死体ごっこ
私とアルフォンスの「死の偽装合戦」がなぜかバレた結果、この国の狂気はまたしても斜め上の方向へ進化した。
大人が街中で「仮死の修練」と称して倒れ込む一方で、子供たちの間ではより無邪気で、より質の悪い『死体ごっこ』が爆発的に流行していたのだ。
「ちょっと、アルフォンス。あそこの路地裏を見てちょうだい。子供たちが一列に並んで、目を見開いたままピクリとも動かずに地面に転がっているわ。……何なの、あの不気味な光景は。新手の集団食中毒かしら?」
私は、王宮のバルコニーから、まるで彫像のように動かない子供たちの山を見下ろし、顔をしかめた。
「あの子たち、私たちのあの壮絶な殺し合いを『動いたら負けのゲーム』だと思っているのよ。この国の未来が、死体の山で埋め尽くされていくわ」
「同感だね、エルゼ。だが、騒々しく愛を叫ぶよりは、沈黙して地面と一体化している方が、幾分か知性的と言えるかもしれない。……まあ、あの中に君が本当に死んで入ってくれれば最高なんだが」
アルフォンスは、冷徹な視線でその「死体ごっこ」の列を眺めながら、不吉な笑みを漏らした。
一方、その「死体ごっこ」に最も困惑しているのが、テオと、彼の「ゴミを見る目」を持つ友人――ルナだった。
「……ねえ、テオ。貴方の両親のせいで、私の弟までが『僕は今、エルゼ様の冷気に凍らされた聖遺物になっているんだ』とか言って、朝から一歩も動かないんだけど。……本当に、はた迷惑な家族ね」
ルナは、いつものようにゴミを見るような、冷たく澄んだ瞳でテオを射抜いた。
「……ルナ、謝っても謝りきれないよ。父も母も、自分たちがどれだけ子供の教育に悪いか、自覚なんて微塵もないんだ。……あんなの、ただの性格の悪い騙し合いなのに」
テオは溜息をつき、エトワールを小脇に抱えたまま、横たわる子供たちの横で途方に暮れた。
街は、死んだふりをする大人と、動かない子供で溢れている。
あまりの非日常。そして、あまりの静寂。
「……ねえ、ルナ。なんだか、立っているのが馬鹿らしくなってこない? 街中がこうも静かだと……」
テオはふと思いつき、エトワールをクッション代わりに、子供たちの列の端に「どさっ」と寝転んだ。
それを見たルナも、一瞬呆れた顔をしたが、スカートの汚れも気にせず、テオの隣にそっと横たわった。
「……死ね、テオ。……なんてね。貴方に毒づくのすら、少し飽きてきたわ」
テオは、流れる雲を見上げながら、ポツリと独り言をこぼした。
「……案外、楽しいじゃん。こうして黙って寝転んでると、あのうるさい父と母の声も聞こえないし、この狂った世界が、少しだけマシに見えるよ」
そのテオの「毒」の混じった素直な言葉に、ルナは微かに口角を上げた。
「……貴方にしては、悪くない意見ね。……まあ、少しだけ見直してあげてもいいわよ。その『気持ち悪さ』が、少しだけ和らいだから」
隣でエトワールが、平和な寝息を立て始めた。
遠くでエルゼとアルフォンスが「死ね!」「くたばれ!」と叫んでいる声が風に乗って聞こえてくるが、この木陰の「死体ごっこ」だけは、奇妙なほどに穏やかだった。




