〜愛殺教・大分裂〜 カオスの極地へ
テオとルナが地面に寝転んだあの日を境に、愛殺教は「一神教」から、無数の解釈が飛び交う「多神教的カオス」へと変貌を遂げた。
王都の至る所で、信者たちが独自の「死体ごっこ」を教義に掲げ、新興勢力を立ち上げ始めたのだ。
「ちょっと、アルフォンス! あそこの路地裏を見てちょうだい。『氷結石像派』を名乗る連中が、全裸にペンキを塗って、私の冷気魔法で固められたフリをしながら微動だにせず立っているわ。景観を害するにも程があるわよ!」
私は、芸術作品を気取って固まっている信者たちに、生成した氷の礫を投げつけたい衝動を抑え、扇子をバチンと閉じた。
「あっちの『毒霧呼吸派』はもっと最悪よ! あなたの毒薬を『聖なる煙』だと言い張って、紫色の煙を吸い込んでは白目を剥いて倒れ込むのが『究極の法悦』なんですって。街中がヤバい薬の実験場みたいになっているじゃない!」
「同感だね、エルゼ。だが、向こうの『罵倒清貧派』の連中よりはマシかもしれない。彼らは君の『ゴミ』という言葉を聖なるお告げと捉え、お互いを『不燃ゴミ』『粗大ゴミ』と罵り合いながら、一日中街の掃除をしているよ。……掃除が捗るのはいいが、罵声がうるさくて耳が腐りそうだ」
そんな地獄のような多様性の中、テオとルナはエトワールの背中をクッションにして、完全に「虚無」の境地に達していた。
「……ねえ、ルナ。僕たちがちょっと地面の冷たさを楽しんだだけで、なんで『沈黙寝転派』なんていう、ニート予備軍みたいな派閥が爆誕しちゃうのかな。……あの人たち、僕に『聖なる寝返りを見せてください』って拝んでくるんだよ」
ルナは、隣で熱心に「テオ様流・脱力」を極めようと脱力しすぎてヨダレを垂らしている信者を見つめ、いつものゴミを見るような瞳で呟いた。
「……テオ。あの人たち、もう手遅れよ。貴方の両親が『歩く災害』なら、この分派は『二次被害の連鎖』だわ。……でも、見て。あっちの『罵倒清貧派』のおかげで、王宮の裏のドブ川が、貴方の両親の心臓よりは綺麗になったみたいよ」
「……あ、本当だ。……お互いを『この汚物溜まりが!』と罵りながら、笑顔でドブさらいしてる。……もう、愛ってなんなんだろうね。エトワール、君も何とか言ってよ」
エトワールが、これまでで最も深いため息をつきながら、自分を拝もうとする信者の手を前足で優しく(しかし冷酷に)払いのけた。




