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ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました。  作者: 逆立ちハムスター


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要塞王子の静かなる検分

私とアルフォンスが隣室で「毒の調合」と「物理トラップ」の配置について激論を交わしている間、応接室に残されたライナス王子は、ただ漫然と待つような男ではなかった。


彼は懐から小型の計算尺と手帳を取り出し、この屋敷の魔力濃度、廊下を歩く使用人たちの歩法、さらには調度品の配置から導き出される「防衛効率」を凄まじい速度で数値化していたのだ。


(……この屋敷、合理的すぎる。公爵夫妻の『愛』とやらが非合理な感情の産物だというのなら、なぜこれほどまでに無駄のない殺機が空間を支配しているのだ)


王子のペンが止まる。彼は、この「殺愛」という概念を単なる狂気として切り捨てるには、あまりにリスクが高いと考えた。急速に変化する国際情勢、新たな魔導航路の開拓。旧来の「愛」などという不確かなものにすがる者は淘汰される。しかし、公爵夫妻が提唱する「生存戦略としての愛」がもし実在する技術ならば、これを取りこぼすことは国益を損なう致命的な過失になりかねない。


「……無意味な拒絶は、退化と同じだ」


独り言を呟いた彼の視線の先に、一匹の毛玉が音もなく飛び乗ってきた。

聖獣エトワール。

この世で最も「真実の愛」を持つ者の元にしか姿を見せないとされる、伝説の存在。


「……これが聖獣か。文献によれば、愛の波動を感知して肉体の色を変えるというが」


王子は冷ややかな瞳で、猫を観察する。彼はまだ、この猫が本物であるとは信じていない。公爵夫妻が民衆を扇動するために用意した、高度な幻影魔法の産物ではないか――。


彼は時間を惜しみ、猫の毛並みの光沢を光学的数値で測ろうと手を伸ばす。

その瞬間、聖獣が「ふにゃん」と喉を鳴らし、王子の指先に頭を擦り付けた。


(……温かい。いや、この温感は、生体特有のゆらぎがある。単なる幻影では……ないのか?)


聖獣の黄金の瞳に見つめられ、王子の「難攻不落のロジック」に、ごくわずかな亀裂が生じた瞬間。もしこの猫が本物だとしたら、目の前の殺伐とした公爵夫妻には、自分の計算式には存在しない「何か」が確実に存在していることになる。


「……よし。検証の精度を一段階上げる必要があるな」


王子がわずかにガードを緩め、猫の背を「効率的な圧力」で撫で始めた……その時。

扉が開き、私とアルフォンスが、仕上がりたての「地獄の招待状」を手に戻ってきた。


「お待たせいたしましたわ、王子。……あら、エトワールと仲良くなさるなんて、意外と素質がおありのようですわね?」


私は王子の指先がわずかに震えたのを見逃さなかった。


「では、さっそく始めましょうか。


王子の理性を物理的に揺さぶる時間がやってきた。

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