眼差しの先にチキン
黄金の伝達コアがエトワールの抜け毛一本で稼働し始めたことで、王宮の専門家たちは一様に打ちひしがれていた。自分たちの生涯をかけた研究が、聖獣の「ゴミ」にも劣ると証明されたのだから。
「エルゼ、理屈がわかれば話は早い。要はこの装置を動かすのに必要なのは、聖獣という名の『天然資源』だということだ。さあ、エトワール。崇高な犠牲を捧げたまえ」
アルフォンスは冷酷な美学を宿した目で、エトワールにバリカンを近づけた。陛下たちが公務で不在なのをいいことに、彼は聖獣を「燃料タンク」として完全に私物化しようとしていたのだ。
「やめろよ、父さん! エトワールが嫌がってるだろ!」
テオが必死に叫ぶが、アルフォンスは止まらない。バリカンの刃がエトワールの白い毛に触れた、その瞬間だった。
ガアアアアアアアアアア!!
黄金のコアから溢れ出ていたアルカナの光が、一瞬にしてエトワールへと収束し、そこから爆発的な波動が放たれた。波動はバリカンを握っていたアルフォンスを直撃する。
「ぐっ……! なんだ、この……っ、コケコッコーッ!?」
アルフォンスの身体がみるみる縮み、顔は嘴のように尖り、手足は羽毛に覆われた。数秒後、そこに立っていたのは、凶悪な目をした一羽の巨大なニワトリだった。
「コケコッコーッ!!(訳:エトワール貴様! 私をこんな家畜の姿に変えるとは、万死に値するぞ!)」
ニワトリになったアルフォンスが、足元のバリカンを激しく突つきながら鳴き叫ぶ。声は鶏鳴だが、その中にはかつての毒舌と寸分違わぬ苛立ちが宿っていた。
「……あら。まあ、なんて」
私は数秒の絶句の後、腹の底から湧き上がる愉悦を抑えきれず、扇子で口元を覆った。
「アルフォンス、お前、ニワトリになっても相変わらず最高に醜いじゃない。私の氷結魔法で、永遠にその姿を『フリーズ・チキン』として固定してあげたいわ」
「コケッ!?(訳:エルゼ、この状況でよくもそんな薄情なことが言えるな!)」
テオは、自分をかばって力を発揮したエトワールと、足元で砂を蹴散らす「かつて父親だった鳥」を見て、深い、深いため息をついた。
「……ねえ、ルナ。僕、もうこの国でまともな会話ができる人間は誰もいないと思うんだ。父さんはニワトリになって、母さんはそれを料理の素材みたいに見てる。……エトワール、君、もっと早く使ってくれても良かったんだぞ」
ルナは、冷めた目でニワトリを一瞥し、テオの肩を叩いた。
「……テオ。諦めなさい。貴方のお父様は、もう二度と人間には戻れないわ。……あのニワトリ、きっと今日も明日も、貴方のお母様に『新鮮な卵を出せ』と罵倒されるだけよ」
エトワールは誇らしげに胸を張り、ニワトリを哀れむように一鳴きした。
神の技術のコアが抜け毛で動き出し、その聖獣が神罰を下す。エドワード陛下たちが公務から戻ったとき、この光景をどう解釈するか――。
私はニワトリの首筋を氷の指先でなぞりながら、かつてないほど「愛」に満ちた(歪んだ)微笑みを浮かべた。




