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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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奏でる者達

庭園に置かれた白く丸いテーブル。クラリスが淹れてくれた、爽やかな香りのハーブティーが湯気を立てている。


「……では、皆さんが驚くような最高のおやつを用意してきますね」


クラリスが楽しそうに厨房へ戻っていく。その背中を見送り、彼女の姿が見えなくなった瞬間、物陰から「鉄の騎士」カイルが音もなく現れた。


「……シアン君。折り入って頼みがある」


カイルは、かつて王命を拝命した時のような厳粛な面持ちで、シアンの前に立った。


「おや、沈黙の守護者。あなたの瞳に宿るその決意の火……。一体、僕という名の風に何を望むのかな?」


「……その、独特の……奇妙な話し方を、私に教えてほしい。クラリスがあれほど喜ぶのであれば、私も……『実用的』な言葉だけでなく、そのような『装飾された言葉』を身につける必要があると判断した」


カイルの必死の懇願に、シアンは竪琴を一度大きく鳴らし、眩しい笑顔を向けた。


「素晴らしい! 鉄に花を咲かせようというその志、まさに魂の夜明けだね。喜んで、僕という名の調べを君に分け与えよう。詩とは、共有されることで無限に広がる、終わりなきプレリュード(前奏曲)なのだから!」


「…………テオ。……今、あやつは何と言ったのだ? 許可されたのか、それとも断られたのか?」


困惑しきった顔で問いかけるカイルに、隣でティーカップを持っていたテオが苦笑いして答える。


「……『良いってことだよ』、おじさん」


「そうか。恩に着る」

カイルは子供のように素直に、テオの隣の椅子にさっと腰を下ろした。歴戦の英雄が、シアンという「年下の詩人」から教えを乞うという、奇妙な授業が始まったのである。


「さあ、カイル。まずは基本だ。目の前のこの『ハーブティー』を、君の言葉で称えてごらん」


カイルは真剣な顔でカップを見つめ、数秒の沈黙の後、唸るように言葉を絞り出した。


「……この液体は、野戦における休息の如し。……喉を通る際、まるで奇襲部隊が霧の中を突破するように……爽快な……制圧感をもたらす」


「おじさん、物騒だよ!!」

テオが即座にツッコミを入れる。


「……違うよ、カイル。もっと柔らかく! 『草原の吐息が、陶器のゆりかごの中で歌っている』……さあ、リピート・アフター・ミー!」


「……草原の……吐息が……ゆりかごを……包囲し……殲滅せんめつする……?」


「惜しい! 語彙がどうしても焦土と化してしまうね!」


シアンはめげることなく、優しく丁寧に「ポエムの作法」を伝授していく。テオもシアンに感化された口調を織り交ぜながら、一緒になってカイルに手本を見せ始めた。


「見てて、おじさん! 『このお茶の色は、夕暮れに溶ける金色の涙のようだね』……とかさ!」


三人の男たちが、身を乗り出して「愛の表現」について熱弁し合う。

その異様な光景を横で見守っていたルナは、ついに手に持っていたスプーンを皿に置き、眼鏡を外して大きくため息をついた。


「……カイル様、テオ、シアン。……貴方たちの脳内、一度『管理』という名の初期化フォーマットが必要だわ」


ルナは真っ白な白目を剥き、天を仰いだ。

「……戦場とポエムが混ざり合って、もはやただの『高度な言語障害』が発生しているわ。……誰か、私にこの状況を論理的に説明できる安定剤(まともな人)を連れてきてちょうだい……」


夕暮れの庭園に、カイルの「殺伐としたポエム」とテオの「背伸びしたポエム」、そしてシアンの「全肯定ポエム」が混ざり合い、この世のどこにもない奇妙な不協和音が響き渡っていた。

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