デッド・オア・ラブ・コースター
ある朝、聖夫婦家の屋敷に国王エドワードからの極めて仰々しい親書が届いた。
そこには、聖地アトラクション第一号『デッド・オア・ラブ・コースター』の完成と、その「真のモデル」である夫妻への試乗招待が記されていた。
「テオ、ルナ! 準備しなさい! 王宮から『家族揃って試乗せよ』とのお達しよ。私たちの殺意がどれだけ安全に(?)具現化されたか、その目で確かめさせてあげるわ!」
エルゼが氷の剣を磨きながら叫ぶと、テオは部屋の隅でエトワールの毛を必死にブラッシングしながら、一瞥もくれずに答えた。
「嫌だよ。……母さん、僕の人生の貴重な数分間を、あんな欠陥遊具で吐き気と恐怖に変えるなんて、時間の無駄以外の何物でもないよ。僕はエトワールのブラッシングで忙しいんだ」
「……同感ね。エルゼ様、あのアトラクションの設計図を再計算したけれど、生存率はサイコロを振るより低かったわ。あんな論理の破綻した乗り物に、私の管理された肉体を預けるつもりはないわ」
ルナも淡々と羽根ペンを走らせたまま、冷淡に言い放つ。
「何よ、その冷めた態度は! 親がせっかく死ぬほど愛し合って(殺し合って)モデルになったというのに!」
「いいじゃないか、エルゼ。放っておきたまえ。……さあ、テオ、ルナ。君たちの冷たい視線に見送られながら、私たちは王命を果たしに行くとしよう。……ああ、絶望的だね。息子たちに拒絶された悲しみを、コースターの上で君の心臓を止めることで癒やすとしよう」
「いいわよ、受けて立つわ、アルフォンス! お前の毒ごとレールから叩き落としてあげる!」
二人はブツブツと子供たちへの文句を垂れ流しながらも、「王命とあらば仕方ない」とばかりに、武装(正装)を整えて屋敷を出ていった。
「……行ったね、ルナ」
「ええ。……嵐が過ぎ去ったわ。テオ、今のうちにあなたの好きな食事を作ってあげるわ。あの二人が帰ってくる頃には、あのアトラクションは瓦礫の山になっているはずだから」
現場では、信者たちが整列し、キレのある「管理体操」や「死体ごっこ」で二人を迎えていた。
【熾烈愛・屠殺派】の狂信者達が二人を熱烈に迎える。
「「「「死ねええええ!!(お二人を心よりお待ちしておりました!!)」」」」
「うるさいわね! どきなさい、今機嫌が悪いのよ!」
信者達を押し退け、中央を堂々と通り抜ける二人。すぐさま道を開く【熾烈愛・屠殺派】の狂信者達。
エルゼとアルフォンスは、殺気を撒き散らしながらコースターに乗り込んだ。
もはやベルトを締めることすらしない。二人は向かい合わせに座り、発車の瞬間から互いの喉元に得物を突き立てている。
「さあ、アルフォンス! この『処刑軌道』が、お前の終着駅よ!」
コースターが猛烈な勢いで急上昇し、頂点に達する。
眼下には王都の街並み。だが、二人の目には互いの殺意しか映っていない。
「死ねえええええ!!」
エルゼが叫びながら氷を放ち、レールがない空中に「凍てつく道」を無理やり作り出す。
コースターがそこに突っ込むと同時に、アルフォンスの毒霧が推進剤となって爆発し、車体は物理法則を完全に無視した軌道で王都の空を駆け抜けた!
「「「「見たか! あれこそが福音! 愛の弾丸だ!!」」」」
地上で信者たちが号泣しながら喝采を送る中、コースターの上では、時速300キロの突風に煽られながら、エルゼの氷とアルフォンスの毒が火花を散らし、文字通り「死の淵」での夫婦喧嘩が繰り広げられていた。
一方その頃、テオの私室では、テオとルナが静かにポークソテーを切り分けていた。
「……ねえ、ルナ。今、外ですごい爆発音がしたけど」
「ただの背景音よ、テオ。……ほら、お肉の焼き加減は完璧よ。……管理(愛)しましょう」




