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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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天と地、そして人を潤す商いの調和

背後では、新種目「リベリオン(反逆)」の誕生を祝う鐘の音が、皮肉なほど高らかに鳴り響いていた。


ようやく解放された私たちが、仮面で顔を隠し逃げ込むように向かったのが、メルカトルの最大市場。


市場へ一歩足を踏み入れた瞬間、私たちは絶句した。

そこにはメルカトル商業公国の商人たちが、許可も取らずに製作した「聖夫婦公式(?)グッズ」が山積みになっていたのだ。まともな商人も当然多い。だが、私達はどうしても目に入ってしまう。


「……見てください、アルフォンス様。この『聖殺愛教公認・毒味用銀スプーン』。持ち手に私の顔が彫り込まれていますわ。誰がこんな不気味なもので食事をしますの?」


「私の方こそ聞きたい。この『絶対に折れない、夫婦喧嘩用木剣』とは何だ。……しかもご丁寧に、我々のダンスに感動した信者たちが、すでに会場外で列を作って買い求めているらしいぞ」


「もの凄い商売根性ですわね。流石というべきね」


しかし私は商工国の路地に並ぶ露店を鋭い目で見定めていた。

隣を歩くアルフォンスも、祭りの浮かれた空気には一切目もくれず、武器商人の店先に並ぶ「新型の暗器」を検分している。


「気にするな。芸術家とは往々にして、自分の見たい幻想を他人に投影するものだ。……それよりエルゼ、あちらの店を見ろ。大陸西方の隠れ里で作られたという『不可視の毒糸』があるぞ。君を締め殺すのに最適だと思わないか?」


「あら、素敵。でしたら私は、その隣にある『一突きで心臓を凍らせる魔氷の針』を、あなたの寝顔に添えて差し上げますわ」


私たちは、ダンスで火照った体を冷ますかのように、互いを殺すための最新機材の品定めに没頭した。……しかし、その平穏(?)な時間は、市場のメイン通りに出た瞬間に打ち砕かれた。


「……何ですの、あの騒ぎは?」


通りの中心では、信者や観光客たちが、奪い合うようにして「何か」を買い求めていた。


露店の看板には、私たちの肖像がこれでもかと描かれた、悪趣味な商品の数々が並んでいる。


「……絶望的だな。エルゼ、あれを見ろ。我々のダンスの『殺気』にあやかったという『聖夫婦の絆・鉄釘ネックレス』だ。身につければ、パートナーからの攻撃を跳ね返せるという触れ込みらしい」


「ここまで来ると、いくら私達でも引きますわね」

「まともな連中から見れば大差ないさ」


「もっとひどいものがありますわよ。……『公爵夫人の罵倒ボイス付き目覚まし時計』? 起動するたびに『死になさい、無能な夫』と私の声で叫ぶのですか? 誰が買うのです、そんな悪趣味な道具を」


そこへ、聖獣を小脇に抱えたテオ (馬車に潜り込んで勝手に着いてきた)が、呆れたように大量のパンフレットを私たちに突き出した。


「……残念だけど、完売だってさ。アンタたちがさっき踊った『リベリオン』のステップ教本も、すでに重版が決まったらしいよ。……あーあ。見てよ、あのカップル。早速、アンタたちの真似をして、お互いの急所を狙いながらワルツを踊り始めてる」


「テオ、また宿屋から勝手に抜け出したな」


視線の先では、純朴そうな若いカップルが、ぎこちない手つきで相手の首を絞めるようなポーズ(ダンスの一部と誤認)をとりながら、「これが真実の愛……!」と涙を流し合っていた。


(違う、それはただの暗殺術の基礎動作よ!!)


私たちは、自分たちの殺意が「世界を救う新しい愛のカタチ」として商品化され、飛ぶように売れていく光景に、かつてない敗北感を味わった。


私たちは、自分たちの殺意が「世界を救う新しい愛のカタチ」として商品化され、飛ぶように売れていく光景に、かつてない敗北感を味わった。


「……エルゼ。もう帰るぞ。このままでは、我々の次の喧嘩さえ『期間限定のライブイベント』としてチケットが売られかねない」


「ええ、アルフォンス。……せめて、先ほど買った毒糸の代金だけは、教団の寄付金(上納金)から落とさせていだきますわ」


商業公国の狂乱を背に、私たちは「殺愛」という名の経済効果がもたらす恐ろしさに震えながら宿へ向かう。

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