至高の香り
エドワード陛下が「聖地化」という壮大な狂気を語り終えるのを待って、アルフォンスが淀みのない動作で懐から一対の小瓶を取り出した。
「エドワード陛下。ソフィア王妃。聖地化の立案、実に見事でございます。その記念すべき門出に相応しいものを、商工国メルカトルより持ち帰りました。オリンピアでのペアダンス大会にて、私共が賜った優勝の栄誉……その祝辞としてムッシュ・ヴァルティより斡旋された、至高の香りでございます」
差し出されたのは、商工国においても並の貴族や富豪では数年待ちは当たり前、今や皇帝が買い占めて王族ですら入手困難とさえ囁かれ始めている、超一流ブランド『ラ・モー・デトネル(永遠の死)』の香水。
「まあ! これは『ラ・モー・デトネル』ではありませんか! 皇帝陛下が独占していると聞いて、半分諦めておりましたのに……。流石はエルゼ、アルフォンス。お二人の愛の深さが、奇跡を呼び寄せたのですね」
ソフィアが、少女のように頬を染めて歓喜の声を上げる。エドワードもまた、その稀少な小瓶を愛おしげに見つめ、満足げに頷いた。
「見事だ。君たちの優勝の報は、既に我が国の誇りとなっている。そしてこの『永遠の死』を贈り物に選ぶそのセンス……。生を謳歌する場に、敢えて死の美学を添える。これこそが予たちの目指すべき聖地の香りではないか」
私は、感極まる王妃様にアルカイックスマイルを向けながら、心の中で隣の男を呪った。(死ね!アルフォンス。さも自分の手柄のように差し出しているけれど、これは、私がメルカトルのサロンで『お前の死臭を上書きするのに丁度いいわ』って言って大量に買い込んだストックの一個じゃない。それを王室への献上品にすり替えるなんて、相変わらず手癖の悪い汚らしい男ね)
「滅相もございません、エドワード陛下。ソフィア王妃に相応しい香りを探し求めたのは、こちらの……私の妻でございますから。彼女の執念とも言える情熱が、この香りを引き寄せたのです」
アルフォンスが私に柔らかな(冷徹な)視線を送ってくる。(お前、あんな劇薬同然の濃度の香水を『大量に買い込んだ』と言わなくて正解だよ。陛下たちが喜んでいるのは、その希少価値であって、お前の暴力的な購買欲ではないからね。……まあ、お前の脳を麻痺させるには、これくらいの『毒』が必要なのは同意するが)
こうして、商工国の最先端を知る私たちの「お土産」は、エドワード陛下の歪んだ聖地化計画に、図らずも本物の『格』と、さらなる確信を与えてしまった。




