薄さは隠しきれない知性の証拠
王宮魔術師、錬金術師、そして超古代技師。この国の最高知性が黄金のコアを囲み、絶望の淵に立たされていた。
「ありえん……。太陽光を凝縮した魔力も、火竜の血も、お二人の凄まじい殺意すらも、この装置は『質の低い雑音』として切り捨てている……。ドワーフの『アルカナ魔法』……失われた超越エネルギーの正体が分からぬ限り、この塔はただの巨大な鉄の墓標だ!」
筆頭魔術師が髪を掻きむしり、地面に描かれた魔法陣の上に泣き崩れる。その横で、私はアルフォンスと並んで、動かぬ黄金の歯車を冷ややかに見下ろしていた。
「見てちょうだい。あの賢者たちの無様な姿。お前の致死性の魔力も、私の絶対零度も、この機械にとっては『おやつ』にもならないみたいね」
「同感だね、エルゼ。……だが、皮肉なものだ。神々の技術とは、私たちがどれだけ情熱(殺意)を注いでも届かない、冷徹な理の上に成り立っているらしい。……君の愛が足りないせいで、陛下の玩具が動かないじゃないか」
私たちがいつものように罵り合っていた、その時だった。
馬車の影でこの茶番を眺めていたテオが、退屈そうにエトワールの背中を撫でていた。エトワールは季節の変わり目なのか、少しばかり毛が抜ける時期だったらしい。テオが指先に絡まった一本の白い抜け毛を、面倒くさそうに「ふっ」と息で飛ばした。
その、ただの「ゴミ」のような一本の毛が、風に乗って、あろうことか黄金のコアの隙間に吸い込まれた。
――その瞬間だった。
ゴオオオオオオオオンッ!!
王都全体が震えるような、深く重厚な鐘の音が響き渡った。
あんなに頑固だった黄金の歯車が、目にも止まらぬ速さで回転を始め、コアの内部から、既存の魔力とは一線を画す「神々しいまでの黄金の光」が溢れ出したのだ。
「……?」
私は扇子を落としそうになった。
アルフォンスの口角も、初めて驚愕で引き攣っている。
泣き崩れていた魔術師たちは、腰を抜かしてその光景を仰ぎ見た。
「……起動……した? 今、何が起きた? 超高純度のエーテルか? それとも失われた呪文か!?」
駆け寄る魔術師たちの前で、装置はエトワールの抜け毛一本に含まれる、高密度の「聖獣のアルカナ」を貪り食うように輝きを増していく。
(……ねえ、今、あの子の『抜け毛』一本で、神の機械が動き出したわよ。私たちのこれまでの殺意の応酬は、この一本の毛以下の価値だったってこと?)
(……認めがたいが、どうやらそのようだよ。ドワーフの技術が求めていたのは、私たちの『重すぎる歪んだ愛』ではなく、聖獣という名の天然資源だったわけだ。……これは、私にとっても今日一番の屈辱だ)
エドワード陛下が、狂喜乱舞しながら叫ぶ。
「おおお! 見よ! これぞ奇跡! テオが聖獣に注いだ愛の証、その一欠片が、天界の門を開いたのだ! エトワールこそが、我が聖地の真のガソリンだったのだ!!」
「ええ、エドワード。テオとエトワールの絆こそが、世界を加速させるアルカナだったのですね……!」
一方、テオは。
自分の指先にまだ残っている抜け毛と、黄金に輝くコアを交互に見て、これまでで一番深い絶望に顔を歪めていた。
「……ねえ、ルナ。……これ、最悪だよ。僕がエトワールをブラッシングするだけで、この国のアトラクションが全部動いちゃうってことだよね? ……エトワール、君、今日からただの『燃料タンク』だってさ」
ルナは、黄金の光を冷めた目で見つめながら、テオの肩を叩いた。
「……テオ。諦めなさい。貴方の両親の『殺意』が無視されて、ただの『抜け毛』が選ばれた。……この不条理こそが、貴方の家系の『呪い』なのよ」
エトワールが、主人の指先を悲しそうにひと舐めした。
聖地化の要である『エターナル・ドロップ』が、まさかの「ブラッシング」によって産声を上げた瞬間であった。




