多くを語らず、ただトムの仇討ちと、宝の行方を胸に秘めていた。
夜が更け、星が輝く中、ジムは船の甲板に立ち、海を見つめた。複製地図を握りしめ、祖父の最後の言葉を思い出す。
「燃やせ。俺の過去を、すべて」
だが、今は違う。過去を終わらせるためにも、宝島へ行かねばならない。
明日の朝、帆が風をはらむ——




