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【連載完結】ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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愛殺教の宗教改革(分派の誕生)

テオの告白が成功し、二人が手を繋いで歩き出したあの日を境に、この「愛の聖地」の空気感は奇妙な変質を遂げていた。

かつては「殺意こそ愛」と叫んでいた信者たちの間に、テオの「不器用な純心」を福音として崇める一団が現れたのだ。


「ちょっと、アルフォンス。あそこの掲示板を見てちょうだい。私たちの激闘録を記した聖典の横に、『テオ様と少女の噴水前での誓い』が新約聖書のように並べられているわよ。しかも、あの子たちが食べたパンの欠片が『聖なる遺物』として取引されているなんて、正気の沙汰じゃないわ」


私は、テオの恋が招いた予想外の「浄化作用」に、苛立ちを隠せず扇子を噛み締めた。


「死ね、アルフォンス。あんたの冷徹な殺人術を模倣していた『武闘派』の信者たちが、あの子の純愛に感化されて、今日からナイフを捨てて花の冠を編む修行を始めるんですって。私たちのブランドイメージが、どんどんパステルカラーに染まっていくじゃない」


「……全くだね、エルゼ。愛殺教における『刺突』の意味が、いつの間にか『意中の相手の心を射抜く』という、吐き気のするような甘ったるい比喩に書き換えられている。……君の凶暴さが生んだこの宗教が、今や乙女たちの恋の相談所に成り下がろうとしている。これ以上の屈辱があるか?」


アルフォンスは、新しく発行された『愛殺教・プロテスタント(純愛派)』のパンフレットを、指先で器用に切り刻んだ。


かつての過激な教義を重んじる「カトリック(原教旨主義:殺意派)」

そしてテオの姿に感銘を受けた「プロテスタント(純愛改革派)」

同じ「愛殺教」の名の下に、二つの派閥が王都で静かな、しかし激しい宗教論争を始めてしまった。


「……様をつけなくていいと仰った陛下たちの言葉も、『エルゼとアルフォンスの息子さえも、一人の人間として苦悩された』という聖母ソフィアの教えとして広まっているわ。……あの子のただの反抗期が、なんで『人類への寄り添い』になるのよ」


「……皮肉なものだね。私が君の首筋にナイフを当てれば、原教旨主義者は『これぞ献身!』と叫び、改革派は『その刃の冷たさは、抱きしめられない切なさの表現……!』と涙を流す。……もはや何をしても、彼らのフィルターを通れば『愛』に変換されてしまうわけだ」


その時、ガーデンの向こうから、エドワード陛下が誇らしげに歩み寄ってきた。彼の瞳には、二つの派閥が共存するこの国の未来への、確固たる自信が宿っている。


「エルゼ、アルフォンス! 見よ、我が国の精神性はさらなる高みへ到達した。君たちの『熾烈な愛』が父となり、テオの『純粋な愛』が子となり、それを包み込むソフィアの慈愛が精霊となった。今やこの国は、あらゆる愛を包括する、完全なる聖域へと進化したのだ!」


「ええ、エドワード。派閥争いさえも、愛の多面性を証明する美しい旋律ですわ」


(……死ね、アルフォンス。陛下たちがついに『三位一体』なんて言い始めたわよ。お前が『父』なんて、どんなホラーよ)


(お前こそ。お前みたいな物騒な女神がいてたまるか。……だがテオ、よく見ておくんだね。君のあの小さな正気が、今や巨大な宗教的エネルギーへと変換され、この国の狂気をさらに強固なものにしている。君が望んだ『静かな真実』は、今やこの国の巨大なエンジンの一部だよ)


テオは、遠くで少女と手を繋ぎながら、新しい教派の誕生を告げる教会の鐘を、これまでで最も冷めた目で見つめていた。


(……なんで。ただ『好きだ』と言っただけで、歴史に残るような宗教分裂が起きているんだ。父も母も陛下(やっぱり毒されてしまった……)も、もう一生放っておいてほしい。……僕たち、もうどこか遠い島にでも逃げない?)


エトワールの情けない鳴き声が、また一つ増えた教義の中に飲み込まれていった。

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