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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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蔓延る狂気

厨房の入り口。カイルは重厚な鎧を纏っているわけでもないのに、その背中からは決戦前夜のような悲壮なオーラが漂っていた。その後ろでは、プロデューサー役のテオが、小声で最終指示を出している。


「いい、おじさん? キーワードは『柔らかさ』だよ。殲滅、包囲、突撃……これらは全部、心の中に封印して!」


「……了解した。私は今、言葉という名の白旗を掲げ、無防備な愛の平原を歩む一兵卒だ」


「……その比喩がすでに不穏だけど、もう行くしかないよ! はい、スタート!」


テオに背中を押され、カイルは厨房へと足を踏み入れた。そこでは、クラリスが焼きたてのスコーンを皿に盛り付けていた。


「あら、カイル様。テオちゃんも。今ちょうど、最高に香ばしいおやつが焼き上がったところですわ♪」


クラリスの天使のような微笑み。カイルは一度大きく深呼吸し、シアンに教わった通り、右手を胸に当て、左手を優雅に(本人はそのつもりで)差し出した。


「……クラリス。待たせてしまったな。君が、……君がこの場所で火を灯す姿は……」


カイルの脳内で、シアンの「太陽の如き輝き」と、自分の「戦場での経験」が激しく火花を散らす。


「……まるで、視界不良の泥濘ぬかるみにおいて、突如として放たれた……照明弾の如く、私の絶望を焼き払う……」


(おじさん、例えが眩しすぎるよ!!)

テオが背後で必死に「もっと下げて!」とジェスチャーを送る。カイルは冷や汗を流しながら、必死に語彙を修正した。


「……違う。君の瞳は、……そうだ。地雷の如き……」


「じ、地雷!?」

クラリスが思わずトングを落としそうになる。カイルは止まらない。


「……そう、地雷だ。私が一歩踏み出すたびに、……予期せぬ場所で私の心を爆発させ、……もはや撤退不能なまでに、私の魂を……粉砕する……。この……愛という名の、焦土作戦に……私は、喜んで降伏しよう」


カイルは、やり遂げたという顔で片膝を突いた。

背後でテオが、真っ白な燃え尽き症候群のような顔で壁に手をついている。ルナがいたら、即座に「言語形態の再構築不能」と診断を下していただろう。


沈黙が厨房を支配する。

クラリスは、ポカンとした顔でカイルを見つめていたが……やがて、その頬が真っ赤に染まり、瞳に涙が浮かび始めた。


「……カイル様……! 私……私、そんなに……激しく……! カイル様の心の中に、爆発を起こしていたなんて……!」


「えっ、そっち!? 喜んでるの!?」

テオが思わず声を上げる。


「はい……! 『撤退不能』だなんて、なんて力強い、一生涯の管理(拘束)の誓いでしょう……! カイル様らしい、武骨で……それでいて、とびきり熱い詩ですわ……!」


クラリスは、カイルのゴツゴツした手を両手で包み込んだ。カイルは、自分の「地雷ポエム」がどういう理屈で成功したのか全く理解できていなかったが、彼女の笑顔を見て、静かに頷いた。


「……そうか。ならば、……この戦線(関係)を、生涯死守することを誓おう」


「はい、カイル様……!」


二人の間に、どこか殺伐としていながらも、最高に「まともな純愛」が成立した瞬間だった。

厨房の入り口で、テオは扉をそっ閉じした。


「……ルナの言う通りだ。この国では……いやこの世界では、もはやまともな努力さえも、最後には狂気ハッピーエンドに変換されちゃうんだね……」


遠くで、シアンの奏でる竪琴の音が、祝福のように優しく響いていた。

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