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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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競売という名の戦場

翌日。まだまだ、オリンピアの種目は続いている様子。


私達はせっかくの観光と釘打ち、遊び歩く事に。そして、とある場所へ向かった。


メルカトル商業公国が誇る最大の競売場「ゴールデン・ロブスター」

そこは、富豪たちの虚栄心で溢れている富豪と貴族の主戦場。


のはずが。


「……信じられませんわ。私の私物——しかも、よりによってあの『断腸の劇薬』の空き瓶をオークションにかけるなんて」


私は深いフードで顔を隠し、豪華なオークション会場の貴賓席で拳を握りしめた。

隣のアルフォンスも、仮面越しに冷ややかな殺気を放っている。


「落ち着け、エルゼ。……だが確かに、私の寝室のゴミ箱から盗まれたあのボトルが『聖遺物:聖夫婦の初夜の毒』などという名目で出品されるのは、国家の尊厳に関わる問題だ」


ステージ上では、司会者が熱狂的に叫んでいた。

「さあ、お立ち会い! 聖夫婦が初めて殺し愛を誓い合った際、夫人が公爵に振る舞ったとされる伝説の毒薬! 残留する魔力からは、今なお夫人の凄まじい執念……失礼、愛が感じられます! 開始価格は金貨1,000枚!」


(ただの『殺し損ねた証拠品』ですわ!! 高等錬金術師が調べでもしたら……)


会場を埋め尽くした「聖殺愛教」の信者や、スキャンダル好きの富豪たちが、次々と木槌を鳴らす。


「1,500枚! あの毒を浴びた公爵と同じ苦しみを味わいたい!」

「2,000枚だ! 瓶に付着した夫人の指紋を解析する!」


「……もう耐えられませんわ。……3,000枚!」

私が怒りに任せてプレートを掲げると、会場がどよめいた。


「おおっと、謎の貴婦人が3,000枚! だが、負けてはいられません! 3,500枚!」

競り合っているのは、どこかの国の成金伯爵だ。彼は恍惚とした表情で叫ぶ。「私は、この瓶を我が家宝にし、毎日毒の香りを嗅ぎながら眠るのだ!」


「……エルゼ、私に任せろ。……5,000枚だ」

アルフォンスが、低く、威圧感のある声で金額を跳ね上げた。

「おい、成金。……その瓶に相応しいのは、その毒で死にかけた本人だけだと思わないか?」


会場に冷たい空気が走る。アルフォンスから漏れ出る「本物の殺意」を、観客たちは「愛の独占欲」だと勘違いして震え上がった。


「1万枚だ!!」

成金伯爵が、引くに引けず叫ぶ。


「……いいでしょう。アルフォンス、ここは『商工国のルール』で叩き潰しましょう。……5万枚! 加えて、我が家に代々伝わる『心臓を停止させる呪いの短剣』をセットで付けますわ!」


「……5万枚と呪いの武器!? なんという番狂わせ。そこまでして瓶を!」


「6万枚!」

隣の席で、正気を失った伯爵が叫んだ。その瞳は血走り、もはや私たちの「初夜の毒薬ボトル(という名のゴミ)」を御神体か何かだと思い込んでいる。


(負けた…。これ以上の持ち合わせはないし。正体を明かす訳にもいかない)


司会者が涙ながらに叫び、ついに木槌が振り下ろされた。


「落札! 6万枚に決定!!!」


私たちは、自分たちの恥部を回収するために多額の資産を失いかけてしまった。


会場は割れんばかりの拍手に包まれる。

「一旦引きましょう。後ほど、路地で彼から『物理的』に回収すれば済む話」


私たちはフードを深く被り直し、伯爵の背後を追うべく席を立った……その時。

側で大人しく(寝たふりを)していた「聖獣エトワール」が、突如として目を見開いていた。


(いつの間に!?)


「にゃーん (重たい愛のオーラ、ごちそうさま!)」


聖獣は会場の席を素早くすり抜けていくと、驚くべき跳躍力でステージ中央へダイブ。ちょうど係員が老伯爵へ手渡そうとしていた、あの「伝説の空き瓶」を空中でキャッチ……するかと思いきや、全力の猫パンチを見舞ったのだ。


パリンッ!!


静まり返る会場に、ガラスが砕け散る乾いた音が響き渡る。

床には、何十万枚もの金貨と引き換えになるはずだった「聖遺物」が、無残な破片となって飛び散っていた。


「……あああああ!! 私の聖遺物が! 私の救いがぁぁ!!」

老伯爵が崩れ落ちる。会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「……なんてこと。エトワールが、あまりの『愛の重さ(という名の妄執)』を浄化するために、物理的に破壊してしまいましたわ」


私は冷や汗を流しながらも、内心で凄まじい安堵を覚えた。これで私たちの恥部は、誰の手にも渡ることなく、ただの「ガラスのゴミ」に帰したのだ。


「……でかした、毛玉」

アルフォンスも、仮面の下で口角を上げている。


私たちは、混乱に乗じて聖獣を回収。盗み出す手間も、莫大な支払いも必要なくなったことに心から満足し、夜の裏通りへと消えた。


「……ねえ、二人とも。エトワールはただお腹が空いてて、一番エネルギーが詰まってそうな瓶を叩き割っただけだと思うよ?」


テオの冷ややかな指摘を無視し、私たちは軽やかな足取りで宿へと戻った。


「……あああああ!!!!」


メルカトル商業公国の空に、成金伯爵の絶叫が虚しく響き渡っていた。

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