狂気のテーマパーク
王宮の執務室。そこには、王都の平穏と引き換えに、凄まじい経済効果をもたらしつつある「三大教派」の代表たちが集められていた。
エドワードは冷徹なまでの「賢王」の眼差しで、机に積まれた三通の親書を検分していた。
「……さて。各派の代表諸君。君たちが『聖地建設』の名目で、国家予算に匹敵する寄付金を積み上げてきたことは評価しよう。だが……」
エドワードが、まず一通目の真っ赤な封筒を指先で弾いた。【熾烈愛・屠殺派】の代表が、返り血のような赤いマフラーを巻いて胸を張る。
「代表。この『デッド・オア・ラブ・コースター』……設計図を見る限り、レールの九割が空中を浮遊し、残りの一割はエルゼの氷結とアルフォンスの猛毒が交差する地帯を突き抜けるようになっている。……常識的に考えて、生存率はゼロだ。これのどこに『安全性』があるのか、論理的に説明したまえ」
「王よ、言わずとも、愛とは死の淵で輝くもの! エルゼ様とアルフォンス様の『寸止めの奇跡』を体験できれば、乗客は恐怖のあまり相手を抱きしめずにはいられなくなります!」
「予が問うているのは安全性だぞ?」
「陛下、その心配いりません」
こちらの資料を。
エドワードが分厚い資料を読む。
「王よ。安全性は『愛の精度』によって担保されています。エルゼ様の氷は、コースターが脱線する瞬間にのみ、一ミリの誤差なく『新たなレール』として生成されます。そしてアルフォンス様の毒霧は、空気抵抗を完全に無効化し、乗客の三半規管を『愛の麻痺』で保護するのです。……これは、お二人の殺意が拮抗してこそ成し得る、究極の動的安全管理であります!」
その瞬間、エドワードの瞳から冷徹な光が消えた。代わりに、狂信者のそれと同じ、ドロリとした熱狂が宿る。
「……素晴らしい。……なんという論理的かつ情熱的な安全策だ! 許可しよう」
「まあ、エドワード。安全性が確かなら、素晴らしいものになるでしょうね。でも私はこちら【純愛・福音派】が提案する『管理観覧車』も捨てがたいと思うの。この密室でテオとルナの吐息をサンプリングし、それを酸素供給量にフィードバックする仕組み……。なんて清純で、徹底した健康管理(愛)かしら」
エドワードはソフィアが先に読んでいた二通目の手紙を手に取った。
傍らで見守る王妃ソフィアが、聖母のような微笑みを浮かべ、うっとりと手を合わせた。
「全くだ、ソフィア! 君が望むならば許可しよう」
エドワードの視線が、最後の一通に移る【不変愛・仮死派】の代表は、立ったまま寝ているのかと思うほど静かだった。
「『エターナル・スリープ・ホール』……説明書きに『深さ五十メートルの穴に、便所の神の加護と共に沈む』とある。これはただの不法投棄場ではないか。しかも参加条件が『動かないこと』 営業利益が出るのか?」
「……動かぬことこそ……至高の贅。……神の横で……永遠に死ぬのです……。客は……穴に詰まるほど……来ます……」
「許可しよう」
エドワードは先ほどまでの威厳をどこへやら、各派閥の提案の安全性が確認されるとあっさりと承諾した。
「……不変の……パレード……(仮死)」
「「「「管理して……管理して……我らの提案、管理して……(福音)」」」」
執務室は、かつてないほど「愛殺」の熱狂に包まれた。




