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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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動きが物語となり、常識を破壊する

ライナス王子の「改造教育」から幾日。外交問題が一段落したのも束の間、私たちは次なる国家プロジェクトに駆り出されることになった。


カサンドラ様とライナス王子の「殺愛的再会」から、季節は一つ進もうとしていた。

王都は今、近隣諸国が威信を懸けて競い合う平和の祭典「大公国オリンピア」の話題で持ちきりだ。


開催地は、大陸随一の商工国「メルカトル商業公国」

あらゆる技術と富が集まるその国で、今回最も注目されている新種目が「各国の威信を懸けたペアダンス大会」である。

社交はダンスに始まり、ダンスに終わる。という格言があるとかないとか。


「……やりたくありませんわ、アルフォンス。なぜ私が、見ず知らずの他国の貴族たちの前で、あなたと手を取り合わなければならないの?」


私は鏡の前で、動きやすさを重視した——それでいて暗器を忍ばせやすい——特注のドレスを整えながら毒づく。


「王室の命令だ。『我が国の聖夫婦の絆を、世界に知らしめる絶好の機会』だとな。……断れば、あの信者たちの聖歌が二十四時間、屋敷の周りで鳴り響くことになる」


アルフォンスも不機嫌そうに、軍服をベースにした窮屈な礼装の袖を通す。

彼のベルトには、ダンスのステップを邪魔しない特殊な形状の短剣が仕込まれていた。


「……ふん。アンタたち、それダンスじゃなくて『近接格闘』に見えるよ?」

聖獣を抱えたテオが、呆れたように私たちを見送った。


数日後。


会場となるメルカトル公国の巨大円形劇場には、各国の代表たちが集まっていた。

彼らが踊るのは、古き良き伝統を重んじる「優雅なワルツ」

しかし、審査員席の中央には、ひときわ異彩を放つ人物が座っていた。


大陸最高の振付師にして、ダンスのカリスマ。

エルフの「ムッシュ・ヴァルティ」

そう、あの格言を貴族界に知らしめ、ワルツを農民ダンスから貴族の社交の場へと昇華させ、さらに数多の社交ダンスの常識を生み出してきた稀代の天才。


「……ノン、ノン、ノン! 退屈だわ! どの国のダンスも、型にはまった人形劇! 愛がないのよ、魂を削り合うような『パッション』が!」


優雅かつ妖艶な天才は、扇を叩きつけ、披露されるダンスを次々と酷評していく。

そんな中、ついに私たちの出番がやってきた。


「……行くぞ、エルゼ。……殺すつもりで来い」

「言われずとも。……あなたの足の甲をヒールで踏み抜き、血飛沫を披露して差し上げますわ」


音楽が始まった。

だが、私たちが披露したのは、誰も見たことのない奇妙な動きだった。


互いに背を向け、まるで相手の気配を殺すかのような静かな滑り出し。(ガチ)

そこから突如、アルフォンスが私の喉元へ手を伸ばす。(本気) 私はそれを華麗なバックスピンでかわし、彼の懐へ飛び込み、扇を首筋に滑らせた。(抑えきれない殺意)


(これは、かつて一世を風靡した『ワルツ』の誕生秘話になぞらえた革命。当時、男女が密着して踊るワルツは『卑猥で暴力的なスキャンダル』と言われた。ならば、私たちはさらにその先——『死を予感させる緊迫感』をダンスに昇華させたのだ)


離れては急接近し、組み合っては相手を突き放す。

それはダンスという名の、命、主君、己自身を賭けた「騎士の決闘」そのもの。

しかし、相手の次の動きを完璧に予測し、コンマ一秒の狂いもなく反応し続けるその姿は、観衆には「究極の信頼」が生む奇跡に見えた


ダンスが終わると。


ムッシュ・ヴァルティが、ガタリと椅子から立ち上がった。そして感動の涙声で声を上げる。


「……アンビリーバボー! これよ……これこそが私が求めていた『革命』! 互いの命を奪い合おうとするほどに激しい渇望! 物理的な接触を超えた、魂の『クロスカウンター』だわ!!」


彼は涙を流し、溢れんばかりの喝采を送ってくる。


「ワルツ(回転)の時代は終わったわ! これからは『リベリオン(反逆)』の時代よ! 公爵、夫人……あなたたちは、ダンスの歴史を百年進めてしまったのね!」


((違う、ただ単に相手の急所を狙い合っているだけなのに!!)


ムッシュ・ヴァルティに続き、拍手を送る大勢の人々。

拍手の嵐の中、私たちは「ダンスの神」として大陸中にその名が轟くことになってしまった。

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