栄光をその手に
オリンピックのダンス大会を「歴史的革命」で締めくくった私たちは、鳴り止まない喝采を背に舞台裏へと引き揚げる。
そんな私たちの元へ、両手を広げ、羽飾りのついたガウンを翻しながらムッシュ・ヴァルティが突進してきた。その瞳には、芸術家特有の「狂気」に近い涙が溜まっている。
「オー……マイ……ゴッド! エルゼ、アルフォンス! あなたたちは最高よ! 魂のデッドヒートだわ!」
ヴァルティは私の手を取り、情熱的にその甲に口づけを落とした。
彼の手は私は愚か、数多触れ合った、どの貴族の令嬢の手よりもスベスベだった。
アルフォンスと同じだとは到底思えない。
「いい? 誰もが愛を『甘い夢』だと思っていた。けれど、あなたたちが示したのは、愛とは『研ぎ澄まされた殺意』と同じ、鋭利な一閃だということ! あの、お互いの喉元を狙うようなリフト……あれこそ、現代社会という戦場を生き抜く男女の、真実の姿よ!」
「……ムッシュ。あれは、単に彼が私の急所を狙ったのを、私が反射的に抑え込んだだけで……」
私の説明を、ヴァルティは人差し指を唇に当てて遮った。
「シッ! 野暮な説明は不要よ、マダム。芸術は、言葉にした瞬間に死ぬの。……あなたたちは、古臭い伝統に縛られたダンス界に、『憎しみという名の酸素』を吹き込んでくれた。今日から世界中のダンサーが、パートナーの命を狙いながら踊り始めるわ。それが新しいスタンダード(革命)なのよ!」
ヴァルティは深く、優雅に、敬意を込めて私たちに一礼した。
「……ありがとう。私、もう一度ダンスを信じることができそう。……さあ、行きなさい! あなたたちとの再会を、私のようにダンスを愛する人々が待っているわ」
私たちは、天才振付師の「美しすぎる誤解」に押し流されるようにして、舞台裏を後にした。
衣装直し、軽食と……数時間後。
再び舞台へ上がると、会場を揺るがしたのは地鳴りのような「リベリオン!」の連呼だった。私たちは、冷や汗を流しながら表彰台の頂点へと立たされる。
プレゼンターとして現れたのは、メルカトル商業公国の元首と、泣きすぎて顔が腫れたムッシュ・ヴァルティだ。
「……おめでとう、聖夫婦。君たちの踊りは、単なる競技を超えた。これは国家間の不信を『殺意という名の誠実さ』で塗り替える、平和への一撃だ!」
元首から手渡されたのは、純金製のメダル……ではなく、二人の姿が刻まれた「黄金の短剣型トロフィー」だった。(さすが一流の職人がひしめき合う国。仕事が早すぎるわ……)
「……アルフォンス様、見てください。このトロフィー、刃の部分がわざわざ丸められていますわ。殺傷能力ゼロの武器など、とても素晴らしいですわよね」
「全くだ。……エルゼ、あちらを見ろ。ヴァルティが持っているのは何だ?」
ムッシュ・ヴァルティが捧げ持っていたのは、色鮮やかな「月桂冠」ならぬ、鋭い棘が装飾された「茨の冠」だった。
「……受け取って! これこそが、あなたたちの愛の象徴! 触れれば傷つく、けれど離れられない……痛切なまでのパッションの証よ!!」
私たちは観衆の熱狂的な拍手の中、トゲだらけの冠を頭に乗せられ、世界中に「殺愛的ダンスの覇者」として公式に認定された。歴史に残る不名誉な戴冠式を終えた。




