表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛は死んで義務(結婚)だけが残ってしまいました。  作者: 愛の果ては静かで冷たい牢獄


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/26

殺意のゲシュタルト崩壊

「聖夫婦」としての名声は、ついに国境を越えた。

私たちの屋敷には、他国の貴族から「愛の秘訣を教えてほしい」「不仲の解消法を伝授して」という相談状が山のように届く始末。


そんなある日の夜会。

アルフォンスに、隣国の公女――「氷の美貌」と名高いカトリーヌが、しなだれかかるように近づいていく。

ニョロニョロは魔力切れでどっかにいって紛失。


「アルフォンス様。あなたのその深い愛、少しだけでも私に分けていただけないかしら?」


壁際でシャンパンを飲んでいた私は、それを見て猛烈な不快感に襲われる。

(あら……? あの女、何をしているのかしら。あんな安っぽい誘惑で、私の――いいえ、「私の獲物」を横取りしようだなんて)


アルフォンスは鼻で笑い、カトリーヌを冷たく突き放そうとしたが、私はそれより早く、二人の間に割って入る。

私はアルフォンスの腕を、いつもより強く、それこそ筋肉が軋むほど抱きしめた。


「ごめんなさい、カトリーヌ公女。この方の『愛(毒)』は致死量に達しておりますの。素人が手を出せば、一晩も持たずに灰になってしまいますわよ?」(こいつを合法的に殺せる権利を持っているのは私だけ。今さら横から掻っ攫おうなんて、一万年早いですわ)


アルフォンスが、驚いたように私を見下ろす。

「おや、エルゼ。……珍しいね。君がそんなに強く私の腕を掴むなんて」


「……ふん。勘違いしないでくださいませ。あなたが他所の女に毒を盛られて、私が犯人だと疑われるのが癪なだけですわ」


すると、アルフォンスの瞳に、見たこともないような「暗い愉悦」の光が宿る。


彼は私の腰をぐいと引き寄せ、私の耳元で、甘く、それでいてゾッとするような低い声で囁やいてくる。


「なるほど。……いいよ、エルゼ。君以外の誰かに殺されるなんて、私も御免だ。私のターゲットを独占したいというのなら、望むところだ」(お前の殺意の矛先が私だけに向けられている間は、私は最高に安全で、最高に特別だというわけだ。……悪くない)


「悪酔いしてる」


その時、周囲の貴族たちが「また始まったわ!」と一斉に扇を広げた。


「見なさい、エルゼ様のあの独占欲! 夫に近づく影さえも許さない、燃えるような嫉妬の炎!」

「アルフォンス様のあの表情……! 妻の嫉妬を愉しみ、受け入れている。これこそが究極の信頼関係……!」


翌朝。

私は鏡を見て絶望。

昨夜の「独占欲の暴走」を思い出し、顔が火照っていた。


(違う。あれは愛なんかじゃない。せっかくここまで育て上げた「最高のターゲット」を、他人に奪われたくなかっただけ。……そうよ、あんな男、私以外の誰にも理解できるはずがないんだから……)


一方、食堂に現れたアルフォンスも、心なしか上機嫌。

彼は私の前に、一本の薔薇を置く。


「エルゼ。昨日、君に腕を掴まれたところが、まだ少し痺れているよ。……心地よい痛みだ」


私は、その薔薇を無言でスープの皿に沈める。


「それは重畳ですわ、アルフォンス様。……いつかその首も、私が同じくらい強く絞めて差し上げますから、覚悟しておきなさいな」


「楽しみだよ、マイ・オンリー・エルゼ」


愛は、死んだはず。

けれど、私たちの間に芽生えたこの「相手の死は私だけのもの」という歪んだ感情は、今や義務(結婚)よりも強固な絆になりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ