頂上の狂騒
王都の空に突き刺さる『愛の急降下』。
その未完成の鉄骨を、白い法衣をなびかせた【純愛・福音派】のタカ派が、驚異的な執念で駆け上がっていく。
「見よ! この手帳に記された、テオ様がルナ様の髪に触れる際の繊細な角度を! これぞ神が望んだ清純なる愛の図解である!」
「……待ちなさい、この不審者ども! 私の家庭内における『夫への殺傷効率グラフ』を、そんな清らかな声でついでに読み上げられたらたまったもんじゃないわ!」
地上からは、氷の階段を空中に生成しながらエルゼが猛追していた。その後ろからは、アルフォンスが猛毒を塗ったクナイを足場代わりに鉄骨に突き立て、飛ぶような速さで追いすがる。
「死ね、エルゼ! 君が必死になればなるほど、あの日記に書かれた君の『知性の欠落』が真実味を帯びてしまうよ。……だが安心したまえ、その日記ごと、あの信者たちを私の毒で溶かしてあげよう」
「くたばれ、アルフォンス! お前の毒が日記に触れたら、私の貴重な『暗殺回避データ』が滲んで読めなくなるじゃない! 私だけ読んだ後、氷で粉々にするのが筋よ!」
二人の「本気の殺意」が鉄骨を掠めるたび、火花と冷気が散り、建設中の塔が悲鳴を上げる。
一方、塔の麓は、まるで巨大な遺体安置所のようになっていた。【不変愛・仮死派】の信者たちが、便所の神の像を囲むようにして、建設現場の入り口に隙間なく横たわっているのだ。
「……ああ、上が騒がしい。これぞ愛の波動……。我々はただ、二人の殺意の瓦礫が降り注ぐのを待つのみ……。動かず、語らず、ただ『仮死』という名の永遠に浸るのだ……」
彼らは、頭上からエルゼの氷の破片が降ってきても、「冷たい……これぞ愛の洗礼……」と呟きながら、一ミリも動こうとしない。彼らにとって、この混乱すらも「不変の愛」のスパイスに過ぎないのだ。
「……ねえ、ルナ。僕たち、本当にあそこに行くの? 下は死体ごっこ(仮死派)で埋まってるし、上は殺意(両親)と狂信(福音派)で飽和状態だよ」
テオがエトワールの背中で顔を青くしていると、ルナは冷徹な手つきで、予備の黒革手帳に「三大教派の衝突による建築資材の摩耗率」を書き込んでいた。
「当然よ、テオ。あの日記の128ページには、貴方の『寝言の周波数解析』が載っているの。あんな国家機密が福音派の手に渡ったら、明日から貴方の寝言が王都中の教会のチャイムに採用されるわ。……そんなの、私の管理責任に関わるわ」
「……ルナ。君、やっぱり僕の両親より怖いよ」
「褒め言葉として受け取っておくわ。さあ、エトワール、全速力で。……福音派の連中が日記を読み上げる前に、あいつらの鼓膜を物理的に封鎖するわよ」
エトワールが勇ましく一鳴きし、黄金のアルカナを纏って、建設途中の螺旋階段を駆け上がる。
最上階では、タカ派の信者がついに日記の「核心」を開こうとしていた。
「おお……ここだ! 『テオ様の微笑みに対する、ルナの心拍上昇の相関図』! これこそが福音――」
「死ねえええええ!!(返せこの泥棒!!)」
「くたばれええええ!!(そのデータは私が独占する。邪魔するな!!)」
エルゼの極大氷結弾と、アルフォンスの致死毒霧が、同時に頂上付近で着弾する――!




