愛の毒味
「聖夫婦」として表彰されてしまった夜。私たちは疲れ果て、寝室で向かい合っていた。
もはや、ただの嫌がらせでは周囲の「愛のフィルター」を突破できない。
「エルゼ……もう認めよう。我々が何をしても、世間はそれを『愛』だと解釈する。呪いのブローチは守護になり、暗殺の試みは情熱的な抱擁になる。見ろこいつ。まだ動いてるんだぞ」
「ホントだ。ニョロニョロしてる」
「着替えた瞬間、もう新しい服に引っ付いてくるんだ」
アルフォンスが、諦めたようにワインを注ぐ。
「ええ、そうですわね。私があなたの寝室に仕掛けた『踏むと矢が飛び出す床』も、昨日『愛のステップを刻むためのダンスフロア』として貴族年報に載りましたもの」
「……ならば、いっそ本気でやるしかない。エルゼ、これは私が用意した最高級の、そして即死性の毒が入ったデザートだ」
彼は銀の匙を私に向けました。
「君がこれを食べ、私がその後に続く。これで『義務』からの解放だ。心中として語り継がれるだろうが、死ねば関係ない」
私はそのスプーンを奪い取り、彼の口にねじ込む。
「お先にどうぞ、アルフォンス様。あなたの死顔を見届けてから、私は優雅に後を追う(フリをする)わ」
二人は必死で、毒入りのムースを奪い合い、互いの口に詰め込み合う。
「死ね!アルフォンス」
「お前が死ね!」
「愛しているわ♡(地獄へ落ちろ)!」
……しかし、一時間経っても、私たちは死なない。
「……おかしい。なぜだ、エルゼ。心臓が止まるどころか、なんだか肌のツヤが良くなってきた気がするんだが」
「……私もですわ。肩こりが消えて、視界がクリアに……」
実は、私たちが雇っていたお抱えの毒薬師や料理人たちは、すでに「熱狂的な聖夫婦ファン」になっていた。
彼らは私たちが「毒を」と注文するたびに、「照れ隠しで健康になりたいのね!」と忖度し、中身を最高級のビタミン剤や美容成分にすり替えていたよう。
翌朝、鏡を見た私たちは、驚くほど健康で、発光するような美貌を手に入れていた。
その日の噂話。
「見なさい、昨夜の公爵夫妻の睦み合いを。あまりの情熱に、お二人とも若返って、神々しいまでのオーラを放っていらっしゃるわ……!」




