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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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エトワールの危機

公務クルーズという名の、狂気を他国へばら撒くカサンドラ夫妻が嵐のように去った翌日。

テオの私室では、いつもなら元気にテオの頬を舐め回しているはずの聖獣エトワールが、まるで巨大な綿埃のように力なく横たわっていた。


「……ねえ、ルナ。エトワールが、今朝から一度も浮かないんだ。大好きなポークソテーの脂身を見せても、尻尾すら動かさない。これって、もしかして……死んじゃうの?」


テオが半べそをかきながら、エトワールの柔らかい腹に顔を埋める。

ルナは冷静を装いつつも、魔導診断機(自作)の手元がわずかに震えていた。


「……バイタルに異常はないけれど、魔力残量が……いえ、逆に『過剰』だわ。魔力回路がパンパンに膨れ上がって、オーバーヒートを起こしている。……テオ、この子、最近何か変な魔力を食べた?」


「変なものなんて……あ。もしかして、聖地化とかいう狂気生産装置のせいで、得体の知れない魔力ばかり吸収したせいかも」


「……それだわ。聖獣は確か……周囲の感情を魔力に変える性質があるけれど、この街の熱狂(狂気)は油べっとりのジャンクフードすぎるのよ。……いわば、重度の『情熱の食べ過ぎ(食あたり)』ね」


原因は分かったが、聖獣の治し方など手持ちの書には載っていない。途方に暮れた二人は、背に腹は代えられないと、ある場所へ向かった。


「陛下、ソフィア様! お願いです、王室の宝物庫にある『聖獣全書』を貸してください!」


テオとルナが必死の形相で飛び込むと、そこには娘夫婦の、カサンドラ夫妻を見送って少し燃え尽きた(賢者タイムのような)顔のエドワードと、優雅に刺繍をしていたソフィアがいた。


「……テオよ、落ち着け。聖獣が動かぬだと? ……もしや、あやつも『不変愛・仮死派』の境地に目覚めたのではないか?」


「違います! 単なる食べ過ぎ……いえ、魔力中毒なんです! このままじゃエトワールが爆発しちゃうかもしれません!」


「まあ、大変。エトワールちゃんは、テオちゃんにとって親友のような存在ですもの。……エドワード、今すぐ宝物庫の鍵を。ついでに、私が若い頃に読んだ『聖獣との精神共鳴シンクロ』の極意も教えてあげるわ」


「良いだろう。……だが、テオ。一つだけ忠告しておく。聖獣の書物には、時に人が知ってはならぬ『神々の深淵』が記されている。……心して読むのだぞ」


エドワードは重々しく頷き、近衛兵の兵士に宝物管理官を呼ぶよう命令し、宝物管理官がテオとルナを案内していく。


そして。

外で二人の近衛兵が警備する中。


テオとルナは隠れ家で解読作業を始めた。

借りてきた古びた書物を、ルナが超高速でページをめくり、テオが内容を必死に書き写す。


「……あったわ!『愛の聖獣が過剰な熱狂を喰らいたる時は、清浄かつ本物の愛で、一点の曇りなき静寂を供せよ。さすれば魔力は激しい鼓動をおさえるであろう』……つまり」


「……『静かな場所で、何もしないでいろ』ってこと?」


「違うよルナ。言葉にもあまり出したくないけど、愛が必要なんだよ」


「分かってるけど、この国じゃあ、私の論理でしょ? それにしても私とテオじゃダメだったのかしら」

ルナがつい本音を零してしまった。


「ルナ……その……恥ずかしいよ」


エトワールが少し光った。効果はあるかもと悟った二人。

二人は顔を見合わせ、この狂った王都で、そんな愛を探すのが一番の難問だと悩んだが……。

しかし、二人にはこのイカれた国で唯一の心当たりが奇跡的にあった。


数時間後。

エトワールを台車に乗せて二人がたどり着いたのは、カイルが一人で管理している、誰もいない古い訓練所の裏手だった。


「……おじさん、少しだけここを貸して。ここなら、誰も『死ね』とか叫ばないから」


「……ああ、構わないよ。ここは今、私とクラリスが花を植えているだけだからな」


カイルが優しく微笑み、クラリスが持ってきた冷たい水でエトワールの額を冷やす。

エルゼとアルフォンスの殺意も、ソフィアの管理、エドワードの仮死も届かない、ただの「優しい静寂」の場所。


すると、エトワールの体からパチパチと紫色の火花(過剰な狂気)が放電され始め、少しずつ、その体が軽やかに浮かび上がった。


「……キュ……キュ……」


エトワールが小さく鳴き、テオの鼻先をペロリと舐める。


「……良かった……。おかえり、エトワール」


テオが泣き笑いしながら抱きつくと、ルナも涙を拭いながら、小さく息を吐いた。


「……記録更新ね。……この国で一番効く薬は、愛の叫びではなく、ただの『静かな愛の日常』だったというわけだわ」


夕暮れの中、聖獣を囲んでお茶を飲む四人の姿は、王都のどこよりも「まとも」で、どこよりも「聖地」に見えるのだった。

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