愛の迷宮
無用な混乱は外交問題、引いては面倒事の磁石。私達はムッシュ・ヴァルティの贈ってくれた香水を愛用とし、あれは極限まで薄めて時々、使うことに。
香水騒動から一夜明け、ピーーー並みに貸し切りフロアを散らかしていた。退屈の化身になっていたテオと、すっかりこの国の「負の感情(殺意)」を吸って毛艶が良くなったエトワールと気晴らしに出かけることに。
テオの行きたいところへ……。
「……『愛の絆迷宮』? 何ですの、その胸焼けのしそうな名称は」
「……ねえ、この施設のパンフレット、『愛の力で不可能を可能に!』なんて書いてあるけど。……2人がまた騒動を起こして変なことにならないといいけど」
テオが呆れたように呟く中、私たちは迷宮の入り口へと立つ。
「心配いりませんわ、テオ。私たちは、ただ『最短ルート』を選択するだけですもの」
「そうだ。無駄な歩数は、暗殺の成功率を下げるからな」
私たちは、入り口の係員が「なんて情熱的な一家……!」と涙ながらに見送る中、迷宮の奥深くへと足を踏み入れていく。
本来、この迷宮は「二人で息を合わせてレバーを引く」「愛の言葉を叫んで扉を開ける」といった、協力(強制)イベントが満載の場所、らしい。(テオ情報) しかし、私たちの前では、それらはすべて「脆弱な構造上の欠陥」に過ぎない。
「……アルフォンス、次の仕掛けは『二人の思い出の数だけボタンを押せ』だそうですわ。……そもそも、私たちにボタンを悠長に押すような甘い思い出なんてありましたかしら?」
「皆無だな。……テオ、エトワール、離れていろ」
アルフォンスはそう言うや否や、壁の隙間に隠された「非常用メンテナンス回路」の魔力反応を察知し、迷わずそこに鋭利な魔力針を突き刺した。物理的に扉のロックを焼き切るその手際は、愛の絆を深める行為というより、もはや金庫破りのそれだった。
「……思い出など数えるより、魔力回路の短絡を狙う方が早い。……次だ」
一方、私は「愛の告白で開く」とされる感応式の石扉の前に立つ。
「『愛を叫べ』……? くだらないわ。この扉、魔力伝導率の低い石材を使っていますわね。一点に高密度の衝撃を与えれば、音叉のように砕けますわ」
私が扇を閉じ、殺意を込めて扉の急所を突いた瞬間。
ゴォォォォン!!
という、愛の告白とは程遠い破壊音が迷宮に響き渡り、石扉は粉々に粉砕された。
「……ねえ2人とも。後ろから、汚物を見るような目で見てくる人が集まってきてるんだけど」
「構うな、テオ。前進あるのみだ」
私たちは、カップルたちが数時間かけて絆を深めるはずの迷路を、わずか数分で「物理破壊」しながら突き進んだ。
エトワールが、壊れた残骸の中から「愛の記念品(宝石)」を見つけては、おやつを食べるようにバリバリと魔力を吸収し、迷宮の機能の一部を次から次へと停止させていく。
出口に辿り着いた私たちを待っていたのは、またしても「誤解」という名の熱狂だった。
「信じられない……! 仕掛けを解くどころか、迷宮という名の『運命』そのものを屈服させて出口をこじ開けたわ! これこそが、障害をすべてなぎ倒して進む『覇道的愛』の真髄よ!!」
「でも結構、こういうのを見るのが一番退屈しのぎになるんだよね〜」
「にゃあ〜」




