古代のオーパーツ
「……それで、エドワード? 観光の目玉となるアトラクションについてだけど、商工国の模造品を作るつもり? だとしたら少し……」
私は、エドワード陛下とソフィア王妃の相談話を側で聞きながら、極上の淑女として優雅に扇子を広げた。
「かつて私とエルゼが、愛の巡礼(あなたに強制的に押し付けられ、相手を崖から突き落とす隙を伺う旅のようなもの)で訪れた各地の聖地。そこで枢機卿閣下にお認めいただいた功績により、私共は一つの『聖遺物』を預かっております」
アルフォンスは恭しく、古びた、しかし異様な魔力を放つ羊皮紙をテーブルに広げた。
「これは、失われたドワーフの技術によって記された、伝説の昇降機の設計図です。かつて神々が天界から地上へ降り立つ際に用いたとされる、重力を無視した加速と静止の記録……。商工国が金に飽かせて作った鋼鉄の玩具などとは、次元が違います」
(死ね!アルフォンス。その自慢げに広げてる設計図、巡礼先の地下遺跡であなたが私を突き落とそうとして床をぶち抜いた時に見つけたものじゃない。それを『枢機卿からの贈り物』だなんて、よくもまあ吐露できたものね。……でもいいわ、この設計図の凄まじいオーバーパワーなら、その冷徹な顔も物理的に引きちぎれるはずよ)
「……左様でございます。この設計図を元に建設される『愛の急降下』は、乗る者に『死と生の境界』を強制的に体験させる、正に聖地の象徴となる事でしょう」
アルフォンスは、冷徹な理性を保ったまま、私の殺意を「高潔な情熱」へと翻訳してエドワードに告げ続けている。(もはや君が何を考えているかなんて、視線一つで分かる。しかしその野蛮な発想には恐れ入るよ。確かにドワーフの重力制御技術なら、君を音速で地面に叩きつけることも可能だろうね。商工国の模倣など、私にとっても退屈の極みだ。どうせやるなら、君という『厄災』を封じ込めるに相応しい、神話級の檻を作らせてもらうよ)
「おお……! 失われたドワーフの設計図。なんと素晴らしい事か! 流石は愛殺教の象徴たる二人だ。枢機卿をも容易く…。君たちの絆に未来を託したのだな!」
エドワードは立ち上がり、感動に震える手で設計図を指なぞっていく。
「愛とは、重力に抗い、時に墜落する恐怖を共有してこそ完成するもの。ソフィア、見よ。この設計図に基づき建設される巨大な塔は、我が国を大陸一の聖地へと押し上げる『愛の楔』となるだろう!」
「ええ、エドワード……。エルゼたちの歩んできた軌跡が、こうして形になるなんて。本当に、夢のようでございますわ」
ソフィアの純粋な称賛を受けながら、私たちは互いの瞳の奥に「相手を確実にこの装置で始末する」という冷たい確信を刻み合っていた。
商工国メルカトルを超える技術。そして本物の『聖地』の建設。
それは、ドワーフの超技術に私たちの殺意を注ぎ込んだ、世界一贅沢で、世界一物騒な「処刑台」建設の幕開けであった。




