聖夫婦の奏上
「……というわけで、カサンドラ様は現在、我が屋敷にて『愛の深淵』を学んでいらっしゃいます」
私は王宮の謁見の間で、これ以上ないほど神妙な面持ちで王と王妃に報告していく。
隣ではアルフォンスが、さも国家の行く末を憂う忠臣のような顔で、仰々しく言葉を継ぐ。
「陛下、これは単なる夫婦喧嘩ではありません。海上貿易の要であるエランディア国との絆が、愛という名の綻びから崩壊しようとしているのです。……カサンドラ様の心の傷は深く、このままでは彼女は絶望のあまり、自国との貿易路を閉ざしかねません」
(実際は、彼女が私たちの殺し合いを真似して、旦那様を物理的に閉ざしかねないだけなのだけれど)
王と王妃は、顔を見合わせる。特に王妃様は、カサンドラ様の「愛への絶望」を聞き、その瞳に同情の炎を燃やしている様子。
「まあ……! あの愛らしいカサンドラがそんなにも苦しんでいたなんて。……でも安心なさい、彼女は今、世界で最も『情熱的な愛』を知るあなた方の元にいるのですもの。道は必ず拓けるわ!」
王も深く頷き、顎をさする。
「だが、当のライナス王子は手強いぞ。あの徹底した合理主義者を納得させ、我が国へ招く口実などあるのか?」
アルフォンスは、待ってましたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。
「ございます。……『新航路開拓における、魔力伝導率の共同研究』これならば、あの数字しか信じない王子も、首を縦に振らざるを得ないでしょう。資源魔と伺っています故」
(実際は、魔力という名の『殺意の波動』をぶつけ合う実験に巻き込むだけ)
「素晴らしい! 経済と魔術、そして愛の融合ですわね!」
陛下も王妃を見て笑顔で頷いている。
王妃様は手を叩いて快諾。
「許可しますわ。ライナス王子を正式に招待なさい。……ただし、カサンドラにはまだ内密に。再会の瞬間は、最高にドラマチックな、貴方達の聖典の如く『愛の奇跡』として演出するのです」
こうして、私たちは国王夫妻の全面的なバックアップ(と、余計な過剰演出の約束)を取り付けることに成功。
王都へ向かうライナス王子の馬車には、外交官ではなく、私たちの「殺愛教」の信者が護衛(という名の監視)として同行することに。
「……エルゼ。これで外堀は埋まった。……あとは、あの石像のような王子を、どうやって『妻の一挙一動に怯え、注視する夫』に改造するかだ」
「……ええ、アルフォンス。……まずは、当家の屋敷そのものを、一歩歩くごとに命の危険を感じる『愛の訓練場』に改装しておくとおうのは、どう?」
テオが聖獣を抱えながら、冷ややかに呟やいてくる。
「……わざわざ余計な事に深く首を突っ込んで、後戻りできなくしちゃって。……ま、せいぜい頑張ってよ。国際問題が『爆発』する前にさ」




