愛の鉄拳
社交界での私たちの評価は、もはや「仲良し」を通り越し、「一秒たりとも離れられない運命の二人」へと進化。
こうなると、公務の誘いも「二人セット」が当たり前。今日は、国内最大の聖堂で行われる「夫婦の絆を深める祈祷式」に呼び出される。
「さあ、見せてください。お二人の揺るぎない絆を!」
老司教の合図で、私たちは高さ10メートルの「試練の塔」の頂上で、お互いの腰に一本の鎖(聖なる絆の鎖)を繋がれた状態で立つ。
(死ね、アルフォンス。この高さからあなたが足を踏み外せば、私は『悲しみのあまり鎖を切り離せなかった未亡人』として同情を引けるわ)
私は、彼の足元にこっそり、ドレスの裾で隠しながら「滑りやすい高級油」をぶちまける。
しかし、アルフォンスもさるもの。彼は私がバランスを崩すように、私のヒールを密かに自分の靴で踏みつけていた。
「……おっと、エルゼ。風が強いね、しっかり私に掴まっていなさい」(道連れだ、絶対に離さないからな)
アルフォンスが私の腰を強く抱き寄せる。
「まあ、アルフォンス様。あなたこそ、私の腕の中で震えていらっしゃるわ。可愛い人」(油で滑って転んでしまえ、この金髪モヤシ野郎。私は1人だけ助かる)
その時、突風が吹く。
油で足を滑らせたアルフォンスと、靴を踏まれていた私が同時にバランスを崩し、私たちは縺れ合うようにして塔の縁から投げ出された。
「「(馬鹿な事して、終わった……!!)」」
しかし、私たちの体は落ちなかった。
腰に繋がれた「絆の鎖」が絶妙なテンションで塔の柱に絡まり、私たちは宙吊りのまま、まるで空中で熱烈な抱擁を交わしているようなポーズで静止。
下で見守っていた貴族たちが、一斉にスタンディングオベーションを始める。
「見たか! 落ちる瞬間ですら、お互いを離さず抱きしめ合った!」
「あのアクロバティックな愛の形! あれこそが現代の『重力に抗う愛』だ!」
司教は涙を流し、「奇跡だ……!」と叫びながら、私たちに「聖夫婦」の称号を授与してしまいました。




