コンスタンティノープル陥落
狂信者たちの咆哮と、王妃様のすすり泣きが入り混じる混沌の晩餐会。
ついに、最後の仕掛けが発動する時が来た。
「……仕上げですわ。王子、最後の一口は、最も甘く、最も危険な果実を」
私が指を鳴らすと、天井のシャンデリアが不自然に揺れ、会場全体の魔力濃度が限界まで跳ね上がった。デザートとして運ばれてきたのは、銀色の炎に包まれた氷菓。
「これは『真実の吐息』。食べ終えた瞬間、お二人の魔力が衝突し、衝撃波となってすべてを剥ぎ取ります。……耐えきれねば、その命、保障いたしませんわ(大袈裟)」
アルフォンスが、あらかじめ用意していた「爆縮魔法」のトリガーに手をかける。
ライナス王子は、もはや躊躇わなかった。彼は隣の女性の肩を抱き寄せ、その「呼吸の周期」を完璧に掌握している。
「……来い。君の動きは、すべて私の計算……いや、私の感覚の中に収まっている」
二人が最後の一口を飲み込んだ瞬間、アルフォンスが指を弾いた。
ドォォォォォォン!!
凄まじい光と衝撃が円卓を襲う。信者たちは「聖なる爆発だ!」と叫びながら吹き飛ばされそうになり、王妃様は「ああ、愛が爆発したわ!」と歓喜の悲鳴を上げる。
爆風が収まり、デザートの残りカスが舞い散る中。
衝撃によって二人の仮面は粉々に砕け散り、その素顔が露わになっていた。
「……カ、カサンドラ……!?」
ライナス王子は、隣で自分にしがみついている女性の顔を見て、目を見開いた。
そこには、冷え切った自国で「無機質な置物」だと思っていた、自分の妻がいた。
しかし、今の彼女は違う。
命懸けの試練を乗り越え、頬を紅潮させ、瞳には「戦友」への信頼と、剥き出しの「熱」を宿している一人の女性だった。
「ライナス様……。私、ずっと……あなたに、私を見て欲しかったの……!」
王子は硬直した。
彼の脳内にある「カサンドラ:同盟の担保(価値固定)」というデータが、目の前の「命を共に削り合った熱狂的な女」という実像によって激しく上書きされ、バグを起こし始めたのだ。
「……馬鹿な。私は、この女の呼吸を読み、命を預けていたというのか? ……この、非合理の塊のような、私の妻の……?」
彼は震える手で、カサンドラの頬に触れた。
それは「バイタルデータの確認」ではない。彼が人生で初めて、計算外の「体温」に触れた瞬間だった。
「おお……! 奇跡だ! 殺意の果てに、真実の柱が姿を現した!」
信者たちが跪き、地を這いながら二人を称える。
物陰から飛び出した王妃様が、二人を抱きしめんばかりの勢いで叫んだ。
「おめでとう、カサンドラ! ライナス王子! お二人は今、聖夫婦の導きにより、『殺し合うことでしか繋がれない、究極の絆』を手に入れたのですわ!!」
(……ちょっと、王妃様。言い方が不穏すぎますわよ)
私はアルフォンスと視線を交わした。
ライナス王子は、今や「妻の一挙一動を注視しないと落ち着かない」という重度の依存症(という名の生存本能)を植え付けられている。
「……エルゼ。ひとまず、国際問題としての『離婚』は回避されたようだが……」
「ええ、アルフォンス様。……代わりに、あちらの国に『殺愛教』の支部が爆誕しそうな勢いですわね」
こうして、一つの家庭が救われ(?)一つの国に新たな狂気が輸出される準備が整ってしまったのである。
めでたし、めでたし?




