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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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詩人の起源

「……よし。テオ、共に行こう。今の私は、言葉という名の新たな武装を完了した」


「う、うん。おじさん、あくまで『柔らかく』だよ? 殲滅とか包囲とかは絶対禁止だからね!」


鼻息も荒く厨房へと向かうカイルと、それを必死になだめながら付いていくテオ。二人の背中を見送り、嵐が去った後のような静寂がテーブルに戻った。


残されたのは、優雅にハーブティーを啜るシアンと、真っ白な白目からようやく正気に戻ったルナの二人だけだ。


「……シアン。貴方に、はっきりと言っておくわ」


ルナが眼鏡をかけ直し、鋭い視線をシアンに射抜く。


「貴方のその『全肯定』のポエムは、この狂った王都において、時に猛毒……いえ有害よ。テオは感化され、カイル様は言語形態が崩壊した。……お願いだから、これ以上私の大切な人たちの脳をかき乱すのはやめてちょうだい」


ルナの「管理の宣告」に対し、シアンは竪琴を鳴らさなかった。彼はただ、遠くの空に浮かぶ一筋の雲を眺め、穏やかに口を開いた。


「……おや、理性の姫君。君は僕を、平穏を乱す嵐だと思っているのかい? ……けれど、僕にとって詩とは、外側から持ち込む武器ではなく、内側から溢れ出す呼吸そのものなんだ」


シアンの口調が、いつもより少しだけ、装飾を削ぎ落とした静かなトーンに変わる。


「……僕はね、文字通り『詩』の中に生まれたんだ。……僕の故郷は、名前も持たない小さな放浪の民の群れさ。そこではね、赤子の泣き声は『生命の産声という名の序曲』と祝福され、老人の死は『物語の完結という名の静寂』として歌われる。……僕は歩き始める前から、世界のすべてに意味を見出し、肯定する言葉を叩き込まれて生きてきた」


シアンは、自分の細い指先をじっと見つめた。


「空腹の痛みさえも『明日への期待という名のスパイス』だと歌う父がいた。嵐で家が吹き飛んでも『星空を遮る屋根がなくなった幸運』だと踊る母がいた。……僕にとって、世界を肯定しないことは、自分自身の存在を否定することと同じなんだよ」


ルナは、反論しようとして言葉を飲み込んだ。

彼女が分析していたシアンは「周囲を混乱させる愉快犯」だった。しかし、目の前にいる少年は、ただ自分の信じる「自由」と「好きなこと」を、誰に強制されるでもなく、呪いのような純粋さで貫いているだけなのだ。


「……君の言う『管理』という名の秩序も、僕には一つの美しい幾何学の詩に見えるよ、ルナ。……僕は君を変えようとは思わない。ただ、僕は僕として、この世界を最後まで美しく書き留めたいだけなのさ」


「…………」


ルナは、手元の冷めかけたハーブティーを見つめた。

論理的に考えれば、彼は依然として「効率」の敵だ。けれど、自分の好きなものを追い求め、何者にも染まらずに自由に生きるその姿は、この王都のどの信者よりも……そして、ひょっとしたら自分たちよりも「まとも」で「強い」のかもしれない。


「……諦めるわ」


ルナはポツリと零した。


「……貴方を私の計算式に当てはめようとしたのが間違いだった。貴方は、管理されることを拒む風ではなく、そもそも『管理』という概念が存在しない次元で生きている生き物なのね」


「おやおや、それは最高の褒め言葉だね」


シアンが再び、いつものきざったらしい笑みを浮かべて竪琴を弾く。

ルナは呆れたように肩をすくめたが、その瞳からは先ほどまでの刺々しさは消えていた。


「……勝手にしなさい。ただし、テオが変な歌を歌い出したら、その時は私の論理(物理)が貴方を容認しないから」


夕暮れの庭園。二人の間に、不思議な、けれど確かな「和解」の調べが流れていた。

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